文=和田悟志

神奈川大の快進撃

 一度手にした自信ほど、効果が絶大な特効薬はないかもしれない。
「結果が出たことで、(昨年までと)同じことをやっていても、自分たちの取り組み方は間違っていなかったんだということがわかったのだと思います」
そう話すのは、神奈川大の大後栄治監督だ。今年の箱根駅伝で総合5位。実に、12年ぶりに次大会のシード権を獲得すると、その後も神奈川大勢の快進撃は続いた。

 2月25日のクロスカントリー競技の日本選手権(福岡国際クロスカントリー大会)では、シニア男子12㎞で大塚倭(3年)が4位、大野日暉(3年)が5位に入り、ともに3月26日にウガンダで開催される世界クロスカントリー選手権の日本代表に選出された。

 さらに、今夏に台湾で行われるユニバーシアードのハーフマラソン代表選考レースだった日本学生ハーフマラソン選手権(3月5日、東京都立川市開催)では、エースの鈴木健吾(3年)が激走。
「クロカン組の2人が世界を決めたので、チームとしての流れがよかった。負けられないという気持ちがありました」
と、チームメートの活躍に刺激を受けて、2位に39秒もの大差を付ける圧勝で優勝を飾り、世界への切符をつかんだ。

 もうひとりのエース格である山藤篤司(2年)は、予定していた福岡クロカンを回避したが、4月の兵庫リレーカーニバルに出場を予定していて、トラック種目でのユニバーシアード出場を目指している。さらに、箱根未出場だが、昨年3000m障害でU20世界選手権に出場した荻野太成(1年)もおり、格となる選手が複数残る新年度は、注目のシーズンとなりそうだ。

雑草軍団の栄枯盛衰

 かつて1990年代後半に輝きを放ったのが、神奈川大というチームだった。97年の箱根駅伝では、前年の途中棄権から立ち上がり、創部65年目にして初優勝を飾ると、翌年は連覇を果たした。“雑草軍団”ともいわれたたたき上げがチームカラー。“金太郎飴”と揶揄(やゆ)されたこともあったが、まさにチーム全員で勝ち取った栄冠だった。

 しかし、隆盛は長くは続かなかった。2000年に入って、箱根駅伝がスピード化の時代を迎えると、“雑草軍団”は苦戦が続く。06年に16位に落ちてからは、箱根のシード権が遠いものになった。さらに、09年10月の箱根駅伝予選会では本戦の出場権を逃す憂き目にもあった。復活を期すどころか、かつての名門はどん底にあった。

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5カ年計画に足りなかった“自信”

 その翌年から掲げられたのが、「5カ年計画」だった。スピード化に太刀打ちするためにスカウトを強化。エース育成を掲げて強化に乗り出し、我那覇和真(現・日清食品グループ)や西山凌平(現・トヨタ紡織)といった、1年目から活躍する選手も出てきた。また、12年には中山キャンパス内に全長1100m、高低差20mのウッドチップのクロスカントリーコースを作るなど、ハード面も整備した。一方、箱根駅伝では、16人のメンバーを選手登録できるところ、あえてフルエントリーを避けるなど大鉈(おおなた)を振るったこともあった。

 そして、5カ年計画の成果は徐々に現れる。5カ年計画の5年目となった14年10月の箱根予選会ではトップ通過を果たすなど、復活のときは近いかに思われた。しかし、本戦では17位と結果は振るわなかった。確実にチームに力はついているのに、まだ何かが足りなかった。その足りなかったものが自信だったのだろう。なかなか結果が伴わなかったことが悪循環を招き、パフォーマンスを発揮しきれなかった。

 2016年度は、シーズンを通して鈴木健吾が好調で、3年生にして駅伝主将をも務め、名実にともにチームを牽引(けんいん)した。箱根駅伝でも、留学生や各校のエース格が集う2区で区間賞を獲得する走りを見せ、チームに勢いをもたらした。それが、箱根駅伝総合5位、その後のチームの躍進へとつながっている。5カ年計画の5年目に入学したエースが、好調の波に乗るチームの象徴だ。「各自がしっかり目標を設定して取り組んでおり、あまりレベルの低いことをいう必要がなくなった」と大後監督が話すように、チームメートも鈴木の活躍に引っ張られ一段ステップが上がった。

 新年度のチームは、箱根駅伝の往路優勝がひとつの目標だという。
「トラックシーズンでも、しっかり青学、東洋、東海などに食らいついて、駅伝でもしっかり戦えるように、1年間こつこつやっていきたい」
と鈴木はいう。箱根で総合優勝を狙うにはまだまだ中堅層の強化など課題はあるが、混戦が予想される新シーズンの台風の目となってもおかしくはない。

 また、鈴木個人にとっても、8月に台湾で開催されるユニバーシアードは、同様に真夏の開催になる2020年の東京オリンピックへの布石にもなる。来年2月にはマラソン挑戦も予定しており、学生ラストイヤーはさらに高いレベルでパフォーマンスを見せてくれそうだ。

 かつての名門が輝きを取り戻す日は近い。

和田悟志

著者プロフィール 和田悟志

1980年生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。