文=池田敏明

カズもビックリ。55歳の現役フットボーラー

 2017年2月26日、J2リーグの開幕戦において、横浜FCの“キング・カズ”こと三浦知良が先発出場した。この日は奇しくもカズの50回目の誕生日。彼は史上初の50歳Jリーガーとなった。そこから約2週間後の3月12日、カズはザスパクサツ群馬戦で今シーズン初ゴールを決め、自身が持っていたJリーグ最年長得点記録を50歳14日へと更新した。

開幕から3試合連続で先発出場となった三浦は40分、味方選手のシュートがこぼれたところに詰めて先制点。嬉しい今季初ゴールとなった。得点後にはカズダンスも披露。得点を喜んでいる。  このゴールにより、三浦は自身の持つJリーグ最年長得点記録を50歳と14日に塗り替えている。
カズが今季初ゴール! J最年長ゴール記録更新でカズダンスも披露 | サッカーキング

 20代で引退する選手も多く、30代に入れば“ベテラン”と呼ばれるサッカー界において、50歳になってなおプロとしてプレーし続けるなど、並大抵の努力でできるものではない。日ごろからストイックにトレーニングに励み、入念に体をケアし、心身ともに充実させなければならない。プロとしての姿勢には頭が下がる。

 他国、そして他の競技にも、カズのように常人離れしたキャリアを送っている選手はいる。まずは同じサッカー界だが、ギネスブックに「世界最高齢の選手」として記載されているのは、ウルグアイ2部のカナディアンSCというクラブに所属するロベルト・カルモナという選手だ。生年月日は1962年4月30日、カズより5歳年上で、間もなく55歳になる。2016年はわずか1試合、13分程度のプレーにとどまるなど、選手としての存在価値はあまり高くないように思えるが、若い選手に示す真面目な練習態度やアドバイスなど、プレー以外の面でも絶大な貢献を果たしている。シーズンオフには国内外のクラブからのオファーが殺到する中、引き続きカナディアンSCでプレーすることを決めているという。

 なお、ヨーロッパでは初代バロンドール受賞者であるイングランドのスタンリー・マシューズが、現在のカズと同じ50歳まで現役を続けた選手として知られている。彼はキャリアの大半を1部リーグでプレーしており、現役最後となった64-65シーズンも、出場はわずか1試合だけだったが、1部リーグの選手としてプレーし、引退している。彼もまたストイックな生活を心がけ、プレーの面でも非常に紳士的だった。「すべての選手の模範」。それがマシューズに対する評価だった。

“参考記録”が多い中にあって際立つカズの現役ぶり

©Getty Images

 サッカー以外ではどうだろうか。分かりやすい例として、アメリカの4大スポーツの最高峰のリーグを見てみよう。

 まずは野球のメジャーリーグ(MLB)から。歴代最年長の出場記録は、65年のサチェル・ペイジ投手(カンザスシティ・アスレチックス)の59歳80日だ。ただし、彼は53年までセントルイス・ブラウンズに所属した後、一線からは退いて主にセミプロチームで投げ続けていた。65年の記録も、アスレチックスと1試合だけの契約で先発登板したもので、“参考記録”の要素が強い。

 34年に58歳350日で出場したチャーリー・オレアリー内野手(ブラウンズ)もペイジと同じようなもので、彼は13年にセントルイス・カージナルスでプレーした後、セミプロリーグでプレーイングマネジャーとして活動し、34年に引退試合のような形でブラウンズと契約し、代打出場を果たした。彼はこの打席でタイムリーヒットを放ち、MLSでの史上最年長安打と打点の記録を保有している。33年に57歳16日で出場したニック・アルトロック(ワシントン・セネタース)は、元々はピッチャーだが、ケガの影響でキャリア晩年は登板機会が限られ、代打で出場する機会が増加。33年の出場も代打でのものだった。

 バスケットボールのNBAでは、48年にナット・ヒッキー(プロビデンス・スティームローラーズ)が記録した45歳363日が最年長だ。ただ、彼は当時、同チームのヘッドコーチを務めており、試合出場もこの1試合のみ。2試合以上に出場した選手の中で最年長は、07年のケヴィン・ウィリス(ダラス・マーベリックス)の44歳224日。この時、彼は10日間の契約でマーベリックスに加入し、レギュラーシーズンのラスト5試合に出場したが、目立った活躍を見せることができず、プレーオフでの出場機会もなかった。

 アメリカンフットボールのNFLでは、76年にジョージ・ブランダ(オークランド・レイダース)が記録した48歳109日が史上最高齢。アメリカン・フットボール・カンファレンスの優勝決定戦であるAFCチャンピオンシップゲームに出場し、41ヤードのフィールドゴールも成功させたが、チームは惜しくも敗れ、スーパーボウル出場はならなかった。また、NFL通算382試合出場、2544得点など数々の記録を保持しているモーテン・アンダーセン(アトランタ・ファルコンズ)は、史上2位となる47歳133日での出場記録を保持している。

 アメリカンホッケーのNHLでは、“ミスター・ホッケー”ことゴーディ・ハウ(ハートフォード・ホエーラーズ)の52歳11日が最高齢だ。彼は43歳の時、手首のケガの影響で一度、引退を余儀なくされたが、後にWHAというプロリーグで現役復帰。WHAが閉鎖され、所属チームがNHLに合併される形でNHLに復帰すると、レギュラーシーズン、プレーオフ合わせて83試合に出場した。彼以来、50代でNHLの試合に出場した選手はいない。現在、その金字塔に最も近い位置にいるのがヤロミール・ヤーガー(フロリダ・パンサーズ)だ。98年の長野五輪にも出場したヤーガーは現在45歳。50歳まではあと5年あるが、16-17シーズンも68試合に出場するなど衰えを見せておらず、大台到達に期待がかかる。

 調査した競技数に限りがあるので一概には言えないが、一般的には40代半ばが、アスリートがトップレベルで活躍できる限界と言えるだろう。野球の場合は勝敗に関係ない場面での代打出場や打者1人に対する登板などで“出場機会を稼ぐ”ことはできるが、バスケットボールやアメリカンフットボールなど、個人能力がチームに影響を与えやすい競技では、年齢を重ねながら戦力として機能し続けるのは難しい。その意味においても、50歳で公式戦に先発出場し、ゴールを決めてチームを勝利に導くカズは歴史的な選手だと言える。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。