文=松原孝臣

たくさんの人に応援されることで選手も伸びる

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 2016年12月下旬に行われたフィギュアスケートの全日本選手権は、羽生結弦の欠場はあったが、多くの観客を集め、盛況のうちに幕を閉じた。その光景は珍しくはなく、もうずっと繰り返されてきたものではあるが、長年携わってきた人にとっては、隔世の感があるようだ。2000年頃からイベントなどを手がけてきたスタッフの一人は言う。

「2003、4年頃などはアイスショーをやっても空席が目立つなんてことは珍しくなかったですから。今のように全日本選手権にしろ、アイスショーにしろ、人気になるなんて考えもしませんでした」

 その後、数々の選手の活躍を糧に今日にたどり着いている。そこに好循環が生まれていると、そのスタッフは続ける。

「安藤美姫さんが雑誌の表紙になるなどして人気が出て、浅田真央さんが出てきて、荒川静香さんのトリノ五輪での金メダルがありました。男子も高橋大輔さん、羽生結弦さんと、切れ目なく来た。根強いファンは昔からいましたが、その数が圧倒的に増えました。そのおかげでいろいろな面でいい影響が出ています」

 その一つは、競技環境の向上だという。

「ファンが増えて、会場がいっぱいになるのもそうですが、テレビで中継され、スポンサーも次々に手をあげるところが出てきた。みんなに行き渡るわけではないですが、少なくとも、経済的な面ではよくなったと思います」
 
もう一つは、選手への好影響だと語る。

「フィギュアスケートは観られることが前提の競技です。たくさんの人に見られる、応援されることで選手も伸びます」

スポーツの発展にファンは不可欠

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 テレビ解説や指導者として活躍する元五輪代表の本田武史氏が語った言葉が連想される。

「今はたくさんのファンの方々に観てもらえるわけです。それがプレッシャーになるかもしれませんが、やっぱり、声援や拍手を受けて、よしやろう、となるし、拍手してもらったときの興奮というか喜びは残るんですね。そういうことを考えれば、たくさんのファンの方がいることは大きいですね」

 先の「好循環」とは、選手の頑張りでフィギュアスケートファンが増える→競技環境の向上あるいは選手のモチベーションへの好影響→好成績→ファンが増える、こうした構図だろう。競技の発展には、ファンの存在を欠かすことはできないことをも示している。オリンピックの競技の中でも、認知度が高くない競技の選手たちはしばしば語る。

「もっと注目してもらうためにメダルを獲りたいです」
「存在を知ってもらっていないのは、やっぱり寂しいです」

 好循環が始まるきっかけとなるのは、やはり、選手にほかならない。それを肌身に感じるから、フィギュアスケートの活況があるように、競技の未来を切り開きたいという思いで、その担い手になろうとする。さまざまな競技を見渡せば、フィギュアスケートに限らず、スポーツの発展にファンは欠かせないことをも物語っている。

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松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。