文=斉藤健仁

セブンズへの選手派遣に消極的

「サクラセブンズ」の愛称で親しまれる女子セブンズ日本代表に注目が集まる一方で、男子セブンズ日本代表は2016年リオ五輪で立派な成績を残している。初戦で「オールブラックス」ことニュージーランドを破る快挙を達成して世界に衝撃を与えると、勢いそのままにケニア、フランスなどを撃破し、オリンピックを4位で終えた。

 あと一歩のところでメダル獲得を逃した男子セブンズは昨秋、20年東京五輪でのメダル獲得を目標に掲げ、かつてニュージーランド代表のアシスタントコーチだったダミアン・カラウナ氏をヘッドコーチ(HC)として招聘し、新たにスタートを切った。

 ところが、昨年12月に開幕した16−17シーズンの「ワールドシリーズ(WS)」で、不振にあえいでいる。いったい何が起きているのだろうか。

 男子セブンズ日本代表は、F1のように世界10カ所を転戦するWSで、14−15シーズンに続いて16−17シーズンもコアチーム(全10大会に優先的に出場できる15チーム)に昇格。だが、ここまでの8大会で一度もベスト8に入れず、現在最下位。14位のロシアとの差は9ポイント。5月にあと2大会残されているが、降格の危機に面している。

 18−19シーズンのWSは五輪予選も兼ねると予想されており、世界の強豪と対戦経験を積むことが東京五輪での活躍に欠かせないため、コアチームにとどまりたいのだが、実は今シーズンのWSが開幕した当初、男子セブンズ日本代表はリオデジャネイロ五輪メンバーがゼロ、12人中半数が大学生という若いチームで戦わざるを得なかった。

 日本のラグビーは企業チームに下支えされており、トップリーグの各チームは15人制ラグビー強化のために選手を獲得している。そのため、ラグビーのハイシーズンに選手をセブンズに――それが日本代表だとしても――派遣することには消極的なのだ。リオデジャネイロ五輪までの4年間も同様だったが、オリンピックで4位になっても、20年は東京五輪が控えていても、その問題は一向に解消されていない。

固定できないメンバー

©Getty Images

 また、カラウナHCは就任以来、ラックをあまり作らず、ボールを継続する「ジャパン・フレア(閃き)」というラグビーを掲げているが、普段15人制ラグビーをプレーしている選手たちがセブンズに対応できなかったり、ディフェンスを整備できなかったりして、攻撃では通用する部分があっても、強豪相手には失点を重ねてしまい、なかなか白星を挙げることができない。

 そして何より、メンバーを固定できないことの影響が大きい。WSの過去8大会で遠征に参加した選手は約30人にのぼる。ケガで招集できなかった選手もいるが、一方で、昨年度限りで15人制の企業チームから離れたために招集されなくなった選手や、15人制の企業チームに新たに採用されたために、セブンズへの参加を控えている例もある。

「企業がリリースしてくれないケースもあれば、ケガの場合もある。新しいメンバーが入ってきたら、また同じことを教えないといけない。2歩進んでも1歩下がるという状態が続いている。今は難しい状況に置かれていて、進歩がゆっくりだが、企業と大学と関係性を構築している段階です」(カラウナHC)

 各大会の前に一定期間、強化合宿を行っているが、新たに入ってきたメンバーに組織ディフェンスを一から教えて本番に向かうという「同じことの繰り返し」(経験豊富な選手)。カラウナHCも「メンバーを固定することができていれば、何度かカップトーナメント(ベスト8)に進出できていたはずだが……」と悔しそうに語る。

協会が選手とプロ契約も

 もちろん、悪い話ばかりではない。リオ五輪では直前に惜しくもメンバーから漏れた小澤大(トヨタ自動車)、鶴ヶ﨑好昭(パナソニック)のふたりが「やっぱりオリンピックに出たい」と企業側から許可をもらい、今シーズンはセブンズに集中して取り組み、リーダーとして若いチームを引っ張っている。

 2月、3月になって15人制ラグビーのシーズンが終わると、経験豊富な橋野皓介、オリンピックメンバーである坂井克行、副島亀里ララボウラティアナラらが男子セブンズ日本代表に参加し、チーム力は向上。また、オリンピック経験者が抜けた一方で、中野将宏(九州共立大4年)、韓尊文(流通経済大3年)、シオシファ・リサラ(花園大4年)といった新たな力が育ってきたことも事実だ。

 日本ラグビー協会も、ただ手をこまねいてばかりいるわけではない。コアチームの強豪チームの協会が行っているように、協会が選手とプロ契約を結ぶ準備を進めており、近日中に契約を結ぶ選手や15人制の企業チームに所属しながらセブンズに集中する「コアスコッド」の発表がありそうだ。

 だが、現実的には、企業の社員としてラグビーを続けたほうがセカンドキャリアという点で有利に働くため、なかなか上手くいっていない。また「1年中セブンズをやるような選手は採らない」とトップリーグの強豪チームの関係者が語るように、両者の間には溝があり、コンセンサスを取るのはそう容易なことではない。

 18年にはアメリカのサンフランシスコでセブンズのワールドカップが開催される。もちろん、20年には東京五輪が控えており、セブンズの強化はまったなし、である。男女セブンズの総監督として強化にあたる岩渕健輔氏は「東京五輪でベストになる選手を選びたい」「東京五輪後にしっかりとしたシステムを作りたい」と先を見据える。

 まずは今後の強化のためにも、なんとかしてWSのコアチームからの降格から免れるよう、コーチや選手には目の前の大会に全力を注いでほしい。そして、来シーズンは、日本ラグビー協会と企業チームがより良い関係を築き、選手たちがセブンズに集中できる環境を整えてほしい。それなくして、ワールドカップやオリンピックでの躍進はないだろう。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k