文=大島和人

日本の悲願だったスーパーラグビー参戦

 ラグビー界には「分かりにくいこと」が色々ある。謎は面白さの種でもあるのだが、分からないまま見ている人、分からないから避けている人がいたら勿体ない。分かりにくい事象の一例が「スーパーラグビー」というリーグ戦だ。

 日本ラグビーのトップ選手は、1年間に三つのカテゴリーを戦っている。一つはトップリーグ(ジャパンラグビートップリーグ)で、もう一つはスーパーラグビー。そしてジャパン(日本代表)だ。スーパーラグビーもトップリーグも、「強豪の集まるリーグ戦」ということは名前で伝わるだろう。しかしそれぞれどういう位置づけのリーグか分からないという指摘をある編集者から聞いてハッとした。可能な限り分かりやすく、具体的にその違いを説明してみたい。

 日本は2015-16シーズンから念願のスーパーラグビー参戦を果たした。それは日本のラグビー人にとって、実現不可能と思われていた夢だった。スーパーラグビーはニュージーランドやオーストラリア、南アフリカといったW杯の優勝経験国が参加する世界最高峰のリーグ。サッカーに例えるなら日本がEURO、UEFAチャンピオンズリーグに参加するのと同じレベルの話になる。

 スーパーラグビーに参加する和製チームの名称は「ヒトコミュニケーションズ・サンウルブズ」と言う。ただしこのチームは日本代表でなく、他競技でいう「クラブチーム」とも少し違う。毎年2月から7月までの21週間に渡り活動する、期間限定の選抜チームだ。またヒトコミュニケーションズ社はオフィシャルチームスポンサーで、いわゆる「親会社」ではない。スタジアムのネーミングライツと同様の形で、チームは企業名を冠している。

 実業団チームによる日本の最高峰・トップリーグは、昨季の開催期間が8月末から年明けの1月末まで。つまりスーパーラグビーのシーズンイン直前に終了する。16-17シーズンは2月25日のハリケーンズ戦から開幕しており、今まさに佳境だ。

プロ容認で始まったスーパーラグビー

©Getty Images

 スーパーラグビーの実質的なスタートは1996年になる。ラグビーユニオンはアマチュアを貫いてきたが、95年にプロを容認するオープン化を宣言。そこから一気にプロ化が始まった。90年代末はメディアマネーの流入により、スポーツがビッグビジネスとなりつつあった時期でもある。オーストラリア出身のメディア王ルーパード・マードック氏率いるニューズ・コーポレーション社が仕掛け人となり、スーパー12(当時)がスタートした。

 ラグビー界では北半球と南半球の勢力が拮抗している。北半球側も代表チームによる「6ネーションズ」という国別対抗戦があり、各国のリーグ戦以外にUEFAチャンピオンズリーグに相当する「ハイネケンカップ」がある。日本はラグビー的に言うと南半球・環太平洋陣営。NZ、オーストラリア、トンガ、サモアなどの国々と人的な結びつきが強い。

 スーパーラグビーに参加するのは「地域色の強い期間限定のプロチーム」だ。当初参加していた12チームの内訳はニュージーランドが「5」、南アフリカが「4」、オーストラリアが「3」となっていた。今は新規参入チームが加わり、日本やアルゼンチンも含めた18チームが参加している。

 昨シーズンのチャンピオンであるハリケーンズは、ニュージーランド北東の下部に位置する9つのラグビー協会に所属する選手で編成されている。サンウルブズは日本人が主体で、外国出身選手もトップリーグ所属が大半。外国人枠はないが、日本に縁のある選手を中心に構成されたチームだ。ただしエドワード・カークのような、トップリーグの在籍歴がないのにサンウルブズと契約した選手もいる。

サンウルブズ以外でスーパーラグビーにジャパンの参戦する選手も

©Getty Images

 トップリーグとジャパンの二階建てだった日本ラグビーに、スーパーラグビーという「中二階」が割り込んできたことによる無理もあった。15年秋のラグビーワールドカップを終えた選手たちは、全く休養なく同年のトップリーグを迎え、さらにスーパーラグビー初年度に突入した。そして翌春には代表活動も再開された。これではラグビーという過酷な競技をやる上で不可欠なオフが無い。ジャパン組からは辞退者が出たし、トップリーグに参加する外国籍選手も所属企業がスーパーラグビーへの派遣を渋ったケースもあると聞く。

「日本のチーム」といってもサンウルブズに代表チームのような拘束力はなく、それぞれが原則的にプロとして契約を結び、実力に見合った報酬を受け取ることになる。ラグビーにおいては代表チームも「協会と契約するプロ」という側面が強く、強豪国は高額な報酬が発生する。

 ジャパンの選手がサンウルブズ以外と契約した例も少なくない。あの五郎丸歩は昨年、オーストラリアのレッズに所属していた。ジャパンの前主将であるリーチ・マイケルは今季もチーフスでプレーする。サンウルブズは運営会社もゼロからのスタートだったため、特に初年度はチーム編成が後手を踏んでいた。

 サンウルブズは初年度(15-16シーズン)を1勝1分け13敗の最下位で終え、今季も5試合を終えて全敗と苦戦している。ただしジャパンの中心選手がサンウルブズに集まり、時間をともにすることは、そのまま「代表の活動期間が伸びた」という意味に近い。加えて相手はジャパンが今まで戦おうと思っても戦えなかった超格上レベル。19年のラグビーワールドカップ日本大会に向けた強化を考えれば、大きな好影響があることも確かだ。

 クラブ、スーパーラグビー、ジャパンという「三階建て構造」は少し分かりにくい。しかしスーパーラグビーはクラブと代表の『いいとこ取り』をしているユニークなカテゴリーだ。何より世界最高峰のリーグに参戦する、そんな舞台で戦う様子を見るというのは我々にとって絶好のチャンス――。戦いは厳しいが、選手たちは19年のワールドカップ日本大会に向けて、何としても実りあるシーズンを送ってほしい。

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大島和人

著者プロフィール 大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。