文=生島淳

当然、削減対象とされるチームの関係者は怒りを露に

 スーパーラグビー(SR)に参戦している日本のサンウルブズは、4月8日に秩父宮で行われたブルズ戦で今季、初勝利を挙げた。

 若手メンバーを起用し、経験値がなかなか上がっていかないジレンマを抱えていたが、2015年のワールドカップに出場したメンバーが、実にいい働きをした。心地よい勝利である。

 しかし、SRで心地よくないニュースが流れたのは、南アフリカとオーストラリアの2カ国。昨季からサンウルブズとジャガーズ(アルゼンチン)、キングス(南アフリカ)が参加し、15チームから18チームに増加したのだが、全チームが総当たりで対戦するわけではなく、運営形態が分かりにくくなったと評判が芳しくない。もちろん、大差の試合が多くなったことも含めて……。

 そこで運営実績などを鑑みて、南アフリカの2チーム、 オーストラリアの1チームが削減されることが先週末、発表になった。

 あくまで報道のレベルだが、南アフリカではキングスとチーターズが削減対象として有力、オーストラリアではフォースかレベルズのどちらかが削減される見込みだ。

 当然のことながら、削減対象とされているチーム、そしてファンは怒りを露わにしている。もちろん、選手もだ。プロとして活動する選手たちにとって、チームの消滅は働き口が少なくなることを意味する。今後、ストライキなどの動きが出てくるかもしれない。

サンウルブズは「おねだり屋」ではない

 こうした流れの中で、南半球のメディアの中には、こんな疑問が呈されている。

「弱小チームであるサンウルブズは、なぜ生き残ることができたのか?」

 参戦1年目の昨季は1勝だけで18チーム中の最下位。そして今季も上向きとはいえ、海外から見れば弱いことに変わりはない。削減対象のチームからすれば、「ウチのほうが強いじゃないか」という本音をどうにか飲み込んでいるところだろう。

 ここに「政治」と「経済」のファクターが関連してくる。

 まず、SR側としては、2019年には日本でのラグビー・ワールドカップの開催があり、この流れに水を差したくはない。加えて、将来的にアジア地域でのマーケット拡大を考えた時に、日本という「基地」が重要な意味を持つ。拠点がなければ、普及もできない。すでに、サンウルブズのホームゲームの8試合のうち、4試合はシンガポールで行われており、東南アジアでの基盤をなんとか固めようとしている。

 つまり、サンウルブズはSRの「未来ビジョン」において、有用な役割を果たしうる。その可能性を見込まれていると見るべきだろう。

 さらにSRにとっては、日本の経済力も魅力のひとつだ。日本では、グローバル企業がラグビーに対して投資することに前向きであり、その波及効果も期待されている。

 そして、サンウルブズはSRから放映権料の分配を受けていない唯一のチームであることも大きい。「おねだり屋」ではないのだ。

 また、秩父宮開催でのゲームには熱気がある。南アフリカでのゲームは、スタジアムが大きすぎることもあって空席が目立ち、いつも寂しい雰囲気が漂い、秩父宮とは対照的な絵面になっている。これもまた、SRでサバイバルできた要因のひとつだろう。

 来季もまたサンウルブズがSRで試合をできるのは喜ばしいことだ。しかし、うかうかしていると、将来的に削減対象になりかねない。チーム力をアップし、安定的な財政基盤を作らなければならない。

 要は、「ツッコミどころ」をひとつひとつ潰していくのがサンウルブズの仕事であり、それが日本のラグビーの強化につながっていくのである。

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生島淳

1967年、宮城県気仙沼生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務のかたわら、取材・執筆活動に携わる。1999年に独立。NBAやMLBなど海外ものから、国内のラグビー、駅伝、野球など、オールジャンルでスポーツを追う。小林信彦とD・ハルバースタムを愛する米国大統領マニアにして、カーリングが趣味。最近は歌舞伎と講談に夢中。