11人のフルタイムスタッフを擁し、食事も徹底管理

©斉藤健仁

スキンヘッドがトレードマークの山下大悟と言えば、早稲田大時代は清宮克幸監督の下、2002年度に大学選手権優勝に大きく貢献した名キャプテンとして知られる。大学卒業後はサントリー、NTTコミュニケーションズ、日野自動車でも活躍した、突破力が武器の名CTBでもあった。

昨年、選手を引退して母校の監督に就任すると「BE THE CHAIN(鎖になれ)」をスローガンに、数々の改革を実行。まず早稲田大出身のデザイナーに依頼し、ラグビー部の象徴である「アカクロ」のユニフォームを刷新した。

さらに、攻守にわたって戦術面を指導するヘッドコーチ、スクラムコーチだけでなく、スキルを担当するコーチ2名、S&C(ストレングス&コンディション)担当のハイパフォーマンスコーディネーター、系列高のラグビー部のS&Cの指導を中心に担当するコーチ、レスリング専門のコーチ、リハビリ担当のコーチ、トレーナー、管理栄養士、そして監督自身を含め、総勢11人ものフルタイムスタッフをそろえた。

他にもクラウドファンディングを利用して早稲田大ラグビー部のファンからサポートを受けるなど新しい試みをし、新潟の新しい米「新之助」とパートナーシップを結んだことで寮の食事面も改善して除脂肪体重が1年間10kgほど増えた選手もいるほどだという。そしてラグビー面では「ディフェンス、スクラム、ブレイクダウン」の3点の強化に重点を当てた。

10月14日(土)、山下監督の率いる早稲田大は東京・秩父宮ラグビー場で、関東大学ラグビー対抗戦の3戦目で筑波大戦を迎えた。早稲田大は初戦の日本体育大戦、続く青山学院大学戦に勝利していたが、強豪の筑波大との対戦はどちらが勝つか予想が難しい試合だった。

慶應義塾大戦、明治大戦と開幕2連敗を喫した筑波大は早稲田大戦に負けると大学選手権が厳しくなるため、この試合に懸けてくることは必死だった。試合はそんな筑波大が早稲田大をしっかり分析し、スクラム、ラインアウトでプレッシャーを与え、18分に先制に成功する。

ただ、早稲田大はキャプテンLO加藤広人(4年)が「筑波大が拘ってくる接点、モールで勝てば勝機をものにできる。厳しい練習をしてきた」と胸を張った通り、筑波大が得意なエリアである接点(ブレイクダウン)周りで一歩も引くことはなく、むしろ優勢に試合を運んだ。

山下監督は今シーズンも昨シーズンに続いて春から「ディフェンス、スクラム、ブレイクダウン」の精度アップに務めてきたが、筑波大戦ではブレイクダウンとディフェンスでその成果が出た。接点で相手を上回れば「大学で一番のSH」との呼び声高い齋藤直人もおり、攻撃にテンポが出るのは必然だった。

早稲田大は20分、昨年から山下大悟監督が昨年、ルーキー時代から重用している2年生のSH齋藤、SO岸岡智樹、CTB中野将伍のトリオが躍動し、WTB佐々木尚(3年)がトライを挙げて、SH齋藤のゴールも決まり7-5と逆転に成功。さらに前半終了間際もSH齋藤、SO岸岡とつないで、最後はルーキーのFB古賀由教(東福岡出身)がトライを挙げて14-5で前半を折り返した。

後半も早々から早稲田大が素晴らしいアタックを見せる。早稲田大は、アタックでは昨年から日本代表やヤマハ発動機同様に、FWを両サイドに配置する「ポッド」を採用しているが、それが見事にはまる。2分、相手のキックオフからテンポ良くボールを動かし、最後は左サイドに張っていたWTB佐々木、今年からHOに転向した宮里侑樹(3年)が相手のタックルを受けながらの見事なパスを見せて、最後はキャプテンのLO加藤が左隅にトライ。

さらに7分、ラインアウトを起点に連続攻撃を見せてSO岸岡が抜け出し、フォローしたSH齋藤が右の端にLO加藤、HO宮里、RP鶴川達彦(4年)3人のFWが張っていたことを確認した上で、グラバーキックを蹴る。そのボールをLO加藤が拾い上げてインゴール右端に飛び込んで26-5として勝負をほぼ決めた。その後、両チームともに1トライずつを重ねたが、早稲田大が33-10で難敵・筑波大に快勝した。

対抗戦を3連勝とした早稲田大だが昨年も対抗戦は2位だった。ところが、王者・帝京大には3-75で大敗。大学選手権では準々決勝で同志社大に31-47と敗退し、早々にシーズンを終えた。今年も春から決して調子がいいとは言えず、春季大会Aグループでは流通経済大に勝利するのがやっとで、帝京大、明治大、東海大、大東文化大に敗れて1勝4敗で6位と最下位。夏合宿も帝京大に0-82、東海大に5-52と大敗しファンを心配させた。

それでも山下監督は夏合宿を終えて「予定通り。結果がすべて」とどこか肝が座った様子で答えていた。実はU20日本代表に当初はSH齋藤、SO岸岡、CTB中野、WTB/FB梅津友喜(2年)、FB古賀と5名の選手が招集されていたため、春シーズンは彼らがU20日本代表の合宿等で不在が多かった(結局SO岸岡とFB古賀のみが、8月のウルグアイ遠征に参加)。

そのため、例年は8月に菅平で合宿をしているが、今年はU20日本代表メンバーが戻ってきた9月にも菅平で合宿をし、アタックの落とし込みを行った。「それまではアタックはアンストラクチャー(崩れた形)からのアタックをやっていた。彼らが戻ってきたところで合宿をしたいなと思っていました。(菅平は)集中した環境でできますし、(普段と)違うところでずっとラグビー漬けになることはチームとしてもいいこと。エディージャパンもたくさん合宿をしていたでしょ?」と指揮官は説明した。

創部100周年を迎える名門は、2008年度以来16回目の頂点を目指す

©斉藤健仁

手探り状態だった1年目とは違い、2年目は監督にも選手にもどこか余裕を感じるのは、やはり経験がなせる業であり、山下監督のラグビーが浸透してきた証か。

ただ筑波大戦ではラインアウトは相手に分析されてしまい、伊藤雄大スクラムコーチの下、強化してきたはずのスクラムもプレッシャーを受けた。左PR鶴川は昨年から活躍しているが、宮里は第3列からHOにコンバートしたばかりで、右PRは1年の久保優(筑紫高出身)が務めており、上級生中心の第1列だった筑波大に対応できなかったのも事実だ。

今後の強敵との戦いを踏まえると、やはりスクラム、セットプレーでハーフ団に良い球出しをできるかが、早稲田大が勝利できるかの焦点となろう。LO加藤キャプテンもそれは十分承知で「ラインアウトは筑波大が上手くて、いろいろサインを準備してきたが上手くいかなかった。スクラムは(左PRの)鶴川の部分は負けていなかったが、HO宮里、右PR久保の部分でプレッシャーを受けていた。自分たちの課題でもあるので修正していきたい」と前を向いた。

山下監督は就任する前年から、積極的に全国大会や高校に足を運び獲得した2年生のSH齋藤、SO岸岡、CTB中野、WTB/FB梅津らは順調に成長の階段を上っており、今年入部したPR久保、FB古賀、さらに筑波大戦では攻守にわたって前に出続けたNo8下川甲嗣(修猷館高出身)などルーキーたちもすでに躍動。山下監督が「(今年のチームは)BKが良い。(それを活かすために)どれだけFWが縁の下の力になれるか」というのも十分に頷ける布陣である。

2008年度の大学選手権15度目の優勝から遠ざかっている早稲田大。昨年、清宮監督に薫陶を受けた山下監督が早稲田大の監督に招聘されたのは2018年の創部100周年の記念すべきシーズンに、大学選手権で頂点に立つためなのは明らかだった。もちろん、創部99年目の今年に優勝したっていい。もしできなくても王者・帝京大や昨シーズン準優勝の東海大、そして春から調子の良いライバルの明治大&慶應義塾大、関西の優勝候補筆頭の天理大といい勝負ができなければ来シーズンもタイトル獲得は難しくなってしまうかもしれない……。

早稲田大ラグビー部は「BE THE CHAIN」というスローガンだけでなく、山下監督はスタッフと話し合って「(大学)日本一になる」という目標を設定。さらに「早稲田の人に夢と希望を与える」というミッションを定め、将来の日本代表を育てるためにビジョンとして「リーディングユニバーシティーラグビー」と謳って日々、選手の強化にあたっている。

早稲田大は、10月28日に帝京大戦、11月23日に慶應義塾大戦、12月3日に明治大戦、そして対抗戦で上位4チームに入れば大学選手権に出場できる。昨年は「まだ監督就任1年目だから……」と大目に見ていた早稲田大ラグビーファンも多かったかもしれない。これからの強豪との対戦は就任2年目を迎えた山下監督と創部100周年を見据えて、数々の改革を進めてきた早稲田大ラグビー部の真価が問われる戦いになろう。

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著者プロフィール 斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k