文=中西美雁

有望な若手に責任感を持たせるための策

 2015年秋に行われたワールドカップで20年ぶりに5勝を挙げた全日本男子バレーチーム。大会当初はガラガラだった客席も、大阪大会、東京大会では完売御礼。直後に発売された写真集「挑」は初週に6077部を売り上げ、10/26付オリコン週間“本”ランキングの写真集部門で1位を獲得した。バレーボール関連作品による同部門1位獲得は、2008年4月のランキング集計・発表開始以来初の快挙で、次々と男子バレー関係の書籍が発売された。

 その人気の中心を担っていたのは、「NEXT4」と名付けられたユニット。バレーファンなら誰でも知っている、有望な若手4人組を南部正司全日本男子監督(当時)がフィーチャーして作られたもの。という設定になっているが、おそらくはワールドカップを長年独占放映しているフジテレビからの提案だったのではないだろうか。

 2015年全日本代表の始動記者会見でそのユニットは発表された。南部前監督は、「人気と実力を向上させる具体的なプランはありますか?」という代表質問にこう答えたのだ。

「実は去年、石川祐希、柳田将洋、山内晶大、高橋健太郎をデビューさせた。今年は何か彼らに自覚と責任感を持たすために良い方法はないかなと。人気だけ上がってもそこだけが先行してしまうと本人たちにマイナスになってしまいます。人気と実力が備わったものにするべく、この4人に何かグループ名をつけようということになりました。そこでネクストフォーというグループ名で売り出したいと思います。表記はアルファベットの大文字でNEXT4です」

 ワールドカップ2003年大会までは、女子バレーよりも男子バレーの方が人気がある時代が続いた。その名残がタレントの川合俊一氏。彼の全盛期には男子バレー選手の結婚がスポーツ紙のトップを飾るほどだった。今年度から全日本代表を率いる中垣内祐一氏も、爆発的な人気を誇った。現在自民党の参議院議員である朝日健太郎氏も、加藤陽一氏、西村晃一氏とともに数え切れないほどのファンがいた。

 しかし、2003年に栗原恵と大山加奈の「メグ・カナ」が大ブレイクし、人気は逆転。2003年大会には男子バレーの書籍が何冊か出て、筆者もそのうちの1冊を手がけた。そのムックもそれなりに売れたのだが、読者から「女子の本は出ないんですか?」という問い合わせがあった。思えばそれが潮の変わり目だったのかもしれない。女子は翌年のアテネ五輪世界最終予選で2大会ぶりに出場権を獲得し、ブームは最高潮に。本大会ではベスト8にとどまったものの、女子人気はそのまま続いた。メグ・カナにかわるヒロインとして、エース木村沙織が覚醒。2010年世界選手権、ロンドン五輪で銅メダルを獲得。完全に人気も実力も女子が男子を上回る時代となった。有り体に言えば、男子バレーは冬の時代となったのだ。

確実に人気者となる「プリンス」

©Getty Images

 そんな男子バレー人気の起死回生の「テコ入れ」として作られたのが、NEXT4だったのだろう。石川祐希(当時19歳・ウィングスパイカー、フジテレビによるキャッチフレーズは「日本史上最高の逸材」)、柳田将洋(当時23歳・ウィングスパイカー、「プリンスオブバレーボール」)、山内晶大(当時22歳・ミドルブロッカー「大きな大きなシンデレラボーイ」)、高橋健太郎(当時21歳・オポジット「エキサイティング若大将」)と、若くて高身長でイケメンを取りそろえたというわけだ。

 このキャッチフレーズ、発表されるたびに「何だそりゃ!」と思ってしまうのだが、ずっと連呼されているうちに次第に洗脳されてくる。この手のキャッチフレーズを始めたのも、もちろん故松平康隆名誉会長だったが、一時期フジテレビはキャッチフレーズをつけるのをやめていた。それをまた復活させ、思い切りベタベタで攻めてきた。ちなみに「プリンス」というキャッチフレーズは、ミュンヘン組の頃から連綿と続く伝統芸で、初代プリンスは現在Vリーグ機構会長を務める嶋岡健治氏なのである。藤田幸光氏、近年では加藤陽一氏、越川優氏といったあたりがそのキャッチフレーズで呼ばれていたが、いずれ劣らぬ大人気となった。

 JVAとバレーを取り巻くメディアは「メグ・カナ」ブームにあやかろうと、その後選手をコンビで売り出そうと何度も試みたのだが、メグ・カナ再来とはならなかった。NEXT4は発想を変えて4人にしたところがミソだ。ジャニーズにしろAKBグループにしろ、2人よりはもっと数を多くした方がバリエーションも出るし、それぞれの関係性にも萌えられる。その思惑はまんまと大当たりし、ワールドカップ最終週の東京大会では選手バスを「出待ち」する大勢のファンが見られ、Vリーグの観客動員数も(主に柳田の所属するサントリーの試合を中心に)回復した。

 だが、最もブレイクに貢献したのは、そういったことよりも、「20年ぶりの5勝」が大きかったと個人的には思う。10年ほど前に某スポーツグラフィック総合誌の編集者に「男子バレーが再ブレイクするには、どうしたらいいんですかね?」と聞かれ、「そこそこに勝つことですね」と即答したことがある。「そこそこでいいんですか?」「だって、サッカー日本代表だって、そこそこ勝ってるくらいですよね? だけど代表人気はすごくある。日本男子バレーは負けすぎたんですよ。そこそこ勝って、良いプレーを見せれば、人気は必ず復活します。日本人にはその下地がありますから」と。

 高校生の頃に「史上初6冠」を成し遂げたエースの石川とプリンス柳田が中心となり、ワールドカップは善戦した。メディアでは「NEXT4」を見出しに、たくさんの記事が掲載された。編集者からは「NEXT4」という言葉と、4人を取り上げるようリクエストが来た。

 しかし……全日本男子は、リオ五輪には行けなかった。それどころか、リオ五輪世界最終予選では、過去最低の成績となってしまった。このときNEXT4のうちの高橋健太郎は全日本には招集されず、便宜的に「ニュー・ビッグスリー」という呼称が提案されたが、ほとんど定着はしなかった。やはり、「勝ち」が伴わない人気はあり得ないのだ。

 出場が約束された東京五輪に向けて、新しい全日本がスタートする。高橋も再度招集され、またNEXT4のメンバーがそろった。しかし、いつまでも「ネクスト」でもないだろうなと思わなくもない。石川と柳田は「次の」どころか「現」全日本の主力だ。

 中垣内新監督は、2015年ワールドカップ前にインタビューしたときには、「石川や柳田だけじゃない。出耒田敬だって深津英臣だって、みんなその年代の奴らは『NEXT』なんだよ」とコメントしていた。再び4人がそろったところで、彼がどう采配するか。注目していきたい。

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中西美雁

著者プロフィール 中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』