リオ五輪予選敗退で見えた課題

 また一人、若手が海外に飛び出す決断をした。バレーボール男子の日本代表で、V・プレミアリーグのサントリーに所属するウイングスパイカー・柳田将洋が、来季はプロ選手として海外に挑戦することを表明した。

 2020年東京五輪に向けて、柳田は危機感をあらわにする。

「世界に対する経験がまだまだ浅い。それを2020年までに補うには、今の(成長)スピードじゃ足りない。このままのリズムでノロノロやっていたら、僕の身長でこの技術では、(全日本で)必要ないと思われてしまう。海外に行って、海外の選手とプレーすることをスタンダードにして代表に戻ってこられればいいなと思いますし、その国の言語などにも溶け込んでいけるようなスタンスを作っていければと思います」

 柳田は東洋高校時代に春の高校バレーで優勝して注目を集め、慶應義塾大学在学中の2014年に全日本デビュー。身長186cmは世界の中では小柄だが、高いブロックに対してもスパイクを決められる選択肢を数多く持っており、細身の体からは想像しがたい威力のあるジャンプサーブは一番の武器だ。

 15年のワールドカップでは、レギュラーとして日本躍進の一翼を担った。サーブランキング5位に入り、中央大学の石川祐希とともに男子バレー人気の火付け役となった。

 柳田が海外リーグでのプレーを考えるようになったのは代表に入ってからだと言う。特に、15年ワールドカップでの躍動と、16年リオデジャネイロ五輪世界最終予選での惨敗、このコントラストが海外挑戦への決定打となった。

 ワールドカップに向けては、全日本は長期のヨーロッパ遠征を行うなどして海外のサーブ、スパイクのスピードや、ブロックの高さなどに慣れた上で大会に臨み、日本も世界と戦えるという手応えを得た。しかしその後、代表メンバーは国内リーグや大学で約半年間過ごし、16年3月に再集合。5月のリオ五輪最終予選開幕までには数試合しか海外との練習試合を行うことができなかった。

 準備不足はそのまま結果に反映され、日本は2勝5敗の8チーム中7位で五輪出場を逃した。半年間、国内でプレーしていた選手たちは、海外の選手に対応できずに黒星を重ね、ようやく慣れた頃に大会は終わってしまった。

 毎年、夏場の全日本期間中に徐々に海外の選手のプレーに慣れても、冬場の国内リーグ期間中にその感覚を失い、また次の年は慣れるところからやり直し。そんなことを繰り返していては、いつまで経っても世界には追いつけない。日本人選手も海外のリーグに出て、世界トップレベルの選手と同じ土俵で戦わなければ。リオ五輪予選で、多くの選手がそんな危機感を抱いた。

 柳田は、その思いを行動に移したのだ。

海外でプロとして活躍するために必要なこと

©Getty Images

 過去に海外リーグでプレーした男子選手は、代表経験者では眞鍋政義、加藤陽一、越川優といった選手がいる。そして15年のワールドカップでベストスパイカーランキング4位の活躍を見せ一躍日本のエースとなった石川も、2014/15シーズンに大学からの派遣という形でイタリア・セリエAのモデナに短期移籍し、今季はセリエA・ラティーナに二度目の短期移籍を行った。シーズン途中からの合流だったため最初は控えだったが、最後にはレギュラーを勝ち取って4月に帰国した。

 その他、今季はリベロの古賀太一郎が豊田合成からの海外留学という形でフランスリーグに渡り、元堺のセッター今村駿はスウェーデンリーグでプレーしたが、まだ海外でプレーする日本人選手はごくわずかだ。

 男子バレーは、イタリアやロシア、ポーランド、ブラジルといったリーグのレベルが高い。そうしたリーグで試合に出ながら経験を積むことができれば何よりだが、そう簡単なことではない。

 過去2大会オリンピックに出場すらできていない日本の、特にスパイカーに対する海外チームの評価は高くない。複数のチームが獲得に手を挙げた石川は別格だ。

 また、誘いがあったとしても、そこで試合に出られなければ思うように経験値を上げることはできない。柳田自身も、「レベルの高いリーグでやりたいけど、コートに立てなかったら……というのもあるので、そのあたりのバランスをはかれれば」と語る。

 海外でレギュラーを獲るために、柳田の課題となるのは守備力だ。

 サーブ力は海外のリーグに出ても武器となるだろう。スパイクも、ブロックを見て打ち分けられるトスさえ上がれば対応できるはず。ただ、海外には柳田以上の攻撃力と高さを持ったスパイカーはいくらでもいる。ブロックでは穴になる分、それを補って余りあるサーブレシーブ力やディグ(スパイクレシーブ)力が必要になるが、そこはサントリーでも柳田の課題だった。

 5月2〜7日まで開催された黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会でも、「僕はディフェンスが本当にヘタ。そこはこの大会に限らず、どこまで行っても終わらない課題です」と語っていた。

 まずは、1部リーグの下位チームだろうと、2部リーグやレベル的に少し劣るリーグであろうと、試合に出ながら海外選手の強いサーブに慣れることができる環境でシーズンを過ごして守備面を強化し、そこから一歩一歩レベルの高いチームへとステップアップしていくのが理想的な道筋となりそうだ。

 簡単な道のりではないが、覚悟を秘めた勇気ある決断が、柳田の成長と全日本の力につながることを期待したい。

世界選手権の切符を手にしたガイチジャパン 東京五輪へ向け世界8強目指す

バレーボール全日本男子は7月12日から16日まで行われていた世界選手権のアジア予選を4戦全勝で終え、2大会ぶりの世界選手権の出場権を獲得した。東京五輪での躍進に期待がかかる日本は、経験を積める貴重な機会をつかんだ。チームを率いる中垣内祐一監督は、世界選手権8強進出を目標に掲げた。

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VictorySportsNews編集部