文=中西美雁

今年度の最重要タスクを完遂

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12日から行われた世界選手権アジア予選で、全日本男子バレーボールチームは全勝で出場権を獲得した。この「世界選手権の出場権をとる」ことは、今年度最も重要な目標として掲げられてきた。今季から指揮を執る中垣内祐一監督の去就についても、一気に先が見える展開となった。

ガイチジャパンは「いろいろなケチ」(中垣内監督談)がついてのスタートとなった。就任決定直後に人身事故を起こし、謹慎処分を受け、5月15日からの全日本チームとしての活動は、フィリップブランコーチを監督代行として始まった。

2013年に行われた前回の予選では、韓国に負けて出場権を逸した。このときの監督は、全日本バレー史上初の外国人監督であるゲーリー・サトウ氏であった。日本男子はこれまで、1960年に初めて参加して以来、ずっと出場し続けてきた。その記録が止まったことを、日本バレーボール協会は重く見た。続いて行われたグランドチャンピオンズカップが全敗に終わり、ほどなくしてサトウ氏は解任されたのである。サトウ氏は前述の通り男女あわせて全日本史上初の外国人監督として鳴り物入りで「リオ五輪まで」という契約で就任した。それをわずか1年足らずで更迭したわけで、そうであるならば中垣内監督が出場権を逃したら、どうなったかはいうまでもないだろう。

ワールドリーグはグループ2を準優勝で終わり、12チーム中11位で終わった昨年と比べれば見違えるほど成績は向上した。続く世界選手権予選も全勝で首位通過。鳥羽賢二強化事業本部長以下、全日本男子スタッフはひとまず胸をなで下ろしているに違いない。

今大会は、5チームずつを2グループに分けて、それぞれ上位2チームが出場権を得られる規定。日本が戦ったBグループは、オーストラリア、台湾、ニュージーランド、タイの5国。ランキング的にも実力的にも、ワールドリーグで2勝1敗のオーストラリアが一番の強国で、あとは格下といってもよい。「普通にやればいい結果がついてくる」(柳田将洋)と臨んだ全日本だが、初戦は少し緊張もあった。ストレートで勝利したが、3セットとも25-19で、中垣内監督は「もっと(点差を)離したかったが、固さが見られたためにそれがかなわなかった」とコメント。柳田も「初戦ということで僕自身も少し固かったし、チームももっと抜け出せるはずのところで出られない場面もあった。僕にとって初戦というものは、リーグにせよトーナメントにせよ常にいつも固くなるので、ある意味いつも通り。明日から上げていきます」と奮起を誓っていた。

ニュージーランド戦は、途中から柳田やセッター藤井直伸を下げ、オポジットも大竹壱青に代えて本来ミドルブロッカーの出耒田敬で通した。それでも大差で圧勝。続くタイ戦では、柳田のサーブが火を噴いた。「ワールドリーグでは、打てば入るという感じ」だったというが、今大会ではやや湿りがちだったサーブでタイのレシーバー陣を崩し、8連続ブレイク(サーブ権があるときに得点すること)したりした。柳田はこの日15得点でベストスコアラーになっている。

タイにはストレートで勝利し、翌日のタイvs台湾戦で、タイが1セットでもとれば、続く日本vsオーストラリア戦を待たずして出場権が獲れるところまできた。しかし、もう出場権のなくなったタイと、まだ目のあった台湾ではモチベーションが全く違った。台湾は1セットも落とすことなく勝利し、切符は次のオーストラリア戦に持ち越されることとなった。もしこの試合で1セットでもとれれば、その時点で日本戦のない最終日を迎える前に切符は獲得できる。ストレートで負けて、台湾が最終日オーストラリアに勝てば、3国が1敗で並んで得点率までもつれることになる。

大一番で見せた思い切った采配

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オーストラリア戦で、中垣内監督は思いきった采配を奮った。出耒田をオポジットとしてスターティングメンバーに起用し、フルで使い続けた。途中で大竹を2枚替えで投入した場面もあったが、スパイクミスでセットを決められず、次のセットからはそのまま出耒田が起用され続けた。そしてこの日はエース石川祐希が爆発。フルセットまでもつれたとはいえ、一人で32得点もしている。「ワールドリーグの時は、途中までコンディションが万全ではなく、みんなに迷惑をかけてしまった。この大会の直前にも腰を少しいためてしまったが、大会中はずっと集中を切らさないようにしようと思っていた。みんなのために絶対に勝ちたかった」(石川)

昨年までのオポジット、清水邦広が故障のために来られないということで、登録外の今村貴彦を練習生として呼ぶなど、オポジット問題は指揮官を悩ませてきた。出耒田は大学時代はオポジットで、ユニバーシアードではオポジットとして出場し、3位の成績をおさめている。所属チームの堺では、助っ人外国人選手がオポジットなので、ミドルに転向した。この大会直前に、「前衛3ローテだけ入れるかもしれない」と言われて少し練習をした。ほとんどぶっつけ本番に近い形で大会に臨み、結局は出場権を勝ち取ったオーストラリア戦ではフルに起用された。スパイク得点は石川と柳田に次ぐ9得点だが、ミスや被ブロックはほとんどなく、またミドルブロッカーとして身につけたブロック力で相手の攻撃を削いだ。この出耒田オポジット起用案は、中垣内監督の肝いりだった。

出耒田自身も、3日目のタイ戦終了後の時点では、「特にオポジットに専念しようとは思いません」と語っていたのが、オーストラリア戦後は「昨日までとは考えが変わりました。オポジットとしてどんどん進化していけるようにしたい」と宣言した。

練習や試合で主にブランコーチが指示を出し、中垣内監督がそれをまとめる現在のシステムについて、前述した今村は「自チーム(パナソニック)でも、外国人コーチが具体的に指示して、監督がそれをまとめる形なので、なじみやすかった」と語ってくれた。深津英臣主将も「全然違和感はないです。むしろいい方向に行っている。選手から見て、スタッフはすごくいい関係ができていると思います。僕らもやりやすい環境です」と太鼓判を押した。

中垣内監督は、出場権を勝ち取ったことは、東京五輪に向けてどのような意義があるかを問われ、「ステップの一つですよ。見えないくらいの長い階段、それを一歩確実に上がった。着実に前に進んでいる。勝たないといけないところで、ちゃんと勝てたということに関しては素直に喜びたい」と答えた。来年の世界選手権本戦では、「ベスト8を目標にしたい」(中垣内監督)。

柳田は「世界選手権は、東京五輪という大きな目標に向かっていく試金石になる。自分たちで勝ち取ったものをもう一度自分たちで勝負しにいく。このメンバーで戦って優勝を目指していきたい。世界のトップチームとやるわけなので、そこに向けていい成績を目指しながら、なおかつチームも進化していくのが理想」と前を向いた。

ここまで順調に歩みを進めているガイチジャパン。次の大きな大会は、9月12日から日本で開催されるグランドチャンピオンズカップになる。この大会で得られたものを、どれだけ上位国にぶつけられるかを注目したい。

東京五輪へ中垣内ジャパン始動 国内3連勝で膨らむ期待

6月9日から11日にかけて群馬・高崎アリーナで行われたワールドリーグ高崎大会。日本は、トルコ、スロベニア、韓国に3連勝し、通算成績を4勝2敗とした。初めて采配を振るった中垣内祐一監督の下、力強く東京五輪への第一歩を踏み出した。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』