新王者誕生4日後の衝撃
10年目を迎えたFリーグは、シュライカー大阪が初めてリーグを制した。過去9シーズンに渡ってリーグの頂点に君臨してきた名古屋オーシャンズが過渡期を迎えたタイミングで、有力な外国人選手をそろえ、力強さと美しさを兼ね備えた攻撃的なフットサルで王座に輝いたのだ。
来たる2017/2018シーズンは、大阪が王座を防衛できるか。それとも復権を目指す名古屋が雪辱を晴らすのか。力を付けて来ているペスカドーラ町田やフウガドールすみだが、3クラブ目のチャンピオンとなるのか。新王者が誕生したことで、まさに新時代に突入して面白いポイントが多くありそうなのだが、そうしたトピックよりも危機感を募らせる声が多く聞かれる。
そうなる気持ちが分からないこともない。2016年2月に開催されたAFCフットサル選手権で、フットサル日本代表は5位以内に入れず、2004年から続いていたフットサルW杯の出場を逃した。4年に1度、W杯が開催される年は、Fリーグを観戦する人が増える。多少ながらも露出が増え、世界の舞台で戦う日本代表選手を見たいという人が出てくるからだ。しかし、W杯の出場権獲得を逃したことで、このブーストは得られなかった。
また、リーグ全体の選手の高齢化も要因の一つだろう。Fリーグには12ものクラブがあるが、Fリーグが誕生した2007年からプレーしていた選手が、全12クラブに在籍しているのだ。ほとんどのクラブは若手を育成することができずに、リーグが制作するポスターなどにも毎年のように見慣れた顔が並び続けている。
そこに輪をかけたのが、大きな可能性を秘めていた若いタレントの引退だ。大阪がリーグ初優勝を達成して4日後、21歳の水上洋人が現役引退を表明した。ガンバ大阪の下部組織に在籍していた経歴を持つ水上は、フットサル選手としてもその将来を嘱望されていた。日本代表のブルーノ・ガルシア監督は来日後、Fリーグの全試合をチェックして、日本代表入りするに値する能力のある選手のリストをつくっていた。そこにも水上の名前は入っていたのだ。
水上自身にも現役を続行したいという希望はあった。しかし、Fリーグには所属選手がプレーに専念して生活費を得られるプロクラブは、名古屋とバサジィ大分の2クラブしかなく、ほとんどの選手は生活費を別の仕事で賄っている。マイナースポーツの宿命とはいえ、リーグの年間優勝クラブに与えられる賞金が300万円というリーグに夢を見ることは簡単ではない。
「自分はまだ若いが、将来は結婚もしたいし子供もほしい。その中で生活していくにはどうしていくべきなのか」。周囲に相談を重ねた末に、水上が下した決断はシューズを脱ぐことだった。ただでさえ、選手の平均年齢が高くなっているというのに、優勝クラブに在籍した将来有望株が引退してしまえば、業界が活性化するのは不可能だ。かくして水上の引退は大きな波紋を広げ、フットサル界では危機が叫ばれるようになった。
全国リーグ誕生10年目の課題
©futsalx 残念ながらFリーグが開幕した10年前に比べて、体力がなくなってきているチームがあるのは事実である。ただし、フットサル界が縮小している一方かといえば、そうでもない。大分は数年前から全選手とプロ契約を結び、フットサルのプレーに専念できるようになっている。町田や府中にもクラブから得られる収入だけで、フットサルに専念できる選手が複数いるし、今年4月からはU-20日本代表のキャプテンですみだのFP清水和也も、すみだ初の完全プロ契約選手となった。その他にも企業と個人スポンサー契約を結び、フットサル選手としてプレーに専念できている選手もいる。
まだまだ選手の環境が良くなるように考えていかなければいけないのは確かだが、決して10年前から劣化していることばかりではない。少なくともFリーグができる前よりは、何よりもフットサルの技術を磨きたいと考える選手の環境は良くなっている。だが、フットサルでより高みを極めたいという思いよりも、就職企業としてFリーグクラブを考えるのであれば、フットサル選手を続けるのは難しいだろう。
大阪の木暮賢一郎監督を筆頭に、水上にプレーを続けてほしいと思った人は少なくない。それでも、人生で何に価値を見出すかは人それぞれだ。就職活動が本格化するタイミングで、引退を決断した水上は、「大学生とフットサル選手を両立したことと、(両立できることを)未来の若い選手にプレーで証明することができたことは、私自身の誇りです」と、自身の決断に悔いがないことを強調し、次の道に進むことを選んだ。
おそらく今後も、大学在学中にFリーグに挑戦し、卒業あるいは就職活動を前に離れていく選手は出てくるだろう。それは必ずしも業界の危機を意味するものではないが、そうした選手たちを引き留められるくらい、職業としてフットサル選手が成り立つようになったとき、日本のフットサルはもう一つ高いレベルに到達しているはずだ。