文=菊地高弘

大学4年春に突如開門した大砲

 阪神の金本知憲監督が「鶴の一声」でドラフト1位に指名した右の大砲・大山悠輔(白鴎大)。なんとしても生え抜きのスラッガーを育成したいという金本監督の強い意欲が感じられる。

 ドラフト時点では「大学ナンバーワンスラッガー」の評価を得ていた大山。しかし、大学3年秋時点の大山を見て、強く印象に残っていたのはその長打力ではなく、三塁からの「強肩」だった。

 シートノックで三塁線寄りのゴロを処理した大山は、一塁手に向かって矢のようなスローイングを見せた。内蔵されたエンジンの大きさ、リストの強さを感じた瞬間だった。そして同時にこうも思った。「これだけ体に力のある選手なら、とてつもなく飛ばせるパワーがあるのではないか」と。

 しかし、3年秋の時点で大山は「スラッガー」として確固たる実績があったわけではなかった。フルスイングで空振りした直後のボールを流してライト前に持っていくような融通性や、四球を選んだ余韻を噛み締めるかのようにそっとバットを置く独特の雰囲気は感じさせたものの、大アーチを期待させるような打球を見たことはなかった。

 そんな大山に劇的な変化が起きたのは、4年春のことだ。大山は関甲新学生リーグの新記録となる、シーズン8本もの本塁打を記録した。

人気球団のドラ1という重圧との戦い

©共同通信

 大山にいったいなにがあったのか? 技術的な進化があったと思いきや、本人は意外なことを明かしていた。

「技術的というより、気持ちの部分が大きかったと思います。それまでは力むと打てなかったので、打席のなかでいかにリラックスできるかを考えてやっていたら、結果が出ました。自分も正直、そこまで打てると思っていなかったのでビックリしました(笑)」

 2016年6月には大学日本代表選考合宿に呼ばれ、宮台康平(東京大)からセンターフェンス直撃の二塁打を放ってアピールした。周囲は東京六大学リーグや東都大学リーグのエリートばかり。大山は、「関甲新でもやれるところを見せたい」と頼もしい言葉を口にした。その結果、大山は主軸候補として大学日本代表に選出されている。

 そんな反骨精神がある反面で、大山の言葉の節々からは気持ちの優しさを感じることがある。よく言えばおおらかだが、悪く言えば生きるか死ぬかのプロの世界で己を貫けるのか、不安も残る。

 まして阪神は人気球団だ。ファンの数も多く、取材するメディアの数も桁が違う。そんな環境で「ドラフト1位」の看板を背負って平常心でプレーできるのか……。本人にとっても大山を見込んでドラフト指名した金本監督にとっても、野球人生をかけた戦いがこれからはじまる。

 願わくは、金本監督の勇気ある決断が報われ、大山に光に満ちたプロ人生が訪れてほしいものだ。

(著者プロフィール)
菊地高弘
1982年、東京都生まれ。雑誌『野球小僧』『野球太郎』編集部勤務を経てフリーランスに。野球部研究家「菊地選手」としても活動し、著書に『野球部あるある』シリーズ(集英社/既刊3巻)がある。

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