歯車が狂い始めた藤浪、約2年に及ぶ不調
怪物が、苦しんでいる。
阪神タイガースの藤浪晋太郎は4月20日の巨人戦で今季4度目の先発登板。5回を投げて10個の三振を奪うも、被安打9、与四球6の乱調で6失点。今季初黒星を喫した。
その翌日、阪神は藤浪の出場選手登録抹消=2軍行きを発表した。
今季は開幕ローテを掴みながら先発4試合で0勝1敗、防御率5.40(4月25日時点)。昨季5月4日のヤクルト戦以来、約1年間も勝ち星から遠ざかっている。
一体いつから、歯車が狂い始めたのだろう。
大阪桐蔭高校時代はエースとして甲子園で春夏連覇を達成。ドラフトでは4球団が1位で競合し、阪神へと入団を果たした。1年目から、セ・リーグでは江夏豊(阪神)以来46年ぶりとなる「高卒ルーキーによる2桁勝利」を記録。2年目は11勝、3年目は14勝とプロ入り3年間で35勝をマーク。誰もが阪神の、日本のエースへと成長していく未来を疑うことすらしなかったはずだ。
しかし、プロ4年目の2016年に7勝11敗と自身初めての1桁勝利&シーズン負け越しを経験。昨季は開幕から不調が続き、シーズン中の2軍降格という屈辱も味わうなど、3勝5敗と自身ワーストをさらに更新した。
「復活」を期した今季も、前述のとおりいまだ本来の投球は影を潜めている。
藤浪の不調については、「イップス」「投球フォームの変更」など、その理由についてさまざまな憶測が飛び交っている。
もちろん、現象には必ず理由がある。藤浪の不調にも、何らかの理由があるのは明白だが、それが技術的な問題なのか、精神的な問題なのかは、どう検証しても憶測の域を超えることはないだろう。
約2年間に及ぶ不調が改善しないところをみると、おそらく藤浪本人も、阪神という球団も、いまだ手探りで復活への道を進んでいるとみるのが妥当だ。
「特別扱い」から生まれた歴代のスーパースター
ここで筆者が訴えたいのは、藤浪の不調の原因「そのもの」ではない。むしろ、不調にあえぎ、なかなか本来の実力を発揮できていない藤浪に対する、球団の姿勢だ。
藤浪晋太郎という投手は、間違いなく球史に名を残すポテンシャルを秘めている。これは、断言できる。
身長197センチの日本人離れした体格。
最速160キロの速球。
これだけでも、藤浪の持つポテンシャルが「規格外」なのは十分納得いただけるはずだ。
これほどのスケール感を持つ投手は、日本プロ野球の歴史を紐解いてもダルビッシュ有、大谷翔平と藤浪くらいのものだろう。
ダルビッシュはメジャーでも「一流」の評価を得たし、大谷も今季からメジャーに移籍し、開幕早々「二刀流」でアメリカに旋風を巻き起こしている。
しかし、藤浪は……。
もちろん、ポテンシャルが高ければ成功できるほどプロの世界は甘くない。たゆまぬ努力と自身の技術向上があってこそ、その才能は花開く。しかし、自身の努力以外にも必要なものがある。それが、球団のバックアップだ。
プロ野球は実力の世界。ひとたびプロのユニフォームに袖を通せば、実績も経験も関係ない。グラウンドで結果を残したものだけが這い上がり、成功と名声を手にする。それは、間違いない。
しかし、である。
スーパースターを生み出すには時として、「特別扱い」が必要になってくるのもまた事実だ。
「平成の怪物」松坂大輔はプロ1年目、オープン戦ではなかなか結果が出なかった。それでも首脳陣が我慢して使い続け、開幕前の最終登板でようやく好投を見せたことで開幕ローテ入りを掴んだ。その結果、プロ初登板で155キロを記録する衝撃デビューを飾り、一大センセーショナルを巻き起こした。
ダルビッシュ有も1年目の春季キャンプ中にパチンコ屋で喫煙している姿をスクープされ謹慎処分となったが、5月には実戦に復帰。6月には1軍デビューを果たし、2年目以降の飛躍の足掛かりとしている。
田中将大も、1年目の開幕当初はなかなか結果が出せなかったが、野村克也監督(当時)が「マー君、神の子、不思議な子」と称した。「打たれても負けがつかない」幸運も後押しとなり、首脳陣が我慢して起用した結果、シーズン11勝で新人王を獲得している。
「特別扱い」の極め付きは藤浪と同い年でもある大谷翔平だ。「二刀流」という前人未到の挑戦に向け、球団は大谷を全面的にバックアップ。ローテーションも野手としての出場もイレギュラーな形となる大谷の起用について、球団はあくまでも「大谷中心」にチームを編成。5年目のオフという異例のタイミングでポスティング移籍を容認したのもまた「特別扱い」といっていいだろう。
もちろん、この「特別扱い」は単なる「えこ贔屓」とは違う。選手にそれをさせるだけの実力とポテンシャルがあってこそだ。そして筆者は、藤浪にもその価値があると考えている。
問われる球団の姿勢、求められるバックアップ
しかし、阪神タイガースの藤浪への扱いはどうか。確かに1年目から1軍で使われ、結果も残した。ただそれは、あくまでも藤浪が高卒1年目としてはあまりにも突出した実力を持っていたからに過ぎない。
特に初めて2桁勝利を逃した2016年以降、阪神の藤浪に対する「扱い」には正直、違和感を覚えている。
同年の7月8日広島戦では序盤から打ち込まれながら懲罰的に続投させられ、8回8失点で完投。この時の投球数は実に161球にも及んだ。現在のプロ野球ではシーズン佳境の大一番ですら、ありえない球数だ。金本知憲監督は藤浪に対して「エースの自覚を持ってほしい」とあえて厳しい態度で接したのだろうが、これは筆者が訴えるのとは真逆の「特別扱い」だ。
また、昨季は不調もあり5月27日に1軍登録を抹消され、8月16日の復帰まで実に2カ月半、2軍での調整を余儀なくされた。調子が上がらなかったのかもしれないが、2軍で投げさせるのであれば登板ごとに登録を抹消してでもいいから、定期的に1軍で状態を見極めてもよかったのではないか。
金本監督は、良くも悪くも選手に「厳しい」監督だ。そしてその方針は、現時点で阪神球団の総意といっていい。どんな選手も「特別扱い」はしない。調子が悪ければ下に叩き落し、そこから這い上がった者だけを使う。チャンスは与えるが、結果が出なければ容赦なく代わりの選手と入れ替える。
もちろんこれは、プロ野球の本来あるべき姿だ。純然たる実力主義でこそ、選手たちは切磋琢磨し、技術の向上にもつながる。
ただし、そこには10年に一人、20年に一人、「特例」が存在することも忘れないでほしい。
松坂大輔がそうであったように、ダルビッシュ有がそうであったように、大谷翔平がそうであったように、藤浪晋太郎もまた、そういう選手なのだ。
藤浪の復活にはもちろん、本人の努力が最重要になってくる。
しかし、今の阪神からは藤浪に対して「なにがなんでもお前を復活させる」という気概が見えてこない。
藤浪の復活は、確かに本人の努力と実力次第かもしれない。
しかし、藤浪晋太郎という投手を日本のエースに育て上げることは、阪神の使命だ。それが、これほどのポテンシャルを持つ投手を預かった球団としての義務だろう。
球団の勝利だけを考えるのであれば、確かに「特別扱い」はせずに彼が自分の力で結果を出すのを待つだけでいいかもしれない。
ただ、重ねていうが、藤浪はそんな「格」の選手ではない。
藤浪は、日本球界が誇る大エースになれる。
本人はもちろん、球団にも、その自覚と覚悟を持ってほしい。
<了>
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