文=飯間健

意図せず進んだG大阪の世代交代

 4月30日に行われたJ1リーグ第9節のガンバ大阪―横浜F・マリノス戦では、ちょっとした〝事件〟が起こっていた。A代表キャップ歴代最多152を誇る元日本代表MF遠藤保仁(37)が90分間を通して試合に出場しなかった。調べてみると、ベンチ入りしたリーグ戦で出番がなかったのは、横浜フリューゲルスに在籍していた高卒1年目の98年4月25日・ジェフユナイテッド市原(現J2千葉)戦以来、実に19年ぶりだった。

 遠藤は横浜FM戦前の大宮アルディージャ戦(4月20日)でもベンチスタートで、横浜FM戦後の清水エスパルス戦(5月5日)も途中出場。3試合連続で先発から外れている。「自分に足りないモノがあるから、こういう状況になった」と本人も絶対的なレギュラーでなくなった自覚を口にする。一方、チームはACLこそ1次リーグ敗退に終わったものの、リーグ戦は序盤10試合を終えて5勝4分け1敗の3位と好位。U-20代表MF堂安律(18)や同DF初瀬亮(19)、今季加入のDF三浦弦太(22)ら若い力の台頭が目覚ましく、激しい〝血の入れ替え〟作業のまっただ中だ。

 もっとも、それは意図したものではなかった。だが、それこそ〝チームは生き物〟と言われる所以なのかもしれない……。

補強に失敗し、主力も流出したオフ

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 時計の針を昨年オフまで巻き戻す。長谷川健太監督(51)就任後初の無冠に終わった12月、巻き返しを期して大型補強に乗り出した。しかし日本代表FW小林悠、韓国代表FWファン・ウイジョ、そして年が明けてからはコートジボワール代表FWサロモン・カルーと元広島FWドウグラスの獲得に動いたが、ことごとく失敗。中盤でも日本代表歴のある名古屋MF田口泰士にオファーを出したが、選手層に厚みを増すことはできなかった。一方でMF阿部浩之(現川崎F)やMF大森晃太郎(現神戸)ら長谷川サッカーの根幹を担ったハードワーカー2人が流出。我々メディアも含め、周囲からは「おいおい、来年は大丈夫?」という雰囲気が醸し出されていた。

 それは長谷川監督も感じていた。昨年はリーグと併行するACLでターンオーバー制を採用したが「今年、それができる選手の人数がいると思う?」と自虐的に笑っていた。梶居強化部長も「選手を取れなかったのは申し訳ない。でもポジティブに捉えるならば若い選手を使って、また違うチームになる可能性があること」とタイトル獲得以前にギャンブル的要素の方が強いことを認めていた。

 圧倒的な選手層を誇る浦和レッズや、大型補強に成功した鹿島アントラーズと比べると上積みは少ない。それでも「選手がいないから勝てません」では通用しないクラブだ。長谷川監督は戦術を変更することで戦力不足をカバーし、さらに個性をより引き出そうとすることを考えた。

 昨年は4―2―3―1、もしくは4―4―2がスタンダードだったが、今季は4―3―1―2をキャンプ中から導入した。背景には遠藤を活かすことがあった。昨年はトップ下やらボランチやらで、遠藤の配置が不明確だった。J屈指の戦術眼とパスセンス、そして影響力。一方で年齢による運動量の低下。ハードワークをベースにする長谷川サッカーにおいて、遠藤の扱いは難解を極めた。それでも今季、長谷川監督の頭の中に遠藤を外す選択肢はなかっただろう。事実、「遠藤中心のチーム作りは変わらない」と多くのメディアの前でも公言していた。

 その〝最初の答え〟が遠藤を中盤の底『アンカー』で起用する戦術だった。遠藤の前に運動量と守備力にたけた日本代表MF今野泰幸(34)とMF井手口陽介(21)を配置することで、守備面での負担を軽減。同時にプレッシャーの少ない位置で、自由にプレーすることを期待した。そしてACLプレーオフ・JDT(マレーシア)戦は3得点、ACL初戦アデレード・ユナイテッド(オーストラリア)戦も3―0の完勝。遠藤のアンカーシステムは新しい〝風〟を吹かせたように見えた。

 ところが指揮官の心のうちは、思ったよりも手応えを感じなかったのかもしれない。リーグ開幕節・ヴァンフォーレ甲府戦(2月26日)は最後に追いついて何とかドロー。指揮官は「いつやろうかと考えていたけど、もうやんなきゃなんねぇか」と覚悟を決めた。それは4―3―1―2システムとともに温めていた3―3―2―2システムへの移行だ。

 遠藤をアンカーに置く布陣に変わりはない。ただ今季のメンバーを見渡した場合、最終ラインには三浦弦太、ファビオ、金正也ら対人に強い選手が揃っていた。前線は豊富な運動量を求められるため、試合によってはコンディションに大きなバラ付きが生まれる。加えて薄い選手層。メンバーを入れ替えることもままならない。それを補う〝二の矢〟が後ろに人数を割く3バックシステムだったが、実はキャンプ中も1試合、約20分間試しただけ。ほぼ〝ぶっつけ〟で3月1日のACL済州(韓国)戦を戦った。当然、付け焼き刃の戦術は機能しない。前半2失点、後半も2点を加えられ、1―4の完敗を喫した。それでも3バックシステムを90分間、やり通した。

「あそこでシステムを変えてしまうと、今後3バックを使うことができないと考えていた」と、長谷川監督はのちに明かした。乱暴な言い方をすれば済州戦を〝捨て試合〟にしてしまったが、効果はあった。続く柏レイソル戦、FC東京戦ではともに3得点で結果も内容も圧勝。同時に、このシステム変更が堂安や初瀬にチャンスをもたらした。

チャンスをつかんだ若手と危機感を募らせるベテラン

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 中盤の3枚。両翼の左はDF藤春の定位置で決定していた。だが右は米倉恒貴が昨年末に負った負傷で離脱していた。守備力も当然だが、攻撃力も求められるポジション。まずスタメンに抜擢されたのが初瀬だった。今季初先発となった柏戦では1アシスト。そこから5試合連続でスタメン出場を果たした。そして、堂安は途中出場で試合に絡む機会が多くなった。

 堂安にとって4月が大きなターニングポイントになったのは多くの読者の方がご存じだろう。大宮戦でプロ初得点を含む2得点。そこからはFWや攻撃的MFとして先発の座をつかみ取ったが、筆者はアルビレックス新潟戦(4月1日)とセレッソ大阪戦(同16日)の2試合が大きな意味を持つと考えている。

 新潟戦は1点を追う後半途中から出場し、積極的な仕掛けで流れを変えて逆転勝ちを演出。一方、C大阪戦は0―0の時点で右ウイングバックとして投入されたが、結果として自身のサイドを突かれ2失点した。指揮官は「今季はボールロストをする回数が格段に減った。運動量も徐々に上がっている」と、使い続けたことで成長していることを実感したが、守備面での不安はある。悩んだだろう。同時に今季開幕から全試合先発出場を続けてきた遠藤のコンディションが落ちている要素も重なった。

 導き出した解は、大宮戦での〝原点回帰〟だった。遠藤を活かす3バックを一時封印。オーソドックスな4―4―2システムに戻し、遠藤をベンチに置いて、堂安を2トップに起用した。結果が出なければ批判されるのは覚悟の上。その賭けに長谷川監督は勝った。6―0の圧勝。チームは今季Jリーグ最高のチーム走行距離125.468キロをたたき出した。井手口が「いつまでも頼っていられない」と口にしたように遠藤不在ではリズムができない、遠藤がいなければ機能しないと揶揄された貧弱なイメージはなかった。全員がハイプレスを掛け続ける、むしろ遠藤抜きだからこそできた新しい形だ。

 手を変え、品を替え、知恵を絞り、汗をかき…最後は〝アンタッチャブル〟な存在だった遠藤にまで手を加えた。それは長谷川監督が1日ごと、1試合ごとにめまぐるしく変化する状況に対処していったことで生まれた。上積みは大きくなかったが、その分は底上げで補いつつある。自前選手を育ててきたクラブの矜持でもあろう。

 もちろん、遠藤が不必要になったわけではない。長谷川監督は「コンディションが良くなれば、もちろんファーストチョイス」と明言し、遠藤も横浜FM戦後、こう話した。

「色々と考えて、新しいものにチャレンジしていきたい。ベンチの選手は試合に出ている選手よりも努力をしないといけないから」

 その先には、また新しいG大阪が見られるはずだ。


飯間健

1977年9月24日、香川県高松市生まれ。02年からスポーツニッポン勤務。06年からサッカー担当。名古屋、G大阪、浦和、鹿島、日本代表などを担当する。