文=長沢正博

霜田前技術委員長はU-19監督候補だった!? 日本人候補者も浮かんだ監督選考

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 3月28日に埼玉スタジアムで行われたアジア最終予選、日本対タイ。アウェイゾーンを埋め尽くしたサポーターの思い届かず、日本の久保裕也の活躍などでタイは序盤から失点を重ね、0ー4で敗れた。その3日後には2013年からチームを率いていたキャティサック・セーナームアン監督(当時)が辞任を表明。元ガーナ代表監督のセルビア人指導者ミロヴァン・ライェヴァツ氏が新たに1年契約(1年の延長オプションあり)でタイ代表監督に就任した。

 今回の代表監督選考に関しては、日本サッカー協会前技術委員長の霜田正浩氏が候補となったことで日本でも報道された。実際に霜田氏は4月にバンコク入りし、タイサッカー協会のソムヨット・プンパンムアン会長ら幹部と面談している。

 ただ協会は今回、霜田氏、ライェヴァツ氏以外にも元マンチェスターユナイテッドコーチのレネ・メウレンステーン氏、2006年のドイツワールドカップでサウジアラビア代表を率いたマルコス・パケタ氏、2007年のAFCアジアカップでイラクを優勝に導いたジョルバン・ビエイラ氏、日韓ワールドカップではカメルーン代表監督を務め、元タイ代表監督でもあるビンフリート・シェーファー氏、タイリーグの強豪ムアントンユナイテッド前監督のドラガン・タライッチ氏、元中国代表監督のアラン・ペラン氏、さらには前ブラジル代表監督ドゥンガ氏の代理人という人物まで、多士済々なメンバーと面談している。また、ワールドカップなどの経験を重視することを協会は表明しており、ガーナを指揮して南アフリカワールドカップでベスト8に進出しているライェヴァツ氏に関しては正式発表前から内定報道も一部出ていた。

 そもそも霜田氏はタイでは当初、“エージェント経由でプロフィールが送られてきた”という表現で、U-19代表監督候補の一員としてメディアで名前が挙がっていた。タイ代表監督の座は過去の実績の比較で逃した霜田氏だが、タイサッカー協会のヴィタヤ・ラオハクル氏は霜田氏に関して「U-20など、まだチャンスはあると思う」という発言をしており、今後も何らかの関わりが持たれる可能性がある。

最終予選、高かったアジア強豪国の壁。一方で育成年代の環境整備は着々と 

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 強敵イラクを抑えて2次予選をグループ首位で通過し、日韓大会以来となる最終予選へ進出。悲願のワールドカップ初出場へ向け、サポーターの期待も高まった。ただ、東南アジアで近年タイトルを総なめにしているタイも、最終予選仕様となったアジアの強豪国との戦いに苦しむことになる。

 初戦のアウェイ、サウジアラビア戦で0ー1と惜敗すると、その後も日本(ホーム●0ー2)、UAE(アウェイ●1ー3)、イラク(アウェイ●0ー4)に連敗。ホームでのオーストラリアとの試合は自慢のパスワークが冴え、2ー2で引き分けたが、今年に入ってサウジアラビア(ホーム、●0ー3)、日本に連敗し、プレーオフに回る3位以内への道も絶たれた。

 近隣国との戦いではフィジカル、テクニックで相手を上回り、試合を優勢に進めることが出来ても、強豪国相手では守備で持ちこたえられなくなる。ライェヴァツ監督も就任会見で失点の多さについて触れていた。その点、新監督のチーム作りが注目される。

 選手層のさらなる上積みも必要だ。先の日本戦も中盤の核サーラット・ユーイェン(ムアントンユナイテッド)や主将のティーラトン・ブンマタン(同)といった中心選手を欠き、影響が如実に現れた。一方の日本は最終予選を通して原口元気や久保といった新戦力が次々と台頭した。北海道コンサドーレ札幌にレンタル移籍するチャナティップ・ソングラシン(同)ら以外にも、さらなる突き上げが欲しい。

 将来の代表強化へ向けて、タイサッカー協会も着々と手は打っている。今年に入ってエコノメソッドを提唱するスペインのサッカーサービス社と契約。今後は2020年の東京オリンピック出場を目指すU-21をはじめ、U-19、U-16、U-14といった各育成年代の代表監督をサッカーサービス社から派遣された指導者が務め、一貫した指導方針の下で強化を図っていく予定だ。その一方で、「Thailand’s Way」というコンセプトを掲げ、タイらしいスタイルの確立を目指している点も興味深い。

 育成年代の有望選手を集めたナショナルアカデミーの設立も準備している。U-13、U-15、U-17、U-19を対象とした全国規模の大会も新たにスタートした。目標に置くのは2026年に開催されるワールドカップへの出場。参加チーム数が48へと大幅拡大し、アジア枠は最大で9。タイにとっては大きなチャンスの到来となる。

 念願のワールドカップへ、タイはその歩みを一歩ずつ進めている。


長沢正博

ライター、編集者。バンコク在住。1981年、東京生まれ。大学時代に毎日新聞で学生記者を経験し、卒業後、ウェブ制作会社勤務などを経て、ライター業に従事。 2012年からタイに移り、現地の日本語情報誌の編集に携わってタイのビジネスシーンなどを取材する傍ら、タイのサッカーを追い、日本のウェブサイトなどにタイの サッカー情報を寄稿する。中学、高校時代のポジションはGK。