文=北條聡

放映権料は「10年間」という期間限定

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 10年間で約2100億円である。Jリーグが2017年から手にする放映権料のことだ。イギリスの動画配信大手『パフォーム・グループ』の擁するストリーミングサービス『DAZN(ダ・ゾーン)』と大型契約を締結。減収の危機に直面し、資金調達の必要に迫られた数年前の苦境がウソのようだ。

 これによって、Jクラブへの「均等配分金」が増額された。J1が1億8000万円から3億5000万円、J2が1億円から1億5000万円、J3が1500万円から3000万円となる。J2以外は倍増だ。

 J1の賞金総額も3億5000万円から4億8000万円へ。1位が3億円、2位が1億2000万円、3位が6000万円に増額される。また、成績に応じて支給される「強化配分金」(注・ACLの出場に絡む1位から4位までが対象)や「降格救済金」(注・降格した場合、翌1年間は前カテゴリーの配分金の80%が保証される)が創設されている。

 村井満チェアマンによれば「クラブの財政基盤をある程度、安定させる」狙いだ。それ自体は、大変喜ばしいことだが、増額の元手となる放映権料は「10年間」という期間限定である。果たして、10年後、それが増えるのか、それとも減るのか。額が大きい分、リスクもまた大きい。どちらへ転ぶか、まさに天国と地獄である。

 仮にDAZNが手を引いた場合、これだけの金額を払える企業が現れるのかどうか。そもそも、10年後のJリーグにそれだけの価値があればDAZNが契約の更新を考えるだろう。複数の媒体へほぼ均等に放映権料を売るリスク分散型ではないから、契約が打ち切られた場合のダメージが大きい。ともかく「次」があるかどうかは、これからの10年で決まるわけだ。

明るい未来のためにすべきこと

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 かつて日本代表を率いたイビチャ・オシムは、しばしば「今の(人材)育成が、10年後の未来を決める」と話していた。種を蒔いてから収穫期を迎えるまで、ざっと10年というわけだ。10年後に明るい未来を望むならば「今」から手を打つ必要がある。

 主に財政基盤の安定を目的とした各種の「増額分」をわずか2、3年という短期的な成功のために浪費されては困る。舵取り役(社長やオーナー)が数年単位で入れ代わるケースの多いJクラブには、中・長期的なプランの立案、実行が不得手という印象が強い。すぐに結果が出ないことは「やりたくない」ということか。

 補強に大金を投じれば、短期的な成功につながりやすいが、それが長続きするかどうかはまた別の話だ。勝ち続けるチームをつくるのに、優秀な人材の「安定供給」を促す育成システムの強化、確立に大金を投じる方が、長い目で見たときのコストは安いかもしれない。

 ハード面の充実にも同じことが言える。例えば、スタジアムだ。G大阪の吹田スタジアムは計画の検討から、完成まで、およそ8年の歳月を要した。だが従来よりもキャパが増え、観客動員数も増加。それによる収益増を補強費に回して常勝軍の足場を固めれば、さらに集客が増える好循環を期待できる。さすがに新スタジアム建設はハードルが高いが、観客への「おもてなし」を充実させるアイディアは、いくらでもあるだろう。

 何より、ハード面への投資には「当たり・はずれ」が少ない。いずれ劣化するにしても、基本的には「丈夫で長持ち」だ。こうした持続可能性の高いモノ(分野)への投資こそ「10年後のJリーグ」を明るく照らす布石となるのではないか。

 増額された資金を、いかに有効活用するか。その運用の仕方、使い道が「いま」問われている。2100億円という大きな数字にとらわれて「当面は安泰」などと、呑気にあぐらをかいている余裕はない。


北條聡

1968年、栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、Jリーグが開幕した1993年に『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。日本代表担当、『ワールドサッカーマガジン』編集長などを経て、2009年から2013年10月まで週刊サッカーマガジン編集長を務めた。現在はフリーとして活躍。