文=北條聡

「一見さん」にとってJはハードルが高い

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 消費者目線でみると、Jリーグは実にハードルの高いエンターテインメントだろう。雨に濡れ、寒さに凍えかねない屋外イベントというだけではない。

 人口密度の低いエリアにスタジアムがあるような場合は、アクセスにも「金と時間」がかかる。チケット代に加えて、こうした移動のコストも消費者についてくるわけだ。最寄り駅から数分でたどり着く球場が少なくないプロ野球と比べると、アクセスの悪さが気になる。

 満員電車に揺られて、やっと最寄り駅に到着すると、今度はバスやタクシー乗り場の長い行列が待っている。いまや徒歩で15~20分くらいの距離にあるスタジアムなら御の字だが、いわゆる「一見さん」はそう思ってはくれないだろう。スマホひとつで楽しめる時代。映像でいいや――と、なりかねない。いや、そちらを選んでもお金(視聴料)がかかるのだ。

 インフラが充実している首都圏のクラブでもアクセスが悪い。それが、顧客の新規開拓を目指す上での大きなネックになるのではないか。いや、実際にそうなのかもしれない。年に1、2回の観戦なら、こうしたマイナス面に目をつぶることもあるだろう。だが、スタジアムに足しげく通うリピーターへの「転身」を促すには、大きな壁と言っていい。

 車社会の地方は大都市と事情は異なるものの、渋滞や駐車場の確保などに「金と時間」がかかる。必需品とはいえ、車の所有も難しくなる時代が来るかもしれない。とくに経済的に余裕のない若者世代はそうだ。スペインなどでは、スタジアムへの移動に車よりもバイクを利用するケースが少なくない。

 最近、日本では交通事故における高齢者ドライバーの割合が増えている。高齢化が加速する地方では、車社会の在り方が問われる時代は来るかもしれない。自動運転車の実用化が近いとも言われるが、すんなり車を買い替える余裕のある人が、どの程度いるか。

動員力向上に必要なのは顧客目線の施策

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 そこで、Jクラブが移動コストを軽減する発想をもってもいい。地方にあるイオンやアリオといった大型のショッピングモールは集客の一環として、最寄り駅や乗降客数の多い駅などから無料送迎バスを走らせて、若者からお年寄りまで幅広い客層を大量に呼び込んでいる。

 2017年から増額される各クラブへの配分金の使い道として、選択肢の一つに数えてもいいはずだ。現場の人々は補強ばかりに目を向けるが、結果(成績)に大きく依存しない動員力を手にする近道は、こうした顧客目線の施策なのではないか。

 そもそも弱肉強食のプロの世界で「常勝」を売り物にできる強者は、ほんの一握り。勝ったり負けたり、あるいは負けの数が上回っても、極端に集客力が落ちないためのアイディアが必要だろう。結果(成績)だけが浮沈の基準なら、大半のクラブが「負け組」なのだ。

 無論、結果も重要だが、それだけを追求しても、安定したクラブ運営にはつながりにくい。逆に集客を最優先に考えるクラブは結果がついてきたときに、それがそっくり「プラス」として上乗せされる。

 観戦へのインセティブを左右し得るアクセス、インフラをどこまで改善できるか。増額された配分金が10年にわたって転がり込むスタート地点にあるいまだから、長いスパンで、より良いクラブ運営の在り方を突き詰めたいところだ。


北條聡

1968年、栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、Jリーグが開幕した1993年に『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。日本代表担当、『ワールドサッカーマガジン』編集長などを経て、2009年から2013年10月まで週刊サッカーマガジン編集長を務めた。現在はフリーとして活躍。