文=杉園昌之

9年半を過ごした浦和から世界へ羽ばたく関根貴大

関根貴大は目標の一つだった欧州移籍が決まっても、報道陣の前で笑顔を見せることはほとんどなかった。口元を引き締めながら、苦渋の決断だったことを明かしている。

「チームの現状を考えると、このタイミングで本当に移籍していいのかどうか悩んだ」

J1で8位(8月8日時点)と低迷し、7月30日にはミハイロ・ペトロヴィッチ監督が成績不振で解任されたばかり。リーグ戦21試合に出場する右アウトサイドの主力は、責任を感じていた。

クラブ愛は人一倍強い。プロキャリアは4年目ながら、浦和一筋で約9年半。12歳からアカデミー組織でプレーしてきた。ジュニアユース時代に池田伸康コーチ(現トップチームコーチ)から「レッズ魂」を叩き込まれ、身も心も赤色に染まっている。

「浦和レッズのエムブレムを胸に付けているかぎり、誇りを持って最後まで戦えと教えられてきた」

ドリブラーとしての個性を伸ばしてくれたことにも感謝しており、「伸康さんがいなければ今の僕はいない」としみじみ振り返る。原口元気(現ヘルタ・ベルリン=ドイツ)も育てた池田氏の指導法は一貫していた。

「原口、関根にドリブルをするなと言ったことは一度もない。『やるなら徹底してドリブルで勝負しろ』と言ってきた」

クラブに育ててもらった恩義を感じているからこそ、逡巡した。

ドルトムントとの親善試合で受けた衝撃

©Getty Images

7月下旬にインゴルシュタットから正式なオファーが浦和に届き、関根が直接耳にしたのは29日の札幌戦後だった。3年前、浦和から同じようにドイツへ移籍した原口にもすぐに相談した。昨冬、原口を訪ねて、ブンデスリーガを数試合、生で観戦。「実際にスタジアムで見ると、やっぱり違う」と大きな刺激を受けた。ドイツで大きく成長する先輩の姿も間近で見て、感じ取るものもあったという。現チームメートからは「頑張ってこい」と背中を押してもらった。そして、最後は自分の心の声に素直に従った。

「挑戦したい。やれるのか、試してみたい」

プロフットボーラーとして、機が熟したという判断なのだろう。「海外移籍の時期は早くもないし、遅くもないと思う」。プロ1年目から出場機会をつかみ、J1では通算106試合に出場し、13得点(8月8日時点)。昨年のリオデジャネイロ五輪代表メンバーからは漏れたが、J1での実績は積んできた。本人も浦和の主力としてプレーしてきた自負を持っており、「意味のある3年半だった」と言葉に力を込めていた。

今年7月15日、ドイツのドルトムントとの親善試合(●2-3)では世界のレベルを肌で感じ、手応えも得た。相手がプレシーズンの序盤だったことを前置きした上で、「通用するところもあった」と胸を張る。一方で2ゴールを決めた20歳のトルコ代表エムレ・モルを見て、衝撃も受けた。試合後、「同じドリブラーとして、純粋にすごいなと思いました」とあっけに取られ、レベルの差も痛感していた。

Jリーグで自信は深めても、地に足はついている。移籍するインゴルシュタットは2部リーグに所属。それでも、昨季までは1部リーグに所属していた実力あるチームで、すでにリーグ戦は開幕している。「ここからが新しいスタートになる。自分を主張して、持ち味を出していきたい」と意気込んでいた。新天地での戦いに向け、静かに闘志を燃やしている。

長谷部誠、原口元気とともに浦和が関根に寄せる期待

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連日、移籍に関する報道陣とのやり取りを遠目で見ていたクラブ幹部は、複雑な表情を浮かべていた。就任したばかりの堀孝史新監督を含め、クラブとしても「一緒に厳しい現状を乗り越えてほしい」と慰留に努めた。あまりに急な話に驚き、穴埋めもままならないのが実情。ただ、クラブ幹部は「このタイミングだけが問題だった」と本音をこぼす。

浦和は契約条項さえクリアすれば、選手たちの海外移籍を基本的には容認している。アカデミー時代から「原口2世」として大いに期待し、手塩にかけて育ててきた関根であっても、それは同じ。むしろ、世界へ羽ばたき、大きく成長してまた浦和へ戻ってくることを願っており、長谷部誠(フランクフルト=ドイツ)、原口、そして関根の帰還を心待ちしていた。淵田敬三社長は「実力があるからオファーがきたと思う。世界に浦和レッズの名前を知らしめるほどの活躍を見せてもらいたい」と期待を込めていた。

クラブ幹部は以前から関根が欧州移籍の希望を持っていることを把握しており、同時に浦和への忠誠心をしっかり持っているのも知っていた。「原口の背中を見て育っているし、そういう教育もしてきたから」と話す。かつて先輩が移籍金をクラブに残し、アカデミー施設などを充実させたように、関根がそれを倣うのは自然の流れだった。契約満了まで待ち、クラブに移籍金を残さずに移籍する気はさらさらなかったという。クラブとしても、それを決して許してはいない。かつては移籍金ゼロで主力選手を放出したこともあったが、現強化体制では考えられないこと。今回のインゴルシュタットへの移籍に関しても、契約条項通りの違約金、トレーニング費用が入ってくる。「関根資金」はアカデミー施設の充実に充てる予定だ。

「次の世代は関根の背中を見て、また育ってくる」

クラブ幹部の言葉には、自信がにじんでいた。

ドルトムントの強烈なプレスが標準になるなら、Jの未来は明るい(浦和対ドルトムント)

今年から発足した「明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ」、初戦の顔合わせは浦和レッズと、香川真司が所属するドイツの名門ボルシア・ドルトムント。試合は、ホーム浦和の強烈な圧力に苦しみながらもドルトムントが3-2で逆転勝ちを収めました。数多くの得点機を作った浦和の健闘が光る一方、来日翌日かつシーズン開幕前、さらに新監督就任1週間というハンデだらけのドルトムントが見せた強さはさすがドイツの名門というべきもの。この試合の解説を、ブロガー・らいかーるとさんに依頼しました。

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収益は浦和の約7倍! ドルトムントの精緻なブランドマネジメント

2017年7月15日に浦和レッズと対戦する、ドイツの名門ボルシア・ドルトムント。日本代表MF香川真司選手が所属し、バイエルン・ミュンヘンと並びドイツを代表するクラブの一つとしてサッカーファンにはおなじみです。そんなドルトムントが、わずか10年前に倒産の危機にあり、ブランドコントロールに本格的に乗り出したことはあまり知られていないでしょう。紐解くと、そこには日本のプロスポーツが参考にすべき事例が多々含まれていました。帝京大学経済学部准教授であり、プロクリックスでもある大山高氏(スポーツ科学博士)に解説を依頼しました。

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杉園昌之

著者プロフィール 杉園昌之

1977年生まれ。ベースボール・マガジン社の『週刊サッカーマガジン』『サッカークリニック』『ワールドサッカーマガジン』の編集記者として、幅広くサッカーを取材。その後、時事通信社の運動記者としてサッカー、野球、ラグビー、ボクシングなど、多くの競技を取材した。現在はフリーランス。