文=飯間健
元アスリートに開かれている門戸
「アスリートのセカンドキャリアをサポートしていきたいので宜しくお願いします」――。
日本とは時差14時間。遠く離れたメキシコに戦いの場を移した日本代表MF本田圭佑(31=パチューカ)から知人を通しての伝言だった。自身は新天地への順応、右足首痛からの回復途上。だがピッチ外へ目を向けられる余裕は、ある意味〝本田圭佑らしさ〟であり、安心した。
プロサッカー選手であると同時に本田には違う肩書きがある。「Entrepreneur and Educator」。公式Twitterに記載されているのだが「起業家」と「教育者」だ。その本田の所属事務所『HONDA ESTILO』が先般、人材派遣会社『Next Connect(以下ネクコネ)』に出資した。
ネクコネの代表取締役を務めるのが、木村隆史氏(34)だ。大学卒業後、幾度かの転職を経て、2013年9月にHONDA ESTILOに入社。人事担当を任された。そして今年2月にネクコネを設立。6月から本格稼働させた。ネクコネの特徴は、アスリートのセカンドキャリアを積極的に支援しているという点だ。設立から2カ月。新事業の現状と可能性、今後の展開などを木村に聞いた。
まず走り出しはどうか。
「企業は数百社。様々な分野がありますが、大手上場企業もあります。営業職を前面に押し出す会社さんが〝アスリートを取りたい〟と言ってくれています」
求職者数と求人数のバランスは2009年を最低に、13年にはほぼ同数に推移。昨年からは求職者よりも求人数が上回っている。ネクコネも一般的市場と同様に現在は求職者数よりも求人数が上回っているという。売り手市場であり、またアドバイザーを務める本田圭佑の〝ブランド力〟も追い風になっているだろう。一方で逆説的だが〝本田圭佑〟という名前が、求職者の登録のハードルを上げている可能性もあるのだろうか。
「求人登録する際に〝セカンドキャリア〟〝元アスリート〟をうたっているので躊躇してしまうのはあると思います。ただ、もっと垣根は低いんですよね。スポーツというよりも何かに集中して打ち込んだ人。将棋など文化系でもいい。趣味をとことんまで突き詰めて、熱中して、頑張ってきた人を支援しようしている。そういう意味での〝セカンド〟です。現役ボクサー、競艇選手…プロではないけどバスケットボールの全国大会出場者など現アスリートや元アスリートの登録がありますが、ピックアップしたいのは中高大で部活動を続けてきた人。〝アスリート〟の感覚がある人は登録してもらえれば嬉しいですよね」
再就職の弊害となるアスリートの先入観
体を動かしてきた人物やプロを目指していた人物だけがアスリートではない。本田や木村が求める〝アスリート〟とは、どんな分野であろうと「努力し続けてきた人物」を指す。その意味では15~39歳までの運動経験者は約313万人に上り、文化系の人材も含めると500万人以上になるだろう。ネクコネは、そこに人材が埋もれていると推察している。
15~39歳のアスリート競技人口数 約3,135,000人
出典:総務省「平成23年社会生活基本調査」アスリートのプロ選手数 約6,500人
各選定基準
野球: 支配下登録選手or育成選手
ソフトボール: 女子1部および男子1部クラブに選手登録
バレー: Vリーグクラブで選手登録
バスケ: B1、B2クラブと契約
サッカー: J1~J3クラブと契約
卓球: 日本リーグへの競技者登録者数
テニス: 不明
バドミントン: SJリーグクラブの選手登録者数
ゴルフ: 不明
柔道: 全柔連のA強化及びB強化の登録選手数
「私は13年9月にHONDA ESTILOに入社して人事部で働いていました。スポーツ経験者を採用することが多かったけどマジメにスポーツしかやっていなくても、実は実社会においてもポテンシャルが高いと分かった」
本田圭佑の才能―筆者は彼をかれこれ10年以上追い続けているが、最も秀でているのは「努力し続けられる才能」だと考えている。プロフェッショナルな世界で大成しなくても、努力し続けてきた人間は、違う分野で輝ける。その〝キッカケ〟としてネクコネをプラットホームにして欲しい思いが詰まっている。
「アスリートの人は自分の価値が〝スポーツにしかない〟〝これしかない〟という先入観を持っている人が多い。それをコンサル(ネクコネ)を通して〝そうじゃないですよ〟と理解してもらっていきます。一般的な求職者でも挫折を味わうのはあると思うけど、そこの落差が低い。ただスポーツやっていた人や何かを目指している方は、夢が叶わなかった時の落胆が大きい。でも、これまでやってきたことが違うフィールドに向かうだけ。どういう企業があって、どういう転職活動すれば良いか分からない。自分にできるか分からない。自信がない、というところから始まるので、まず時間をかけて信頼関係を築きあげていきます。自信さえ付けてもらえれば、日々努力してきた人。自己分析能力も高い。スタートさえ切れれば、企業からも重宝される。そこを説明していきます」
最後に聞きづらいことを聞いてみた。筆者は転職をしたことがないが、過去に何回かは考えたことがある。求人サイトに登録しようとしたが、記入項目が多く、途中で断念してきた。それは転職に対しての気持ちが中途半端だったからだが、何かを目指してきた人物が挫折し、違う分野に目を向けなければならなくなった時、そのエネルギーをエントリーシートに注げるのか。また文章を生業とする筆者ですら諦めてしまうのに、文章を日々書く習慣を持たない人間にとってはより高い障害とはならないのか。
「そこのジレンマはあります。おっしゃるとおり、それで〝面倒くさい〟という人もいる。確かに現状は項目が多く、登録までのハードルを高くしています。それは我々も仲介人として企業に紹介する上で、全ての項目を書かない人は当日に来ないケースがあり、企業に迷惑が掛かるからです。登録者の門戸を拡げることも検討はしていますが登録者の履歴書、職務経歴書の添削もしますので、1人に掛ける時間は数時間を必要としています」
欲しているのは過去の実績やスキルではなく、今、その瞬間を〝努力できる人物〟である。
メキシコ初の日本人プロ選手に訊く、本田圭佑“反撃”のカギとは?
メキシコ1部のパチューカへ移籍した日本代表MF本田圭佑が苦しんでいる。リーグ戦はすでに第5節まで終了したものの、いまだベンチ入りもできていない状況だ。来年のワールドカップを見据えても、ここから反撃ののろしを上げていく必要がある。メキシコで日本人初のプロ選手となった経歴を持つ百瀬俊介氏が、現役時代の経験を交えながら、本田圭佑 反転攻勢のキーワードを語った。
本田圭佑、パチューカに移籍。現地メディアはどう報じたか
日本代表のMF本田圭佑の去就が14日に決まった。イタリアの名門ミランで10番を背負った男が、新たに選んだ所属先は、メキシコの名門パチューカだった。日本では瞬く間に話題となった日本代表の中心選手の移籍。現地では、どのように報じられたのか。
ハードが大きいスポーツ選手に どんなソフトを入れていくか 長友佑都×池田純《前編》
明治大学を卒業後、プロのサッカー選手となり、現在はイタリアの名門インテルで活躍する長友佑都選手。横浜DeNAベイスターズの社長を退き、明治大学スポーツアドミニストレーターなど複数の役職をこなす池田純氏。2人にこれからの大学におけるスポーツ、教育について対談をしていただいた。前編では、池田氏の明治大での取り組みについて、長友選手から鋭い質問が飛んだ。