翌年にJ入りする選手が多数の大学サッカー、見に行く価値は十分 長友佑都×池田純《後編》

聞き手=河合拓

ビジネスのできるスポーツマンをどう育てるか

©荒川祐史

池田 長友さんは明治大学在学中、ここで練習をしていたのですか? 

長友 はい、僕はここで3年間、練習していました。

池田 どうでしたか?

長友 楽しかったですね。でも、体育会なんで厳しかったですけどね。上下関係も厳しかったですし、まだグラウンドも芝ではなかったんです。全部、土のグラウンドで、ガリって言ってトンボみたいなのを毎朝5時半くらいから引いていました。懐かしいですね。

――長友さんが池田さんに対して、すごく興味を持たれたとうかがいました。どういったところに興味を持たれたのですか?

長友 教育とか学生スポーツに、僕自身もすごく興味を持っています。僕は、小学生に対してサッカースクールをやっているんですけど、大学スポーツというのが、例えばアメリカでは、すごい注目度があり、知名度もありますよね? その中で今の明治大学の学生、明治大学のスポーツだけではなくて、日本の大学スポーツが、どういうふうに変わっていくんだろうというところにずっと興味を持っていました。
 そこで明治大学が池田さんをスポーツアドミニストレーターに招かれました。池田さんはベイスターズの社長時代に赤字だった球団を、すごく押し上げたというか、変えていったのですが、どういうふうなことをやれば変えていけるのか興味がありました。そして、その経験を持ったうえで、次に大学スポーツを選ばれたというのは、どういう理由とどういう思いがあったのかなと。プロから学生に行くのには、相当な決断と勇気がないと行けないんじゃないのかな、と僕自身は思ったんです。

池田 いま僕は、明治大学のことだけをやっているわけではないんです。明治大学の学長補佐をやりながらスポーツを見ていますが、それはいろいろやっていることのうちの一つなんです。日本の大学スポーツがビジネスとして、制度として、組織として発展していたりすれば、もっともっと時間を使うことはあると思います。でも、いまはアメリカの大学スポーツと日本の大学スポーツでは、すごい差があります。 正直、全然人気がないですし、メーカーやスポンサーも付いていない。ですから、なぜ、こういう実態なんだろうということを把握することからはじめなくてはと思っています。

長友 どうですか? 実際、なんでそんなに差が出ているんですかね?

池田 いろいろとあるんですけど、まずは人の問題ですね。日本の大学スポーツには、ファンづくり、人気を高めていく経験をした人とか、そういうことがわかっている経営者的な人、トップになる人がいないんです。プロスポーツは昔からずっと言われているのは、「経営ができていない」ということ。結局は裾野とトップの問題で、裾野の底辺が広がっていないし、上もいない。上がいないから、裾野が広がらないのかもしれない。どっちが先かという、にわとりと卵の話なんです。あとは、どういう風になっていくべきかというビジョンが必要です。ビジョンを持つためには、現状を的確に把握することが必要です。
 僕はいま、Jリーグの特任理事、ラグビーの特任理事を務めながら、ラグビーのワールドカップにも絡んでいます。また、スポーツ誌のNumberと組んで教育も始めています。こうしたことをやっているのは、僕がスポーツの第一人者になろうと思っているからです。これまでは野球の経営だけしか知りませんでした。でも、リーグビジネスも知っています、サッカーも知っています、ラグビーも知っています、ワールドカップという世界的な大会の仕組みもわかっています、教育もわかっています、アマチュアでは大学スポーツもわかっています、と言えるくらい様々なことを学んで、全部の日本のスポーツの第一人者になろうと思っているんです。
 その目線で見ても、大学スポーツにはもっと仕組みとして強くなってほしいですし、人気が出てほしい。もちろん、お客さんにも見てもらいたい。そして学生にもサッカーや野球をやっているだけではなくて、将来に向けてもっと適切に勉強もしてほしい。もっとメディアに対しての意識も高くなってほしい。では、そうした教育は、どういう風にやっていけばいいの? というところにも興味があるんです。

長友 なるほど。

池田 プロ野球には、ドラフトで高校からも多くの選手が入ってきます。 彼らは社会人の経験も、大学生の経験もないから、メディアとどう対峙していいかわかっていません。また野球選手をクビになったとき、わかりやすく言えば多数がうどん屋か焼肉屋になるんです。サッカー選手も日本のJリーグに行ったとしても、そんなに給料が高いわけではありませんよね? 現役を引退した後は、どうするのか。本来、そのための教育を大学でしてもらわないといけないんです。

長友 プロになれる人は、一握りですからね。結局、ほとんどの選手がプロになれなくて、社会人になって、どこかで働くことになったときに、結局サッカーだけとか、スポーツだけとかしてなくて、何も残っていないという状況は寂しいですよね。せっかく大学に行って、勉強もできて、学べる場があり、しかも色々な人と出会って人脈も形成できる環境がある中で、確かにそういう意識の学生って少ないかなって思います。まぁ、僕も学生時代はそんな意識なかったですけどね。本当にサッカーばっかりやって、あと授業に出て単位を取ってという感覚だったので。僕はプロになることができたから、まだよかったですけど、ほとんどの選手はなれませんでした。

池田 その点は、アメリカやヨーロッパと違いますよね。日本の体育会だと、先輩、監督やコーチからも、「勉強なんかいいからやれ」って、言われることも多くありませんか? それを一気に変えるのは、日本の文化や日本人のしがらみとかがあって難しい。でも、いまは大学にもスポーツ科学といった学部ができたりしています。もちろん、それもいいのですが、例えば明治大の体育会サッカー部出身の学生は、Jリーグのビジネスの仕組みが分かっているとか、世界のサッカーの構図やビジネスがわかっているとなると、実社会に出るときに人材として興味を持ってもらえる可能性が高くなります。でも、そういうことを教える学部とか教育が、いまの日本にはまだないんですよ。

長友 なるほど、なるほど。

池田 せめてそこだけでも勉強して大学を出てくれれば、どこかの球団が雇ってくれるかもしれません。また、どこかのアカデミーが雇ってくれるかもしれません。チャンスがひろがります。

長友 確かに、大学スポーツに取り組んでいる選手たちが、大学で経営学を学んで、世界に出ていくのはいいかもしれませんね。いまはJリーグにも個人のオーナーがいるというよりも、企業がついて出資している形じゃないですか? これは僕の勝手なイメージなんですけど、結局、そのトップになる人が経営は知っていたとしてもサッカーは知らない、逆にサッカーは知っていたとしても経営はわかっていないと。多分、そういう人もたくさんいるんじゃないかなと思うんです。でも、こうやって本当に大学で厳しい世界でチャレンジをして、その中でも勉強して経営学を学ぶ。そういう選手たちがJリーグの経営に携わっていけば、全然、話が違ってくるのかもしれませんね。

好きなことを学べて将来にも役に立つ授業の実現へ

©荒川祐史

池田 普通の経営学でも、スポーツの経営と企業の経営って違う部分もあります。選手とどう対峙するのかっていうこともあります。おっしゃる通りで、サッカーのことも、いきなりはわかっていないと思うんです。僕もベイスターズの社長に就任した時は、野球の素人だったんですよ。でも、5年もやっていると、当然目が肥えてきますし、GMからも僕の野球を見る目を信頼してくれるようにもなります。ファーム(2軍)に行って「この選手、今いいですよー」って言うと、「おー、そうか。そう言ってくれるなら大方間違いないよね」って言ってくれるようにまでもなります。毎日真剣に見るので、5年も経つとある程度に目も肥えてきます。とはいえ、プレーヤーではなかったので、野球のスカウトとか練習指導とか技術的なことをやるつもりはありませんし、やれるとも思っていません。それでも、そうした人たちとも共通言語で信頼感ある会話ができないとダメで、そのためには野球を見る目だけはプロと対峙できるレベルにならないといけないんです。一方で僕は経営が得意な側です。経営のプロの目線と野球を見る目線を持ち、野球人とのコミュニケーションをしっかりとることができれば、組織は統率できるわけです。
 僕が大学生のアスリートにやってほしいなと思うことは、たとえばサッカーをやっているのであれば、自分がやっているサッカーがどういったビジネスなのか。Jリーグはどういうふうになっているのか。選手が移籍するときに代理人は何をやっているのか。欧州サッカーはどういう仕組みになっているのか。ブラジルはどういう現状なのか。というように、せめて、自分の関わっているスポーツのビジネス、経営を学んでほしいんです。大学には、学生にそうしたことを教えてあげる機会を設けてもらいたいんです。

長友 それ、教えてもらえたら最高ですね。僕は全くそういうことに気づかないまま、大学生生活を送っていたんでね。

――でも、そういうちょっとしたヒントがあったら、多分、学生たちも興味を持ちますよね?

長友 それは間違いないですよ。僕もプロになれると思っていなかったので、就職活動のやり方をいろいろ先輩に聞いていました。当時は、大企業に入ってバリバリ営業してやろうっていう気持ちでいたんです。でも、たまたまプロに拾ってもらえました。プロになれたからよかったですけど、もしなることができていなかったら、経営のことも、特にスポーツの経営なんて全くわからずに、Jリーグのこともわからなかった。そのまま就職していたら……と思うと、ゾッとしますね。ビジネスの世界で戦えていたのかな? って。

――その一方で、大学生のときにアスリートとしてそれだけやっていた人というのは、取り組んできた競技を見る目は持っているはずです。池田さんからすると、その能力を活かしきれていないのは、すごくもったいないと感じるのではありませんか?

池田 スポーツを真剣にやっていた人は、コンピュータでいうとCPUというか、ハードがすごく大きいんですよ。スポーツをやっていた人というのは、すごくメモリーが大きいんです。ただ、今の日本の大学スポーツを経験した人は、そこにソフトを埋め込んでもらえていない状態で社会にポーンと出されてしまっています。サッカー部で活躍して、キャプテンシーがあっても、突然、「営業しなさい!」と言われると、「いや、どうやってやるんですか?」「一部上場企業ってなんですか?」となってしまう。だから、どのようなソフトを埋め込んであげるかだと私は思います。まずは興味があるソフトじゃないと、大学生でも勉強しないでしょうから。でも、サッカーをやっている人なら、少なくとも、Jリーグのことは興味があるだろうし、ブラジルのサッカーがどうなっているかにも興味を持つかもしれません。

長友 興味を持つでしょうね。

池田 僕、この前、ジーコに会ったんですけど、彼に聞いてわかったのは、ブラジルの選手は結構、食べる意識とか身体作りとか、もっとあっけらかんとやっているのかと思っていたのですが、子供の頃から意識が高いんです。そういう文化がブラジルにはあって、クラブ経営についても「フラメンゴはこうなっている」とか、いろいろなことを教えてもらったんです。このような話は、おそらく学生アスリートも聞きたいですよね。そういった機会が多ければ、そういった知識を多く持てれば、例えばプロでいきなりクビになったり、プロになれなかったときでも、どこかの企業に飛び込んで、いきなり営業マンになろうとしなくても、まずはJリーグに「すみません、僕、なんでもいいから仕事ください」って言えるかもしれない。少しでもチケット営業の仕組みがわかっていたら、どこかのJ3のクラブに行ってもいいでしょう。そうすれば、選手のことをわかっているし、選手とコミュニケーションがとれる人材ですから、球団側、クラブ側としても雇いやすいわけです。

長友 もしそこでJのチームに入れなかったとしても、その仕組みとか経営学がわかっていれば、また違う世界に行っても、ベースは同じだと思います。僕も全然ビジネスのことは知らないのですが、仕事のベースってどれをやっても同じだと思うんです。だから、絶対に無駄にはならないですよね。それが大学で学べるようになるには、学部なのか、そういうことを勉強できる授業があればいいのかわからないですけど、それができるようになればめっちゃ面白いと思いますけどね。

池田 しかも、それで単位がもらえれば……。

長友 最高ですよね(笑)! 好きなことを学べて、それが将来にも役に立つし、単位も取れて……最高じゃないですか!!

池田 それが積み重なれば、「明治の体育会を出た子は、大学の方針で、スポーツビジネスをある程度は必ず知っているんだよね」という、社会からの評価、ブランドにもなっていきます。

――そのあたりのことは、池田さんがこれから手を加えられるところなんですか?

池田 僕は明治大学の仕組みについてはわからないのですが、これからそういう課題点とか、「こういうふうにしていったらいいんじゃないですか?」といったビジョンをアドバイスする立場です。ここでは、僕は責任者ではないですし、社長でもないので。ベイスターズを変えることができたのは、責任と権限が全部あるトップだったからです。僕は、物事はトップが大切だと思っているんです。仮に僕が明治大学のトップだったら、スポーツのことを大きく変えることができますが、大学全体のトップではありません。大学は大学でいろいろなことがあるし、スポーツだけをやっているわけではありません。まずは、そういうスポーツの組織を適切に作って、ちゃんとしたトップを据えたらいかがでしょうか? というのが僕の明治大学へのアドバイスです。

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河合拓

著者プロフィール 河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。