インタビュー・文=藤江直人

【前編】[東京五輪危機]玉木正之の警鐘「体育的リーダーと組織が招いた迷走」

新国立競技場建設、公式エンブレム、そして膨らみ続ける開催経費。東京オリンピックのさまざまな問題点が浮上し、テレビの情報番組などで取り上げられるたびに、コメンテーターとしてTBS系『ひるおび!』をメーンに忌憚のない意見を展開していた玉木氏を、最近見かけなくなった。

他にも問題が山積しているなかで、2020年7月の東京オリンピック開幕は待ってくれない。いったい何があったのか。苦笑する玉木氏の口からは、耳を疑うような言葉が飛び出した。

「ゴルフ改革会議の一員として森さんと面会して、ちょっと口喧嘩したとたんに『ひるおび!』から一回も出演の話がこなくなかったのは、何か因果関係があるのかな(苦笑)と僕のほうが聞きたいよね」

何と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長との“口喧嘩”と、テレビ局からのオファーが来なくなったことがリンクしているのでは、というのだ。おそらくは森会長に対する解任動議を、玉木氏が週刊誌上で展開した昨夏の一件が“喧嘩”の幕開けに当たるのだろう。

オフィシャルパートナーとして、批判を自ら封じた主要全国紙

玉木 バドミントンの桃田賢斗の復帰に関して、電話出演でコメントを求められたことは何度かありましたし、関西のテレビ局はいまもスタジオに呼んでくれている。東京オリンピックそのものに最近は大きなテーマがないので、一概には言えないんだけどね。

ただ、テレビ朝日系の『ビートたけしのTVタックル』に昨年秋に出たときも、収録前の打ち合わせで局側から「森さんを批判することはやめてください」「プロ野球の話題で巨人を批判するのもやめてください」と念を押されてね。この件を『ZAITEN』(財界展望社)という雑誌に、そのまま書いたとたんに、ぱったりと呼ばれなくなりました。

一緒に出演した元東京都知事の猪瀬直樹さんは、テレビ朝日側から何も言われていなかったからか、収録では森さんについての批判をいろいろしゃべっていた。僕も「おお、言っとる、言っとる」と思ったけど、オンエアされたときには全部カットされていましたね(笑)。

――メディアが健全に機能し、その役割を果たさなければ、東京オリンピック・パラリンピックでどのような問題が起こっているのかが国民に伝わらないまま、あっという間に開幕を迎えてしまいます。

玉木 テレビというメディアは、ジャーナリズムではないから、そんなものだとも言えるけど、いまはテレビと新聞がクロスオーナーシップですべてつながっていますからね。その意味では、新聞はちょっと情けないですよね。最大の問題は、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞が、2020年オリンピック・パラリンピック組織委員会のオフィシャルパートナーになったことですよ。

韓国との共同開催となった2002年のワールドカップで、朝日新聞が大会のオフィシャルサプライヤーになった。言論機関としてあるまじき最低の行為が、今度は4紙がオフィシャルパートナーになったことで、さらに規模を拡大して繰り返されている。これはジャーナリズムの自殺行為ですね。

何千万円という決して安くはないお金を払ってしまった以上は、東京オリンピック・パラリンピックに関するすべてを批判できないですよね。アンチ東京オリンピック・パラリンピックの人は、軒並みエッセーを4紙で書けなくなった。ここが一番の問題で、いわば言論統制に近いものと言えますね。

たとえばバレーボール会場として新設される有明アリーナは、建設費を安くするための設計替えでエスカレーターが排除された。さらに深刻になる高齢化社会で、5階席まで行くのにエスカレーターがなかったら無理ですよ。そういう単純な点でも、これから先、主要メディアがしっかりと批判できるかどうか心配です。

――東京オリンピック・パラリンピックが終わった後に批判が噴出したときに、開幕まで長い時間があったのにジャーナリズムは何をしていたんだと。

玉木 言われかねませんよね。いま東京オリンピック・パラリンピックについて、きちんと書いているのは東京新聞だけでしょう。中日新聞と中日新聞東京本社が発行している東京新聞は、組織委員会のオフィシャルパートナーになっていませんからね。金を出せと、相当圧力を受けたらしいけど。

でも、金を出せと言われて出して、書きたいことが書けなくなるのはメディアとして最低ですよね。つい最近、朝日新聞の記者から電話取材を受けて、東京五輪の問題点を聞かれたので、メディアの問題も含めていろいろしゃべったけど、最後に「その通りです。けど書けないので申し訳ございません」と言われましたからね。

たとえば、昨夏のリオデジャネイロ・オリンピックの閉会式に安倍晋三首相を出演させたことは、はっきりいって最低最悪の事態です。あの一件をきちんと批判的に書いたのは東京新聞だけですよ。朝日と毎日も少し書いたけどスペース的に小さかった。批判的なコメントを出したのも僕と長田渚さん、小川勝さんの他には数人しかいなかった。

――あえて申し上げると、何が問題なのかもわからない人が多いのではないでしょうか。あれだけの高支持率があれば、国の代表として当然じゃないかと感覚が麻痺している部分があるのかと。

玉木 そうかもしれませんね。森さんが自著『遺書』のなかで「自分が仕掛けたし、IOC(国際オリンピック員会)にも事前に連絡した」と自慢話を披露している。スポーツの政治からの独立はどこに行ったのか、と言いたいよね。IOCも情けないし、おまけに政治家がフィールドに立つなんて、あのアドルフ・ヒトラーですらもやらなかったことですよ。まさに言語道断、恥ずべき行為だと、マスコミがまず徹底的に批判すべきなんですけどね。

批判のないところに、進歩はない。だから成功もないんですよ。どのようなオリンピック・パラリンピックにするのか、という根本的な問題はさておき、大会を成功させたいという気持ちはみんな変わらない。だからこそ、これではいけないという批判は絶対に必要だし、それがジャーナリズムの仕事です。

しかし現状では、オフィシャルパートナーになったことで、新聞が批判精神を十分には発揮できなくなっている。組織委員会の会長が一番悪いと思ったら書かないといけないし、小池百合子都知事が悪いと思ったら書かないといけない。そこがしっかりできているかどうというのは、決して小さな問題ではないんです」

この点は、日本社会そのものが悪くなっていることと決して無関係ではないかもしれない。ドナルド・トランプ大統領が就任してからのアメリカでは、マスコミに対する弾圧がものすごいことになっていますよね。それでもマスコミも絶対に屈しない。そういう違いもあるのかな。

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アスリートではなく政治家をトップに据える組織委員会の前時代的発想

――前編では「オリンピックの普遍的な理念は平和であり、平和運動が政治の一部であることを考えれば、オリンピックから政治を排除するのは無理がある」と指摘されていますが、とはいえあまりに過度に政治利用されるのは論外ですよね。

玉木 19世紀プロシアの将軍クラウセヴィッツは、戦争は政治の延長と言いました。ならば反戦平和の運動も政治活動の一種で、スポーツを通じた平和運動であるオリンピックも、必然的に政治色を帯びる。それだけに、オリンピックから政治を排除しようというのではなく、オリンピックから戦争という政治を排除し、平和という政治を推進する、とはっきり言ったほうがイイ。どうせ政治に利用されるならいい政治に、と思ってきたなかで、現在のままでは僕が考えているオリンピック・パラリンピックとあまりにもかけ離れているんですよね。ただ単に楽しい、メダルをたくさん取った、感動したで終わるのではなく、スポーツと社会との関わりを、もっと深めていかないといけません。その点にこそスポーツの素晴らしさはあります。

日常生活でもスポーツ的な合理的な考え方をどんどん取り入れ、スポーツというものの面白さを知ることで、個人の心も豊になり、社会全体が明るくなる。スポーツは、それほど大きな力をもっているからこそ、政治家も利用したがる。ところが、政治に利用されたらスポーツが小さくなってしまうというか、利用した政治家のものだけになってしまう。企業がスポーツを所有しても同じで、読売新聞社に所有されている巨人は、大きな社会的展開が出来なくなってしまう。そういう意味でのスポーツの大きさというものを、オリンピックをきっかけにして、みんなで育てようということにならないといけません。

たとえば新国立競技場の建設やり直しにしても、本来ならば新国立競技場を管轄する独立行政法人、JSC(日本スポーツ振興センター)の当時の理事長だった河野一郎さんが先頭に立ってけん引しなければいけなかった。それがJSCの有識者会議のメンバーに、森さんをはじめとするお偉いさん方がズラリと並んで、その人たちの圧力を感じながら、利害関係を忖度しなければいけなかったから、結局は何もできなかったんですよね。

僕は小池さんが都知事に就任したときに、東京都が開催する大会なのだから、自分の一番信頼できる人を組織委員会の会長にしなさい、と言ったんだけどね。でも、森会長を辞めさせるのは難しかったみたいで。僕の個人的な考えだけど、肺がんが進行していることを明かしている79歳の森さんに万が一、何かあった場合は室伏さんのような若い国際的な人材が、会長として思い切り暴れてほしいと思っているんだけどね。

――ハンマー投げでアテネ・オリンピックの金メダルを獲得した、あの室伏広治ですか。昨年の日本選手権を最後に第一線から退くことを表明し、いま現在は2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の理事の一人に名前を連ねています。

玉木 森さんが出て来るところに、いつでも室伏がいるんだよね。人格的にも素晴らしいし、英語も話せる。IOCとのパイプも構築できるけど、IOCの選手委員に立候補していたロンドンオリンピック期間中に、選挙活動規定に違反して失格になったことが、ちょっと響いているのかもしれないけど。

――権力闘争の末に任期半ばで辞任しましたが、前回1964年の東京オリンピックの組織委員会の初代会長も津島壽一・元防衛庁長官でした。政治家をトップに据えるという発想が、21世紀のいまも。

玉木 変わっていないよね。2020年をきっかけとして新しく世の中が変わればいいと思ったし、変わるチャンスもあったんだけどね。たとえば室伏をもっと前面に出して、森さんに力があるのなら、もっと後ろに下がって支えてあげるというような役に徹したらよかったんだけどね。

元首相ですから力がある、お金を集めてこられると言ったところで、いまひとつ組織委員会のメンバーが笑顔になっていないのが一番の問題でしょう。問題が山ほどあるのならば、いい五輪にするために、みんなで楽しみながら解決していけばいいんだけど。特に組織委員会に出向している東京都の職員が、早く戻りたくてしかたがないらしいね。本当だとすれば、寂しい話ですよね。

――長い人生のなかで、誰もが携われる仕事ではないのですが。それだけ、組織委員会の風遠しが……。

玉木 悪いと思いますね。トップが喧嘩していたらね。下はトップを見て動くから。ただ、新国立競技場建設計画がなぜ一度失敗したのか。検証委員会の報告書を見ると『あのときは責任の所在がわからなかった。責任をもたない役職のなかに、力のある人が多すぎた』とある。早い話が有識者会議のメンバーに元首相やら何やらの船頭が多くて、横からギャアギャアと言ってきた、ということですよ。

オリンピックの歴史を振り返ると、商業化に転じた1984年のロサンゼルス大会以降で、町として割と成功したのは1992年のバルセロナ、2012年のロンドンくらいかなという感じがしますよね。2008年大会の北京なんて惨状もいいところだけど、中国にとっては国威発揚ができたのだからそれでいい。

前編でも触れたけど、ロンドンがよかったのは招致委員会会長を務め、招致決定後は組織委員会会長を務めた陸上中距離の金メダリスト、セバスチャン・コーに尽きます。当時のロンドン市長が、EU(ヨーロッパ連合)からの脱退の旗振り役となったボリス・ジョンソンでしたけど、オリンピックに対しては何も言わなかった。すべてコーに任せていました。

ならば、ジョンソンは何をしたかといえば、イーストロンドンの再開発です。移民が大勢集まっていた地域をオリンピックパークにして、区画整理をしたうえで新設したマンションに入れるという街作りを進めた。だからこそ、オリンピック・パラリンピック開催にあたって、東京の街をこうしよう、というのがまったく見えてこないのが本当に辛いよね。

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東京オリンピック・パラリンピックのメリットを未だ明確に打ち出せていない

――いま2008年大会後の北京のお話が出ましたけど、開幕前における問題はもちろんのこと、終わった後にも問題が待っている、こんな状況と向き合わなければいけないという課題も存在しますよね。

玉木 最も反面教師としなければならないのは、2004年のアテネ大会後のギリシャの惨状ですね。あまりに大金を投じすぎて、国の屋台骨が傾くほどにギリシャ経済は傷ついたわけですから。いまではリオデジャネイロが、アテネに近い状態になっているというから対岸の火事ではないよね。ゴルフ場なんて、いったい何のために造ったのか、という状況になっているらしいからね。

――全世界に及ぶ金融危機の引き金となった2008年のリーマン・ショックも、元をたどっていけば破綻寸前まで悪化したギリシャ経済に行き着きます。

玉木 リーマン・ショックでギリシャも可哀そうだったという人がいるけど、違うんだよね。アテネ・オリンピック後にギリシャ経済が斜めになって、EU全体の経済が斜めになった結果として、アメリカのリーマン・ブラザース社による低所得者向けのローンが焦げついて破綻した。

そういう順序を考えれば、オリンピック開催は世界経済に対する悪影響も出てくるよね。だから日本でやるとなると、ちょっとそこのところも心配の種にひとつになる。もうひとつ僕が心配しているのが、日本人のモラルの低下。最近国内で開催された国際大会、たとえば2007年に大阪で世界陸上が開催されたでしょう。あのときのボランティアが、あまりよくなかったというんだよね。

競技中なのに色紙を差し出してサインをねだるとか、けっこう乱れていた。日本人はちゃんとする、というモラル的な部分が崩れてきているところがちょっと心配。いま東京都と組織委員会が大もめにもめる、という醜態を見せつけられていると、余計にそう思ってしまうよね。

――僕たちとしては「なぜなのか」という思いの連続なんです。国家的なプロジェクトを1960年代に一度成功させながら、半世紀以上がたったいま、さまざまな分野で進化しているはずの日本社会が、なぜこんなにも無力化しているのかと。

玉木 結局は「東京オリンピック・パラリンピックを開催したら、こんなにいいことがある」ということを打ち出せない点に尽きると思います。その意味ではもともと招致賛成派だった僕自身も反省しなければいけないし、細々ながら「体育からスポーツへ」という原稿を書いているけど、残念ながらあまり反響がない。

それをプロジェクトにしようと一番話した相手が、招致に成功したときの猪瀬元知事だったからね。いまの小池さんには会う機会があるごとにちょっと言ってはいるけど、そのあたりがもっと拡散して、いい情報として共有されていくようになってほしい。森さんが話を聞いてくれるというなら、体育からスポーツへの大転換による社会改革の話を、いつでもさせていただきますよ(笑)。

そうすればスポーツを中心に、オリンピック開催はイコール、平和運動だとみんなが認識したうえで、じゃあ北朝鮮とどのようにつき合っていこうとか、中国とどのようにつき合っていこうとか、そういう考え方も逆に出てくると思うんですよね。そういった喜びにつながる話がまったくない。

最近出てきた明るい話題って、公式エンブレムをあしらった団扇や法被を作ることくらいでしょう。何だかレベルが低いよね。公式マスコットを作るのに、また一般公募する。僕はいかんと思うね。プロが作るべきだけど、公式エンブレム問題をプロに任せて一度ミソをつけたことと関係しているのかな。

――繰り返しますが、問題が山積みになっているなかで、時間も待ってくれません。

玉木 インフラや予算といった具体的な問題は山ほどあるよね。あとは移動や輸送の手段。森さんが『遺書』のなかでも書いていた、豊洲に移転したあとの築地市場の跡地を駐車場にして、選手や役員が移動するバスを3000台くらい停めるという問題は、どうやら解決したようだけど、ゴルフ場の会場問題はひどいまま。本気で埼玉県川越市の霞ヶ関カンツリー倶楽部で、真夏に実施するつもりなんでしょうか?あまりの高温多湿で見物人から死者が出るおそれがあるし、そもそも埼玉県の山奥にまで誰が見にいくのか。東京湾に面した若洲ゴルフリンクスでいいじゃない。近場だし、海風で暑さもかなり和らぐしね。

そうしたら、知人から「ちょっと見ておいたほうがいいよ」と言われて、東武東上線の川越市駅前のある工事現場を見てきたんですよ。まだ何も発表されていないんだけど、東武グループの敷地にどうやらホテルを建てる予定もあると。しかも、どうやらそっちの話が先だったみたいで。そのうえでゴルフ会場を霞ヶ関カンツリー倶楽部に呼んだとなると、完全に利権が絡んでくるよね。オリンピック開催期間中は、このホテルが選手村になると考えれば。ただ、いまは工事は止まっているらしいけど、川越にホテルがないとなると、選手村から片道2時間近くかけて毎日選手の移動なんて、そもそも無理。本当に、どうするつもりなのか、サッパリわからない。マスコミも、それをきちんと追求してくれない。

――それは興味深い闇ですよね。

玉木 いろいろな人に言われて背中を押された感もあるけど、2020年へ向けて、スポーツジャーナリストをもう一回育てようということで、この夏に長田渚左さんや、木村元彦さんらと『スポーツジャーナリスト要請夏季集中特別講座』を開催することを決めました。社会人になった方でも、志があれば来てほしいですよ。

<了>

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藤江直人

著者プロフィール 藤江直人

1964年生まれ。サンケイスポーツの記者として、日本リーグ時代からサッカーを取材。1993年10月28日の「ドーハの悲劇」を、現地で目の当たりにする。角川書店との共同編集『SPORTS Yeah!』を経て2007年に独立。フリーランスのノンフィクションライターとして、サッカーを中心に幅広くスポーツを追う。