文=斉藤健仁

トップリーグで実現した新旧日本代表FB対決

「15」番をつけて、トップリーグで初の対決となった。

9月2日(土)、2016-17シーズンのラグビートップリーグ第3節、昨シーズン無敗の王者サントリーサンゴリアスと、惜しくも1敗で準優勝だったヤマハ発動機ジュビロが激突。リーグ屈指の好カードということだけでなく、フランスなどの海外でプレーしていたヤマハ発動機の元日本代表FB五郎丸歩が2シーズンぶりに東京・秩父宮ラグビー場に登場する試合という期待感もあり、14,000人を超える観客が集まった。

ヤマハにとっては昨シーズン、唯一負けた相手との対戦であり、五郎丸にとってはこの試合は、トップリーグ100試合目となるメモリアルゲームとなった。それだけでなく、サントリーのFBは現在の日本代表で中軸の一人である松島幸太朗であり、五郎丸と松島という新旧の日本代表で「15」番をつけるFBの直接対決となった。過去2度、国内で2人は対戦したことがあったが、そのときは松島が「13」番のCTBだったために、ともに「15」番をつけて先発から戦うのは初めてのことだった。

2013年秋に南アフリカのスーパーラグビーチーム・シャークスのアカデミーからFB松島が日本代表入りを果たした後、2014年からはともに所属チーム、エディー・ジャパンの中心時選手として存在感を見せ、2015年のワールドカップでは五郎丸はFB、松島はWTBとして大車輪の活躍を見せた。その後は五郎丸が海外挑戦する一方で、松島は現在のジェイミー・ジョセフ氏が率いる日本代表では欠かせない選手へと成長し、確固たる地位を築いていた。

五郎丸は戦前、「松島だけでなく知っているスタッフ、選手がたくさんいるので対戦が楽しみ」とサントリーという強豪との対戦に心を躍らせ、松島は「(五郎丸の)フランスでの経験を肌で感じてみたい。またロングキッカーなので、それに対抗するということではないですが、(自分の)キックの精度を上げつつ、ランかキックの判断しっかりしていきたい」と闘志を燃やしていた。

肝心の試合は、サントリーがアタックで、そしてヤマハ発動機がディフェンスとスクラムと互いに持ち味を出す熱戦となり、勝負は最後までわからない展開となった。

後半ロスタイム、20―24と劣勢だったサントリーが27回にも及ぶ連続攻撃後、相手のペナルティーから速攻を見せて、この試合でMOM(マン・オズ。・ザ・マッチ)に輝いたSO小野晃征が「外に(パスをして)振ろうと思ったがトイメンがPRだったので勝負した」と自ら仕掛けて相手をかわして、インゴールに飛び込んでトライ。サントリーが27-24で逆転勝利を収めて、公式戦の連勝記録を23に伸ばした。

安定感をもたらした五郎丸

©斉藤健仁

そんな中、五郎丸、松島の2人のプレーはどうだったか。ともに試合を決めるようなビッグプレーはなかったものの、松島が「そこ(日本代表の意地とか)じゃなくて、緊迫した試合だったので、チームが勝つことにフォーカスを置いた」と言うように、それぞれがチームの勝利のために「For The Team(フォア・ザ・チーム)」に徹していたと言えよう。

まずはトップリーグ復帰3試合目となった五郎丸は、試合開始すぐに、自陣から得意のキックではなくランでボールを前に運び、この試合に対する気概を感じさせる。その後は、一度、タッチキックのミスはあったものの、それ以外はタックル、ハイパント、後半11分にWTB伊東力のトライにつながるラストパス、そして得意のプレースキックは4本(1PG、3ゴール、)すべて成功させ、特に後半12分のコンバージョンは、右サイドの難しい角度からでもしっかり決めた。

いずれにせよ、最後尾でスペースを埋めつつ味方選手に指示し、プレースキックをしっかり決めて安定感をチームにもたらしていた。試合中、2度ほど体をぶつけた相手FB松島との対決に関しては「(相手の)15番は非常に遠い(位置にいる)ので、なんとも言えないですが、若い力どんどん出てくるのはラグビー界いいこと」と率直に感想を語った。

敗戦したため、試合後の会見でFB五郎丸に笑顔はなかったが、「フィジカルではヤマハの方が勝っていたが、それがトライに結びつかなかったことは反省点だと思います。久しぶりの秩父宮(ラグビー場で)、ピッチとスタンドが近く、お客さんがかなりの数入ってくれて満足していますし、個人のレベルにも満足しました」と振り返った。

またトップリーグ100試合目を達成したことに関しては「(達成できて)嬉しく思います。ジャージーを渡されたときに『100試合を祝ってもらうのではなく、お世話になったチームに恩返しするような試合をしたい』と言いました。結果、負けが、ファンも満足して帰っていただけたと思います。トップリーグでこういう試合が増えればレベルが上がっていくと思います。ただ(ヤマハ発動機にとって)負けは負けなので、(今後は)優勝を目指せるようにしていきたい」と試合の内容には満足しつつも、先を見据えた。

五郎丸は徐々にパフォーマンスが上がってきており、この試合が一番の出来だったと言えよう。本人も「まずはトップリーグで戦う中で、結果として日本代表がついてくる」と自分に言い聞かせるように発言している通り、再び、代表入りをアピールするためには、得意のキックやフィールディングの安定感だけでなく、もう少しアタックで存在感を見せたいところ。

冴えのあるアタックを見せた松島

©斉藤健仁

一方の松島のプレーぶりはどうだったのか。やはり、今シーズン好調のアタックでは冴えを見せた。

前半13分、サントリーの先制トライの場面でも、CTBマット・ギタウからパスを受けた松島は、ラインブレイクしたWTB中鶴隆彰に対して、ヅル(中鶴)が早くほしいと言ってきたから」との快足WTBにスペースがあるうちにパスし、結果、その判断がトライに結びついた。

その後は、ヤマハ発動機のディフェンスが強固だったこともあり、松島は「相手のディフェンスが良くてプレッシャーを受けてしまい、自分たちのやりたいことがあまりできなかった」と反省しつつも、「(個人的には)細かかくステップ切っても抜けない日だなと思い、フィジカルにメンタルを切り換えて、(相手ディフェンスの間の)スペースに走り込みました」。

松島はステップで相手をかわすのではなく、相手のディフェンス2人の間に切り込むような力強いランで、少しでも前進し、チームにリズムをもたらす。最後の逆転劇に結びつく27連続攻撃の中でも4度、ボールに触れて、3回はしっかりとゲインしていた。

また五郎丸とのFBの直接対決に関しては「お互い、あまりボールを持つ機会がなかったですが、ともに良いディフェンスをしていたし、キックでは自分もボールを返していたと思います。常に五郎(丸)さんのポジションを見ることができました。結構、浅い位置にいるので裏に蹴ろうかなと頭にあったがタイミングがなかった」と振り返った。前半最後、ボールを持ってキャリーしてきた五郎丸をしっかりとタックル止めるシーンもあり「リアクションできて良かったです」と、話している。

松島はディフェンス、キックは無難にこなし、アタックでは相手の脅威になっていたという点では、さすが日本代表選手というパフォーマンスを発揮していたと言えよう。

昨シーズンの1位と2位の対決の軍配はサントリーに上がったが、五郎丸と松島のFB対決としてはチームカラーが異なっており、ともに自分に与えられた役割をしっかり遂行していたため、どちらが一方的に優れていた、劣っていたということは難しい展開となった。いずれにせよ、今シーズンのトップリーグのリーグ戦の中では、一二を争う白熱した好ゲームとなった中で、2人のFBがそれぞれの持ち味をしっかり出した試合となった。

トップリーグのプレーオフは来年1月。再びサントリーとヤマハ発動機が対戦するのか、そして五郎丸と松島のマッチアップはあるのか。楽しみに待ちたい。

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斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k