文=斉藤健仁

前評判の高い慶應大と経験がある筑波大

©斉藤健仁

日に日に秋めいてきた9月、いよいよ大学ラグビーが開幕した。9月24日(日)、東京都町田市・キヤノンスポーツパークで、それぞれの初戦となった関東対抗戦の慶應大学対筑波大学が行われた。先制トライを許した慶應大だったが、スクラムやラインアウトといったセットプレーを軸に攻撃し、43-26で逆転勝利し、白星スタートを切った。

昨年の対抗戦4位で大学選手権はベスト8だった慶應大。ただ、開幕前、「今年の慶應大学はいい」とライバル校の監督から警戒する言葉をよく聞いた。それもそのはず、今年の春季大会のグループBでは5戦全勝、練習試合でも5月に明治大と対戦して33-28で勝利、8月の夏合宿中には昨シーズン大学選手権で準優勝の東海大学にも35-24で勝利していた。

「選手がベースを理解し、もう一つ上の判断のところができるようになってきた」と就任3年目の金沢篤ヘッドコーチ(HC)は語る。キャプテンLO佐藤大樹、副キャプテンのFL中村京介とCTB堀越貴晴(いずれも4年)を中心に、2014年度に花園に出場した慶應高校の中心選手だったLO辻雄康、医学部に在籍しているSO古田京、FB丹治辰碩(いずれも3年)らの選手たちが主力だ。

慶應大の開幕戦の相手である筑波大は、接点とディフェンスに定評があり、日本代表WTB福岡堅樹(パナソニック)らが在籍した2011~2014年には大学選手権で4年連続ベスト4以上に駒を進めた。だが昨年は対抗戦5位で大学選手権にも進出できない悔しい1年を送っただけに、今年にかける思いは大きい。キャプテンFL占部航典、副キャプテンCTB鈴木啓太ら4年生が創部史上最多の26名で、古川拓生監督も「経験のある(チーム)」と自信ものぞかせていた。

昨年から対抗戦は最多でも上位4チームしか大学選手権に出場できなくなった(3校と前年度の決勝に進んだリーグから1チーム)。両校ともに今後、対抗戦7連覇&大学選手権9連覇を目指す王者・帝京大学、昨年の対抗戦2位の早稲田大学、新しいヘッドコーチを迎えて調子を上げている明治大との対戦も控えている。そういう意味でも、この開幕戦はともに負けられない戦いだった。

逆転を許しても落ち着いて戦った慶應大

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「フワフワしていた」と慶應大学の金沢HCが振り返ったように、やはり開幕戦のプレッシャーがあったのか、筑波大学に先制される。前半4分、FWの近場でラックサイドを突いたFL中村大志(4年)にトライを許し0-7とされた。

だが、「接点が強い相手にフィジカルで対抗しよう」と臨んだ慶應大学もすぐに反撃。WTB宮本瑛介(3年)がインターセプトから快足を飛ばしトライ、SO古田のゴールも決まり7-7の同点に。その後は、慶應大学は伝統のディフェンスと、セットプレー、特にスクラムで相手にプレッシャーを与えてペースを掴む。

32分、相手の反則からゴール前中央でチャンスを得た慶應大学はショットを狙わず、あえてスクラムを選択。そのまま押し込んでNo.8松村凛太郎(4年)がグラウンディングし、14―7とリード。さらに36分、自陣から攻撃を継続し、最後はFL中村京介(4年)がトライを挙げて19-7で前半を折り返した。

「やはり、慶應強し」の印象が強かった前半だったが、後半の序盤は筑波大学に反撃され、5分にはモールからPR大西訓平(3年)に、12分にはキレのあるランが持ち味のCTB鈴木啓太(4年)にトライを許し、19-21と逆転されてしまう。

ただ、18分、「要所では用意したプレーはできた」(SO古田)という慶應大は落ち着いて攻撃を継続し、最後はSH江嵜真悟(3年)がサイドを突いてトライ、再び24-21とリードに成功。さらに24分、スクラムで相手を圧倒してアドバンテージをもらう中、FB丹治が個人技を見せ、中央にトライを挙げて31-21。31分にはモールからNo.8松村、40分にはSO古田がトライを重ね、終わってみれば慶應大学が43-26で勝利した。

「セットプレーを軸に流れを持って来られた。スクラムは100点」と金沢HCが言うように、この試合の分水嶺となったのは慶應大の低く一体感のあるスクラムだった。筑波大は前半36分に右PRを荻原嵐から身長182cm&体重116kgの薄井諒介(ともに4年)に替えたが、それにもしっかり対応した。

春からセットプレーを強化してきた慶應大は、NTTコミュニケーションズの斉藤展士スクラムコーチにスポットで指導してもらっており、直近では開幕戦の1週間前にもトレーニングを積んでいた。「相手が重い場合も想定したスクラムも組みました。斉藤コーチが来たときはいい練習ができています」と、LO佐藤キャプテンは、その成果を口にする。

ただ前半も後半も立ち上がりで失点を許し、相手の前に出るディフェンスに後手を踏んだ場面があったことも事実だ。金沢HCは「不満しか残っていません。(今日の出来は)30点くらい。今シーズンで一番悪いくらいだった。いつもの自分たちの力を発揮できなかったが勝ててよかった」と辛口だった。

王者・帝京大の岩出監督も警戒

©斉藤健仁

この試合、個人的にMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)を選ぶのであれば、慶應大のLO辻だ。プロテニスプレイヤーの松岡修造氏の甥としても知られる辻は、高校時代から活躍、大学でも1年生から期待された逸材だったが、なかなかチームにフィットしていない印象が強かった。だが、この試合はラインアウトで相手ボールを奪い、スクラムもしっかり押し、近場でも確実なゲインを繰り返した。

「以前は自分が抜ければいいと思っていましたが、今は一つひとつ前に出ることでチームの勝利に貢献できればといいと思うようになりましたし、少しずつですができるようになった。スクラムは、LOとしては佐藤さんと2人合わせて、慶應大学ラグビー部史上、一番重いと思うので。前3人のサポートには自信があります」(LO辻)

難敵の筑波大に勝利した慶應大、その一体感、調子の良さが随所に見られる開幕戦となった。「うちにはいないタイプ」と指揮官の評価も高いFB丹治は「金沢HCが3年目となり、春から型がありつつも個々の判断も重視するラグビーをやってきて、チームも個人もやることが明確になっている」と手応えを口にした。

この試合、スタンドには対抗戦7連覇、大学選手権9連覇を目指す帝京大学の岩出雅之監督の姿もあった。金沢HCは「(岩出監督に)『24日、暇だから行くよ』と言われ、来なくていいと言ったんですが……。たいしたことはない、マークしてもらわなくてもいいですよ」と言いつつも、「いつも同じように力を発揮できれば上の方にいける力はある」と力を込めた。

大学選手権優勝3回のルーツ校・慶應大が目指すのは、もちろん「打倒・帝京」であり、対抗戦優勝、そして日本一である。LO辻が「帝京大相手でも、自分たちのやることやり続ければチャンスがある」と言えば、LO佐藤キャプテンは「スケジュール的には(10月28日の)明治大学戦、(11月5日)の帝京大学戦が大事になってきますが、遠くを見ずに一試合ずつ戦っていきたい」と静かに闘志を燃やした。

プレッシャーのかかる開幕戦でここまで戦えれば、まだまだ伸びシロも十分だ。秋が深まり、冬の到来までにどこまで力を伸ばすことができるか。いずれにせよ、今シーズン、黒黄のタイガージャージーを纏う慶應大学が大学ラグビーを盛り上げる存在になることは間違いない。

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斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k