キャプテンの英断から奇跡が生まれた

©Getty Images

 かつてJリーグチェアマンを務めた早稲田大OBの大東和美氏、同じく早大卒で特定非営利活動法人シブヤ大学学長の左京泰明氏、そして新日鐵住金代表取締役社長で一橋大OBの進藤孝生氏。この3人には共通点がある。皆、大学時代にラグビー部に所属し、キャプテンを務めたということだ。

 ラグビーにおけるキャプテンは、重責である。30年にわたってラグビーを取材する立場にいて、キャプテンになったことで人間的に成長していく選手を多数見てきた。

 なぜラグビーのキャプテンは人を育てるのか。一つの例をあげたい。2015年のラグビーワールドカップで、日本代表は優勝候補の一角である南アフリカ代表を破り、世界を驚かせた。試合終了間際の逆転にいたる場面で、キャプテンのリーチ マイケルは、相手の反則で得たPKからスクラムを選択した。この判断を、元スコットランド代表監督の名将イアン・マギーカンは翌日BBC(英国放送)で「ブレイブ・コール」(勇敢な判断)と評価した。

 実はこの時、コーチングスタッフが控えるコーチズ・ボックスでヘッドコーチのエディー・ジョーンズは、「ショットだ! ペナルティーゴールを狙うんだ!」と叫んでいた。グラウンド脇にいたスタッフは、リーチにそのことを伝えた。しかし、リーチは「俺が決めるから」ときっぱり断った。もし指揮官の指示を守っていたら、南アフリカ戦の奇跡は起こり得なかったのだ。

 ラグビーは反則で得たPKの際にいくつかの選択肢がある。「そこからすぐに攻める」「ペナルティーゴールを狙う」「タッチラインの外にボールを蹴り出してラインアウトで再開する」そして「スクラムを組む」だ。点差、時間、地域、相手との力量差を考慮に入れ、その都度、チームのプレー判断をするのがキャプテンの務めだ。競技規則は、キャプテンを次のように定義している。

「キャプテンとは、チームにより指名された1名のプレーヤーである。試合中レフリーに意見を求める資格を有するのは唯一キャプテンのみであり、また、レフリーの決定に関連する、プレーの選択についても唯一その責任を負う」

キャプテンの役割は非常に多岐にわたる

©Getty Images

 つまり、いざ試合が始まれば、あらゆる決定権はキャプテンが持つ。コーチが指示し、サインを出すことはできない。また、何か反則が起きた場合も、レフリーはキャプテンを呼んで注意し、必要な場合は「このことをチームに伝えてください」と言う。チームメイトを集め、レフリーの意向を伝えるのもキャプテンの役目だ。そして、試合終了後にはヘッドコーチの隣に座って会見に臨み、記者の質問に答える。

 試合前日の練習は「キャプテンズ・ラン」と呼ばれる。コーチの仕事はその前に終わる。前日練習からはすべてキャプテンを軸にチームが運営されるからだ。体を張ってチームの先頭に立ち、常に頭を働かせ、目配り、気配りをしながら戦う。人として成長するわけである。

 前述のエディー・ジョーンズはリーチが南アフリカ戦の最後にスクラムを選択した瞬間は怒り狂ったが、実のところ事前に「最後は君が決めろ」と言っていた。そして、試合後はコーチの考えを無視し、歴史的勝利を成し遂げたリーチを称賛した。自主性の芽生えを歓迎したのだ。ラグビーというスポーツの特性があったからこそ成し遂げられた番狂わせだったと言えるだろう。

 ラグビーにはアフターマッチファンクションという伝統がある。戦った者同士が互いの健闘をたたえ合い、友情を育む交歓会のことだ。プロのラグビーでは姿を消しつつある慣習だが、アマチュアのラグビーでは伝統が守られている。ここでもチームを代表してスピーチするのは、コーチではなく、キャプテンだ。相手チームを称え、自チームの課題を話し、サポートしてくれた人々への感謝を、ユーモアを交えて述べる。

 こんな経験をする機会は社会人になっても、そうあるものではない。ラグビー発祥のイングランドでも、ラグビーはリーダーを育てる教育的価値のあるスポーツとして盛んに行われてきた。日本のラグビー界からも多くの人材が社会で活躍し、組織を牽引する立場になっている。キャプテンを経験した選手は、リーダーの苦しさを知る。だからこそ、部下になればリーダーを全力で支える。フォア・ザ・チームに徹することもできるのだ。

 こんな人材を放っておく手はないだろう。企業の人事担当の皆さん、ラグビーのキャプテンに会ってみませんか?

村上晃一

著者プロフィール 村上晃一

1965年、京都府生まれ。10歳からラグビーを始め、現役時代のポジションはCTB/FB。大阪体育大時代には86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年にベースボール・マガジン社入社、『ラグビーマガジン』編集部勤務。90年より97年まで同誌編集長。98年に独立。『ラグビーマガジン』、『Sports Graphic Number』などにラグビーについて寄稿。