文=中西美雁

昨季に続きラティーナと契約

石川祐希が初めてイタリアに渡ったのは、大学1回生のとき。リーグトップレベルのチームであるモデナに3カ月留学した。しかし、チームには各国の代表選手が揃っており、満足のいく出場機会は得られなかった。そこで大学3回生となった昨年の冬、2度目のイタリア留学の際には、より多くの試合に出場するために下位チームのラティーナと契約した。ところがラティーナに加入する直前、故障をおして全日本バレーボール大学男子選手権大会(インカレ)に出場していたことが響き、チーム合流後1カ月は試合に出ることができず。結局、ラティーナには約4カ月在籍していたが、なかなか先発に定着できなかった。

今回、石川は再びラティーナと契約を結んだ。当初の予定では10月1日に出国し、セリエA開幕前からチームに合流する予定だった。過去2回の留学の際はインカレ決勝後にイタリアへ渡ったため、すでにチームのベースが固まってしまっていた。そこで今回はセリエA開幕前の準備段階からチームに合流することで先発定着を狙っていた。しかし、今月行われたグランドチャンピオンズカップの第2戦フランス戦でサーブレシーブの際に、膝の内側側副靭帯を損傷。現在もリハビリに専念しているため、プランの変更を余儀なくされた。

現時点では石川が、いつチームに合流するかは確定していないが、2つのプランがあるという。一つは近日中にイタリアに渡り、6日にあるラティーナの重要なイベントに出席してから一度日本に帰国し、治療の完了後に再びイタリアへ戻るプラン。もう一つは、イベントを欠席させてもらい、日本で治療に専念するという案だ。現在はチームと話し合っている段階で、全日本のドクターからラティーナのドクターに、日本で治療を続けることを強く要望するメールを送っているという。

3度目のセリエA挑戦を決めた理由を問われた石川は、「まずラティーナにもう一度行く理由は、(昨季は)インカレ後で、チームに馴染めたのか馴染めなかったのかわかりませんでした。最初から行っていれば、試合に出られたんじゃないか、最初から行ったらどうなのかと思った。次に行くときはシーズンの最初からがいいと要望し、大学にもそれを受け入れてもらえた」と述べた。さらに、「言葉が大事だと思っていて、イタリア語ができるようになったら、人としてもバレー選手としても成長できるので、知り合いのチームメイトもいる同じチームでいいかなと思った」と、勝手知るチームに加わる利点を挙げた。

昨季と同じく怪我で合流最初からの出場は不可能となってしまったことについても、「怪我をしてしまったので、向こうに行っても最初からプレーすることはできません。今はしっかり怪我を治すこと。治ったときに、今まで以上に結果を出せればいいのかなと思います」と、前向きだ。

負傷の多さを指摘されると、「怪我をなくすよう、体力強化に務めたい」と応じ、「体力強化という言葉を使ってしまいましたが、休むこと、バレーから離れる時間を作ることが大事だと思っています。昨季はイタリアから帰って来て休まずにプレーし続けたことがよくなかった。今後は、トレーニングなどメリハリを付けていきたい」と、自身の考えている対応策を明かした。

ドイツへ渡った柳田の活躍も刺激に

©坂本清

今回のイタリア行きは石川にとって、過去2度とは異なる意味を持つ。「1度目のモデナは経験をしたい、2度目のラティーナは試合に出場したい、3度目のラティーナは、これから卒業したら海外でプレーしたいので、セリエAでプレーしていれば、いろんな方が試合を見てくれると思うから、今後の進路も考えながらチャレンジします。将来的には、もっと強いチームでスタメンをとりたい。そのためにも、昨年以上に活躍するつもりで臨みたい」と、将来も海外でプレーすることを考えてのチャレンジだと明かした。

ただし、プロとして海外でプレーするか、企業に入ってから海外に行くかについては「まだ考え中」とのこと。「プロは自由さがメリットですが、引退後のことや、怪我をした時のことを考えると、企業に入っていたほうが安定はします。すぐに決めなくてもいいことなので、いろいろな人の意見を聞きながら、じっくり考えたい」。

今季はシニアでずっと共に戦ってきた柳田将洋がプロ転向し、ドイツの1部リーグ中堅のティービー・インジェルソル・ビュールに移籍。すでに20日に日本を発ち、チームに合流している。合流してすぐの親善大会で活躍し、MVPを受賞。石川は「柳田さんがもう向こうで活躍しているのは、チームのネット情報などを見て知っています。柳田さんが頑張っているから、というわけではありませんが、自分も負けないように頑張りたいですね」と柳田を意識していることを伺わせた。

そして、会見の途中では同じく全日本で戦う同期生の大竹壱青(父はバルセロナ五輪代表の大竹秀之)が登場するサプライズもあった。中央大学の会見では、チームメイトが登場するサプライズは、すでに「お約束」となっているため、当初は報道陣も気楽に見守っていた。ところが、そこで本当のサプライズが明かされた。会見前夜に仮契約を済ませたばかりという、大竹自身の海外挑戦が発表されたのだ。

大竹は、ドイツ1部リーグのフランクフルト(ユナイテッド・バレーズ・ラインマイン)に、シーズン開幕前から合流する。ただし、大竹の場合は中大卒業後の企業入りが決定している。通常、4年生は内定選手としてV・プレミアリーグにシーズン途中から参戦するが、大竹はそのチームの了承を得て、この海外挑戦が終わるまでは合流を延期してもらうという。ドイツ1部リーグの開幕戦は来月14日で、フランクフルトは柳田の所属するティービー・インジェルソル・ビュールと対戦する。仮契約が決まってすぐに柳田と連絡をとったところ、非常に驚いていたが、「お互い頑張ろう」とドイツリーグ挑戦を歓迎してくれる向きだったという。

石川がプレーするイタリア・セリエAも、来月15日に開幕する。石川の出場は11月以降になる見込みであり、柳田、大竹の活躍は大きな刺激になるだろう。怪我を克服して、昨季以上の活躍を見せてもらいたい。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』