文=中西美雁

DJが先導する日本独自の応援スタイル

©FIVB

ワールドグランドチャンピオンズカップの女子大会が終わり、12日からは男子大会が幕を開ける。ここでは選手の選考や試合の内容についてから少し視点をずらして、「応援」にスポットを当ててみたい。

バレーボールの応援は、他の競技と違って独特だと言われる。DJが先導し、スティックバルーンを叩いて一斉に応援する。日本戦の前には「応援練習」なるものがあり、観客はそれに合わせて事前に応援の準備をするのだ。

何のためにバレーボールの試合にお金を払い、足を運ぶのか。それは、プレーを楽しむことももちろんあるだろうし、お目当ての選手の姿を見るためでもあるだろう。そして、一体となって好きなチームを応援する楽しさも、一つの目的なのだろう。

だが、ちょっとだけ待ってほしい。DJの先導する応援方法は、本当に選手の後押しになっているのだろうか。古くは「ニッポンチャチャチャ」の掛け声と手拍子での応援が主流だった。日本が得点したとき。またはピンチの場面に陥ったとき。自然発生的に「ニッポンチャチャチャ」は生まれてきた。最近は、サーブのときに太鼓と選手の名前の連呼、そして打つ瞬間には、これも伝統的な「そーれ」が主流となっている。相手のサーブのときは、ホイッスルが吹かれるとピタッと静かになる。

数年前から、「集中力が必要なサーブの時に、あんなにやかましくして、選手は気にならないのだろうか」と疑問に思い、ジャンプサーバーの選手たちに、名前を明かさない条件で聞いて回った。その結果、14人中一人を除いては「サーブのときは静かにしてほしい」だったのだ。

テニスのサーブを打つ時でも、ゴルフのショットを打つ時でも、ギャラリーがうるさくすれば、静かにするように求められる。それと同じことだ。

今年の世界選手権予選は、オーストラリアで開催された。オーストラリアの観客たちは、世界選手権への切符が掛かった日本vsオーストラリアの試合で、オーストラリアの選手がサーブを打つときに、DJの先導で、手拍子で応援した。このときのオーストラリアのサーブミス率は、非常に高かった。現地の日本語が話せるスタッフが、筆者たち日本人記者に、「応援、逆効果デスネ」と苦笑まじりにため息を付いていた。やはり、感じるところは同じだったのだ。オーストラリアは、ホームだったにも関わらず、日本に負けた。

より集中力が必要となるジャンプサーブ

©Getty Images

また8月には台湾でユニバーシアード大会が行われた。優勝したイランチームは、アップゾーンも観客席のファンも「イラン! イラン!」という強力な声援の後押しもあり、シニア代表が何人もいるロシアに競り勝った。だが、自チームのサーバーがサーブを打つときは、ホイッスルが鳴ると同時にすっと静かになっていたのだ。日本のユニバチームもそうだった。アップゾーンから、手拍子とともに観客に「ニッポンチャチャチャ」を求めるアピールがあるが、ホイッスルが鳴るか、その前に審判がサーブ開始のために手をあげかけると同時に、すっとやめる。日本から来た観客も、台湾の観客も、すぐにそれを飲み込み、サーブを打つときは静かに打たせていた。

だから、グラチャンを楽しみに会場に足を運ぶ方にも、ぜひそれに倣っていただきたい。応援するのは、選手の良いプレーが見たいから、勝ってほしいから。そのはずだ。自分の応援が選手の集中力を削いでしまうことなど、誰も望んではいないはず。特にジャンプサーブの場合は、エンドラインの向こうから全力でスパイクを打つことと同じであり、ちょっとした周囲の変化でもミスが起こるリスクが高い。実際に選手からも、DJや太鼓を叩く人がサーバーの名前を連呼して、だんだんリズムを早くしていく場合などは、サーブに集中するのが難しくなるという声が聞かれている。

そうしたこともあり、実は数年前に太鼓を叩いている人にも直接選手の声を伝えて、サーブを打つときは静かにしてもらえないかとお願いをした。だが、「ないと寂しいから」という理由で却下されてしまったのだ。それだけでなく、「女子からはそんな文句出てこないんですけどね」とも言われた。

女子からサーブ時の応援に不満があがらない理由は、男子ほどジャンプサーバーが多くなく、ジャンプフローターが中心だからだろう。フローターサーブは「そーれ」という掛け声に合わせやすい一方で、ジャンプサーブは自分のリズムで打ちたい選手がほとんどなのだ。その違いは考慮したい。

また、意見を聞いた男子選手の一人は、「海外の選手と話すと、みんな『日本はすごくやりやすい』って言うよ。ブーイングも全くしないし、ファインプレーには拍手までしてくれる。僕は正直、日本のサーブの時は静かにしてほしいし、騒ぐんだったら相手のサーブの時に騒いでほしいと思っている。ブラジルやイタリア、タイとかのファンはみんなそうしてるよ」と語ってくれた。リオ五輪でブラジル代表が金メダルを獲得できたのは、観衆の後押しがあったからだろう。決勝で対戦していたイタリアは、大きな圧を受けてジャンプサーブが全く入らなかったからだ。もちろん日本のファンが無理をしてブーイングをする必要はない。それでも最低限、選手の邪魔はしないでおきたい。

台湾の観客は、台湾以外の試合では、どちらがファインプレーをしても大きな拍手が湧いた。全日本ユニバチームの面々も「台湾のお客さんは、良いプレーをすればどちらのチームにもすごく応援してくれて、とてもやりがいがあった」とコメントしていた。2020年には東京で五輪が開催される。リオ五輪でのブラジル男子のように、ホームの利を活かせるような応援ができたらいいだろう。

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中西美雁

著者プロフィール 中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』