文=岩本勝暁

攻守に影響のあった石川祐希の負傷

「ちょいと日本のバレー、いったいどうしちゃったんだい」。

第4戦のイラン戦を終え、古参の外国人記者からそう聞かれたという。さて、中垣内祐一全日本監督は頭をかいた。

「『日本人選手のメンタルはもっと強いものだと思っていた。だけど、そうじゃないよね』と言われたんです。たとえば、日本のサッカーは、(2002年のワールドカップで指揮を執った)フィリップ・トルシエ元日本代表監督が選手のメンタルを変えたと言われている。そこで、『フランス人のフィリップ・ブランコーチは何をしようとしているの?』という質問が雑談でありました」

その問いに、中垣内監督はオフィシャルの場で言及している。

「この大会がはじまってから、闘争力や集中力といったものが物足りなく映っています。それに関して、我々も変えようとはしているが、現状、これといった有効な手段がない。『もっとアグレッシブに取り組もうよ』とか『もっとチームワークで戦おうよ』ということでしかありません」

たしかに、今大会の全日本男子チームからは、“おとなしい”という印象が拭えなかった。もちろん、必死さは伝わってくる。手に、汗も握った。だが、相手に押し込まれて、ずるずると失点を重ねる場面もあった。気合いや根性だけで勝てるレベルではないが、求心力のあるリーダーは必要だ。窮地に陥っても、底からチームを支えられる存在。たとえるなら、バルセロナ、北京と二度のオリンピックに出場した荻野正二がそうだった。

今大会の登録メンバー14名の平均年齢は24.1歳。若いチームである。しかも、最年長の深津英臣から最年少の小野寺太志まで、その差はわずかに6歳。大会前に主将の深津が言っていたように、「先輩後輩に関係なく、思ったことが言い合える」のはメリットだ。一切の馴れ合いもない。それにしても…。中垣内監督の話は続く。

「今年はできませんでしたが、来季以降はメンタル的なアプローチも加えていきたいと思っています。メンタルのテクニックを学ぶことで、自分のモチベーションをキープできる。それと同時に、コートの中でチームが困っている時に、それを助け、後ろから押し、時には引っ張るリーダーも必要。コートの中で叱咤激励する選手、コートの中のリーダーですね」

9月12日にはじまったグラチャンバレーの男子大会で、日本は5戦全敗に終わった。各大陸を制した猛者を相手に、真っ向からぶつかっていった。ミドルブロッカーからウイングスパイカーにコンバートした小野寺、大会の直前に招集された山本将平がコートに立つなど、経験を積むという意味では収穫を得たと言える。しかし、それ以上に、猛烈な敗北感が残った。

第3戦のイタリア戦からは、チームの中心である石川祐希をケガで欠いた。 それによって、攻撃だけでなくブロックにも穴ができた。201センチの小野寺を投入したが、すぐに改善できたとは言いがたい。もとよりスキルが伴わない高さに意味はない。身長だけで世界の高さに対抗できないことは、火を見るより明らかだった。

日本のストロングポイントであるサーブもけっして悪くなかった。たしかに、ビッグサーバーの柳田将洋は、5試合を通して1本もサービスエースを決められなかった。しかし、精度は高かった。破壊力もあった。ただ、少しばかりコースが悪かった。あと数センチでもボールの軌道がズレていれば、いくつかのサービスエースが取れていただろう。実際、山本は初先発したイラン戦で、4本のサービスエースを決めている。日本のサーブが、世界のトップを相手にしても通用することは証明した。

ブラジル戦で空気を変えた柳田将洋

若いチームにあって、一人、異彩を放っていた選手がいる。柳田だ。ブラジル戦は控えスタートだったが、第1セットの終盤はサーブで、第2セットの後半は姿勢で、チームの空気を変えた。文字通りのリーダーシップを発揮していた。一挙手一投足から、自分がチームを引っ張っていくんだという覚悟が感じられた。試合後、そのことについて聞いてみた。

「僕だけでなく、みんなが(チームを引っ張る覚悟を)持っていると思います。あの状況でコートに入れられる意味が何なのか、それをみんな考えているし、僕もそこを考えてコートに入った。僕がコートに立つことでいきなり3点が入るわけではありません。だからこそ、変えられることから変えないといけない。(大竹)壱青に声をかけたり、交代した(小野寺)太志に声をかけたりして、どうやってチームを引き上げていくかを考えていた。今まで僕もそうしてもらっていたし、そういうのを見てきた。そういう役割の重要さは、しっかりと感じながらコートに立っています」

コートの支配者である。チームをまとめることに意識が行き過ぎるあまり、サーブに影響するのではないかという懸念はあるが、そんなことで埋もれるタマではない。そもそも、現状を打破するために、プロ転向と海外移籍を選択したはずだ。

柳田が放つ存在感は、周りにも伝播している。リベロの井手智は、手を叩いてチームを鼓舞した。必死にボールに食らいつき、戦う意志を示した。ブラジル戦の第3セットは一時、6点のリードを許したが、柳田のスパイク、大竹のサービスエースなどで1点差まで追い上げた。中垣内監督も「井手の魂の声がコートの中から聞こえてきて、私も溜飲が下がった」と舌を巻いた。

チームはこの大会をもって、一旦、解散。10月に開幕するV・プレミアリーグを挟んで、来年の春に再スタートする。来季のターゲットは、イタリアとブルガリアで開催される世界選手権だ。中垣内監督が掲げる8強入りという目標は、今の日本の力を考えればきわめてリアルと言えるだろう。おそらく複数のメンバーが入れ替わる。キャプテンも変わるかもしれない。場合によっては、ベテランも含めたサバイバルが本格化する。

今後も高さのあるサイドアタッカーの育成に取り組むという。やるべきは個々のスキルアップだ。残された時間はあまりに少ないが、若いチームはその分だけ伸び代も大きい。今大会で世界のトップと5試合を戦い、最後に腹からの声が中垣内監督の元に届いた。

であるならば、来季はコートの外まで届くような魂の声が聞きたい。

世界選手権の切符を手にしたガイチジャパン 東京五輪へ向け世界8強目指す

バレーボール全日本男子は7月12日から16日まで行われていた世界選手権のアジア予選を4戦全勝で終え、2大会ぶりの世界選手権の出場権を獲得した。東京五輪での躍進に期待がかかる日本は、経験を積める貴重な機会をつかんだ。チームを率いる中垣内祐一監督は、世界選手権8強進出を目標に掲げた。

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岩本勝暁

著者プロフィール 岩本勝暁

1972年生まれ。大阪府出身。2002年にフリーランスのスポーツライターとなり、バレーボール、ビーチバレーボール、サッカー、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで、夏季オリンピックを4大会連続で現地取材する。