文=鈴木栄一
旧bjリーグ4度優勝の琉球、勝率5割を切るという「衝撃」
9月29日、男子プロバスケットボール『B.LEAGUE』は2年目のスタートをきった。初年度となった昨シーズンはいろいろな課題も見えたものの、全体的に言えば多くの関係者の予想を上回る盛り上がりを見せたシーズンだった。ただ、その中でも一つ予想通りに終わったことがある。それは実業団リーグである旧NBLのチームが、プロリーグだった旧bjリーグのチームを成績で大きく上回ったことだ。
初代チャンピオンとなった栃木ブレックスを筆頭に、川崎ブレイブサンダース、シーホース三河、アルバルク東京、千葉ジェッツと昨シーズンの『5強』と呼ばれた上位チームは全て旧NBL。一方でB2に降格した秋田ノーザンハピネッツ、仙台89ERSを含め、富山グラウジーズ、横浜ビー・コルセアーズと残留プレーオフに出場した下位4チームはすべて旧bjリーグ勢だった。
元々、5強と呼ばれたチームとその他のチームには資金力に差があり、この結果は致し方ないとも言える。ただ、リーグが新しくなって1年が経過し、旧bjリーグ勢が選手獲得に費やすことのできる金額は確実にアップした。そして今夏に大型補強を敢行し、『5強』の壁を打ち破るチームとして大きな注目を集めているのが琉球ゴールデンキングスだ。
バスケ王国沖縄県を拠点とする琉球は、リーグ屈指の観客動員に加え、アリーナDJの呼びかけがなくても試合の勝負どころになれば自然と『GO GO キングス!』の掛け声が会場全体から湧き上がってくる。バスケ文化、応援文化では他の追随を許さない一体感が魅力の人気チームだ。この圧倒的なファンのサポートに支えられ、bjリーグ時代には、歴代最多となる4度の優勝を含め、参入初年度以外はすべて上位の成績を残す常勝チームだった。
ところがB.LEAGUE初年度の昨シーズンは、前年bjリーグを制したチームから日本人を含めた主力はほぼ変えないままで挑んだが、日本人トップクラスのタレントを擁する旧NBLの厚い壁に跳ね返される。なんとか上位8チームが進出できるポストシーズンのチャンピオンシップには出場できたが、シーホース三河に2連敗を喫し、あっけなく敗退。
それよりもレギュラーシーズンの成績が5割を切った(29勝31敗)ことが、琉球にとっては厳しい現実だった。
それというのも今のB.LEAGUEは、東地区、中地区、西地区の3地区制ではあるが、地区内のレベル差に大きなばらつきがある。昨季を振り返っても冒頭で触れた勝率7割以上を残した『5強』の内、3チームは東地区。昨シーズン、千葉は東地区の3位だったが、西地区2位の琉球より勝ち星が15も多かった。その地区のレベル差は今シーズンより広がり、昨シーズンに勝率5割以上をマークした7チームのうち5チームが東地区に入った。一方で、西地区には昨シーズンの勝率5割以上のチームが1つもなく、B2からの昇格2チームも入っている。琉球の首脳陣にとってみれば、昨季は地区2位となったものの、もし自分たちが東地区に入っていたらどうなっていただろうか。それを考えれば、大きな危機感しか残らないシーズンとなった。
新アリーナ完成の2020年をベストな形で迎えるために
©鈴木栄一この現状を踏まえ、琉球は今オフに入ると補強戦線の主役となる大きな動きを見せる。チャンピオンシップMVPである古川孝敏、帰化選手アイラ・ブラウンと、日本代表でも主力を務めるビッグネーム2人を獲得。さらには古川とともに栃木の優勝に貢献した須田侑太郎、元日本代表の石崎巧らが加入。外国籍でも昨シーズンに千葉でリーグ屈指のディフェンス力を見せたヒルトン・アームストロングと契約した。
これまでの琉球は、沖縄のチームとして沖縄の地元選手を主体としたチーム作りに重きを置いてきた。今シーズンのメンバーもキャプテンの岸本隆一を筆頭に、期待の若手である津山尚大など沖縄出身の選手が4名在籍している。しかし、地元選手が軸のチームから、全国から選手を集めるリーグ屈指のタレント集団へと完全に変貌している。
ただ、琉球は大企業を母体としない独立型のプロクラブであり、しかも都市部ではないスモールマーケットの沖縄を拠点とするチームだ。なぜにこれほどのタレントを集めることができたのか。これは、シンプルではあるが数多くの地元企業をスポンサーとして束ねていること、そして常に3000人オーバーの満員という安定したチケット収入見込めること、言わば沖縄全体で支えられるチームだからこそ、大都市のチームに負けない戦力を揃えることができた。
また、選手たちを沖縄に呼び寄せた大きな要因として、冒頭で触れたファンの熱狂的な声援も間違いなくある。満員の熱狂的な声援の中でこそプレーしたいと思うのは選手なら誰しも抱く感情だ。そして2020年には、今のホームアリーナとしている沖縄市民体育館の横に1万人収容の新アリーナ誕生が予定されている。いわゆる『体育館』ではない、観戦を第一目的とした『アリーナ』は、すでに国内トップクラスである琉球の提供するスポーツエンターテイメントの質をさらに高めてくれるはずだ。
琉球にとってこの1万人アリーナを使い始める2020年は、プロバスケットボールクラブとして一つ上の次元へとステップアップする大きなチャンス。ただ、この飛躍をより大きなものとするには、成績が伴わなければいけない。スポーツビジネスにおいて不確定要素である成績を軸に考えるのは危険だが、一方で強いチームでなければ人々の関心を引き付けられないのも事実だ。プロ野球、Jリーグと違い、まだまだマイナースポーツの域を出ないバスケ界においてメディア露出は単純に重要である。
ただし、この勝負にはリスクもある。大型補強により選手の人件費は跳ね上がった。さらにはこれまでチームが重視していた『沖縄色』が薄まったことも忘れてはならないリスクだ。郷土愛の強い沖縄で、地元選手主体という方針を曲げた上で結果が出せなかった時には、これまでに経験したことのない反発があるのは容易に想像できる。これらのリスクを抱えた中でも、地方発で、大企業を母体としないビッグクラブという壮大なチャレンジに向けた第一歩として、琉球は大きな勝負に出た。だからこそ、今シーズンの琉球がどんなシーズンを送るのか見逃せない。
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