ファーストステージの結果次第で“下克上”も?

いよいよクライマックスシリーズが始まる。
セ・リーグは、2位阪神対3位横浜DeNA。パ・リーグは2位埼玉西武対3位東北楽天。いずれも先に2勝したチームが、各リーグの覇者、広島、福岡ソフトバンクとのファイナル・ステージに進む。

興味深いのは、今季公式戦の対戦成績だ。2位対3位では2位チームが優位だが、1位との相性を見ると、優勝チームはむしろ3位と相性がよくない。どのチームがファーストステージを勝ち上がるかは、優勝チームの日本シリーズ出場に大きな影響を与えそうだ。

パ・リーグから展望しよう。

埼玉西武は今季の公式戦で16勝8敗と、楽天に大きく勝ち越した。序盤、首位を走った楽天が途中で息切れした様子が西武戦の結果に見て取れる。
8月から9月にかけて、楽天は西武に一勝も出来なかった。1つの引き分けをはさんで10連敗。これがいかにも痛かった。10月にようやく先発・則本で一矢報いたが、8月以降は1勝11敗1分。この成績だけ見れば、CSで楽天が西武を破り、ファイナル・ステージに進出するのを予想するのは難しい。

西武のエースとなった菊池雄星は楽天を相手に今季8勝0敗。盤石なピッチングを展開した。それだけで初戦優位は動かない。短期決戦だけに、西武に先勝されたら楽天は苦しい。と、それが一般的な見方になるが、楽天はその短期決戦で、なんとか苦手・西武の牙城を崩し、日本シリーズ進出を目論んでいるだろう。ここが公式戦とは違う、秋のシーズンの面白さでもある。さて、楽天が西武を破るための、どんな糸口があるだろうか?

初戦次第で楽天にも勝機が

楽天が頼りにしたいエース則本は、最後に1勝こそしたが、今季西武戦では1勝2敗。しかも防御率が5.76と極端に悪い。梨田監督は「初戦、則本先発」を公言しているが、菊池雄星との勝負を避け、2戦目に投入して勝利の確率を高める作戦もありえた。しかし、梨田監督が初戦にエースを立てる常道を選んだのなら、菊池雄星を何としても打ち崩すことがファーストステージ突破の大前提になる。

実は、16勝8敗と大きく勝ち越しているわりに、西武の投手陣は菊池以外、楽天と相性がよくないという不思議なデータがある。勝ち頭の菊池に次ぐ11勝を挙げた野上は、対楽天戦登板わずか1試合、0勝1敗、防御率15.00。9勝のウルフも0勝1敗、6.19と打ち込まれている。言い方を換えれば、菊池さえ打ち崩し、初戦に楽天が勝利すれば、俄然、楽天の日本シリーズ出場が見えてくるというわけだ。

8勝の十亀は3勝1敗、1.78。6勝の岡本が2勝0敗、1.69と楽天に強い。辻監督がこうしたデータを重視して投手を起用するかどうかも注目だ。
楽天の投手陣を見ると、対戦成績のわりに西武戦で相性のいい投手が少なくない。

短期決戦仕様の投手陣はむしろ楽天に有利か?

最右翼は今季8勝の岸。古巣を相手に2勝1敗、防御率2.45。公式戦後半は7連敗中だが、終盤3試合はまずまずの投球を見せている。梨田監督も「2戦目の先発」を予告している。則本で初戦を取れれば、2戦目を岸で連勝できる可能性は大いに期待できるだろう。

今季11勝の美馬も対西武2勝2敗、防御率3.92とまずまずだ。さらに、今季6勝0敗23ホールド7セーブ。不敗神話を作った福山は当然、西武戦でも1勝2ホールド1セーブ。防御率は0.00。クローザーの松井裕樹も、西武相手に1ホールド4セーブ、無失点で防御率0.00。心強いデータが浮かび上がる。
今季1勝5敗と期待に応えられなかった安樂は、西武戦も0勝2敗だが、防御率は2.84と悪くない。19回で失点9、自責点6。打者79人で奪三振13、被安打20は被打率2割5分3厘だから十分に抑えていると言える。
釜田は9.64、塩見も5.06と打ち込まれているが、そこは戦力を集中投下できる短期決戦。ペナントレース全体の成績は無視して、比較的相性のいい中継ぎを小刻みに起用し、福山、松井裕樹につなぐシナリオも望める。
また10日のロッテ戦に登板し、打者4人を4者連続三振に取った台湾出身の宋家豪(ソンチャーホウ)もメンバー入りし、「秘密兵器」と注目されている。短期決戦はシリーズ男の出現も勝利への大事な力。投手陣に救世主が登場すれば、いっそう楽天の勝利は不可能ではなくなる。

課題は打線だ。西武戦では茂木が2割8厘の低打率。銀次も、打率こそ2割8分9厘だが、打点わずか2。西武にいかに研究され、要所を押さえられているかが窺える。終盤1軍で結果を出したオコエ瑠偉のような“意外性のある打者”に期待したいところだが、さすが西武、オコエには7試合で1割7分4厘しか打たせていない。
突破口を開く期待を担うのは、分が悪いとはいえ、やはり茂木だろう。さらには西武戦が5球団中最も打率の高い(3割2分1厘)岡島。打率3割2分1厘、6本塁打のペゲーロ。
西武は初戦を菊池雄星で確実に取ることがセカンド・ステージ進出への鍵。西武は今季、ソフトバンクに9勝16敗と大きく負け越している。楽天はソフトバンクに12勝13敗。強さが盤石のソフトバンクにすればどちらが相手でも余裕があるだろうが、どちらかといえば西武が勝ち上がってくれた方が戦いやすいのではないか。

広島に唯一勝ち越しているDeNAも可能性十分

セ・リーグを見ると、阪神に14勝10敗1分と勝ち越している広島が、横浜DeNAには12勝13敗と5球団で唯一負け越している。つまり、セ・リーグも優勝チームの広島にとって、横浜DeNAが下克上を起こしてファイナル・ステージに進んでくる方がやりにくそうだ。
リーグ3位とはいえ、シーズン全体をまるですべて掌握しているかのような、ラミレス監督のマネジメントに不気味な怖さを感じる。

昨季ほどではないが、今季も開幕直後の成績は芳しくなかった。しかし、まったく慌てなかった。じわじわとチーム状態を整え、順位を上げると最後は巨人を退け、2年連続のCS出場を勝ち取った。まるで、最後にはそうなることがわかっていたかのような、狙い通りの逆転劇を巨人相手にしてみせたところに、ラミレス監督の指揮官としての技量と才覚、チームが一丸となって戦う姿、信頼感が見て取れる。

阪神の勝ち頭の秋山(12勝)は、対横浜DeNA戦で2勝1敗だが、防御率5.48と内容は決してよくない。11勝のメッセンジャーも登板わずか2試合、1勝1敗。岩貞は0勝2敗。案外、主力投手は苦戦している。マテオはほぼ完璧に抑えているので、そこまでどうつなぐか。

横浜DeNAは、左腕・今永が阪神戦で3勝1敗、同じく左腕の濱口が3勝0敗、右のウィーランドも2勝0敗と、先発の柱がそれぞれ阪神戦で好投している。短期決戦では、むしろ横浜DeNAの方が分があるようにも感じる。しかも、横浜DeNAは昨年のファイナル・ステージで広島に敗れ、日本シリーズ出場を断たれた。その悔しさをバネにこの一年を戦ってきた。そういう結束、意識が高いだけに、公式戦では負け越した阪神を圧倒し、広島への挑戦権を手に入れる可能性は十分にある。

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小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。