日本ペアが世界最強ペアを破る快挙もあったダブルス

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錦織圭が8月に右手首の腱を損傷し、成長株である西岡良仁も3月末に左膝前十字靭帯部分断裂の大怪我を負うなど、トップ選手のケガによる戦線離脱が目立ったテニスの男子日本勢(もっともそれは、世界に目を向けても見られた光景ではあるが……)。一方で、新鮮な顔ぶれの選手たちが、数々の明るい話題を提供してくれたシーズンでもあった。その一つが、10月日本開催の楽天ジャパンオープンで、内山靖崇とマクラクラン勉がダブルス優勝を成したことだ。日本男子ペアによるダブルスでのツアー優勝は、12年ぶり。しかも決勝で破ったジェイミー・マリー/ブルーノ・ソアレス組は、2度のグランドスラム優勝を誇る、昨年の“世界最強ペア”である。加えるなら今季の内山はダブルスにほとんど出ておらず、7月に国籍をニュージーランドから日本に変えたマクラクランとペア組んだのも、ジャパンオープンが僅か3大会目。内山がコート上のインタビューで、幾度も「信じられない」と繰り返したのも、無理からぬことだった。

2010年以降、錦織の活躍に触発された日本男子テニス界からは、これまで“メンタルバリア”とされてきた“トップ100”の壁を飛び越える選手たちが次々と出現した。2012年には添田豪が47位、伊藤竜馬が60位の自己最高位に到達し、その後も西岡やダニエル太郎、そして今季は杉田祐一が36位に達する大躍進を見せる。ただその一方でダブルスでは、錦織が時折出場したダブルスで上位進出したのを除けば、特に目立った戦績はなし。昨年の終了時点で日本人トップのダブルスランキングは、松井俊英の195位だった。

ダブルスよりもシングルスを優先するのは、日本人のみならずテニス選手全体に見られる傾向だ。その理由を乱暴に言ってしまえば、単複の“格差”にこそあるだろう。例えば、テニス大会における選手の扱いやテレビ中継の数からしても、シングルスが優遇されているのは明白。なにより、単複格差を最も顕著に物語るのが、獲得賞金額の差だ。

今季、シングルス世界ランキング1位のラファエル・ナダルが獲得した賞金総額は、$12,691,340(約14億1,200万円)。対して、ダブルス1位のマルセロ・メロの今季の賞金総額は$1,358,429(約1億5,100万円)。ちなみにメロはこの全額を、ダブルスのみで稼いでいる。

シングルスとダブルスの賞金額は、文字通り桁違い

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ではもう少し下位のランキングではどうなっているかというと、シングルスランキング100位のヒラルド・メルツァーの今季獲得賞金は$213,047(約2,371万円)で、ダブルス100位のサンダー・アレンズのそれは$37,599(約418万円)。単複では獲得賞金額が、文字通り桁違いなのである。なお、ダブルスでメルツァーとほぼ同額の賞金を稼いだのは、36位のネナド・ジモニッチだった。

選手の獲得賞金額とランキングの相関でいうと、興味深いデータがある。国際テニス協会(ITF)が2013年に行った調査によると、この年に活動していたプロテニス選手(ATPもしくはWTAポイントを持っている選手)の人数は、男子が8,874名、女子は4,862名。彼・彼女たちが1年間に使う経費(遠征のための旅費や滞在費、用具台や食費など。ただしコーチ代等は含まない)は男子が$38,800(約431万円)で、女子が$40,180(約447万円)だった。つまり男子ダブルス選手なら、ランキング100位前後の選手でようやく、経費と賞金がほぼ同額になるということ。ちなみにシングルスでは、賞金と経費の均衡が取れる地位は、男子が336位で女子が253位だった。

以前ある男子日本人選手に、なぜ日本には“ダブルスのスペシャリスト”が少ないのだろうと問うた時、彼は次のような所見を述べた。

「自分も含めて日本人選手は恵まれているので、シングルス200~300位台でもスポンサーや支援して下さる方がいて、ツアーをまわっていける。そうなれば、やっぱり選手はシングルスでの可能性を追いたいんです。でも他の多くの国では、シングルスで転戦するのが難しくなれば、選手はダブルス専門に転向していく。その中から、スペシャリストとして生き残っていく選手が出てくるんだと思います」。

なるほど……と腑に落ちる見解である。確かに以前、元世界1位のノバク・ジョコビッチが「ダブルスを軽視する訳ではないが」と前置きした上で、次のように言っていたことがある。

「ほとんどの選手はまずはシングルスでの成功を求め、それが難しいと感じたら、ダブルスに転向する。そうしなければ、食べていけないからだ」。

確かに現在ダブルスに専念している選手の多くも、若い頃はシングルスに出ながら、徐々に軸足をダブルスに移していった。とは言え先出したように、純粋にダブルスの賞金だけで利潤を出すには、世界の100位以内に入っていなければ困難だ。

それもまた、隘路であるのは間違いない。

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著者プロフィール 内田暁

6年間の編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスとして活動し始める。ロサンゼルス在住時代にテニス、総合格闘技、アメリカンフットボールなどのスポーツの他、ファッションや映画、アニメなどの現地情報を日本の雑誌などに寄稿する。2008年に帰国してからはテニスを中心に取材。その他にも幅広いジャンルで執筆する。近著は『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)。