全日本ジュニアは、1928年から開催されているジュニア大会で、12歳以下、14歳以下、16歳以下、18歳以下、各年代のジュニアチャンピオンが毎年決定し、過去には、伊達公子、吉田友佳、錦織圭、森田あゆみ、奈良くるみといったジュニアから巣立って、プロで活躍した選手たちが歴代チャンピオンに名を連ねている(※2024年から、10歳以下グリーンボール大会が新設)。ちなみに、2022年に現役を引退した奈良さんは、2023年より全日本ジュニアのトーナメントディレクターを務めている。

 また、今回の新設に伴って、元プロ車いすテニスプレーヤーで、大会冠スポンサーの株式会社ユニクロのグローバルアンバサダーを務めている国枝慎吾さんが、全日本ジュニアの大会アンバサダーに就任した。国枝さんは、「大変喜ばしいこと」と開口一番に語り、新たな試みに胸を躍らせた。

 「ジュニアの最大の目標となるような素晴らしい大会にサポートしたい。全日本ジュニアの歴史に組み込まれて、車いすテニスにとっても歴史ある大会になることを願っています」   

 国枝氏は、現役時代に、パラリンピックの男子シングルスで3個の金メダル、さらに男子ダブルスも含めると4個の金メダルを獲得。テニス4大メジャーであるグランドスラムでは、シングルスで28タイトル、ダブルスで22タイトル、合計50タイトルを獲得し、パラリンピックの金メダルも獲得しているため、キャリアゴールデンスラムを達成した。

 さらに、ITF車いすテニス年間ランキング1位は10回を誇り(2007、2008、2009、2010、2013、2014、2015、2018、2021、2022)、他の追随を許さない実績を残し、まさに車いすテニス界のレジェンドといえる存在だ。

 全日本ジュニアでは、2022年大会から、ユニクロとファーストリテイリング財団のサポートのもと、各年代カテゴリーの男女シングルス優勝者とフェアプレー賞を受賞したジュニア選手に、アメリカへの海外派遣プログラムを1週間実施。全日本ジュニアのアンバサダーを務める錦織からの直接指導を受けてアドバイスを得る貴重な機会もあった。2024年大会からは、車いすテニス部門からも、シングルス優勝者とフェアプレー賞(各1名)のジュニアを海外派遣して、国枝さんから直接指導を受けられる予定だ。

 「僕自身も高校1年の時に、初めて海外へ遠征して、その時に見た世界ナンバーワンの選手からすごく刺激をもらった。やはり海外に飛び出て行くことで、より見識も広がると思っているので、ジュニアの時に早い段階で、そういう体験をしてもらいたい」(国枝氏)

 また大会期間中には、試合だけでなく、「チャンピオン教育」という講義や、プロテニス選手によるクリニックといった学びの場もあり、出場してよかったとジュニアたちに感じてもらえるような工夫が、全日本ジュニアの特長になっている。さらに、健常者と車いすテニスジュニア選手同士の交流もあればいいと国枝氏は期待している。

 実は、国枝さんは、2024年1月から、アメリカ・オーランドに拠点を移している。目的の一つは語学のリスキリング。これと並行してUSTA(アメリカテニス協会)に入って、アメリカの車いすテニスジュニア選手の指導をしている。アメリカに住んでいろいろ見聞きする中で感じることもあるという。

 「(アメリカでは)USTAが、車いすテニスを管轄しています。日本とはちょっと違う点ですね。日本テニス協会(JTA)と日本車いすテニス協会(JWTA)と分かれています。アメリカでは、一緒にやっていることがひとつヒントになっている」

 だからこそ、今回の全日本ジュニアでの車いすテニス部門の新設には大きな意味があると国枝さんは力説する。

 「JTAの管轄の中、全日本ジュニアの車いすテニスが行われるというのは、アメリカと同じような図式になっているんじゃないかなと思います。そこで得られることって、たくさんあるんですよね。それは、ある意味、“ワンチーム”としてやることだったり、本当にテニスという競技が、車いすテニスも一緒なんだよと意味していると思います。今回の全日本ジュニアは、まさにそういった意味があるのではないでしょうか」

 日本では、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催をきっかけにして、多様性のことが広く認知されることになったが、冒頭でも触れたとおり、もともとテニスでは、健常者テニスと車いすテニスとの垣根は低かった。

 車いすテニスは、1992年からパラリンピックで正式種目に採用され、1998年に国際テニス連盟(ITF)の車いすテニス部門に組み入れられた。現在、年間に40の国や地域で、約160以上の国際大会が開催され、年間賞金総額300万USドルのワールドツアーとして確立されている。そして、ユニクロが、2014年6月から、ITF車いすテニスワールドツアーの冠スポンサーを務めている。

 日本では、国枝さんが切り開いた世界への道を受け継ぐ者たちがいて、男子では、世界1位になり、グランドスラムで4回優勝して国枝さんの後継者の呼び声高い18歳小田凱人(ITF車いすテニスランキング男子2位)がいる。女子では、東京2020パラリンピックシングルス銀メダリストであり、世界1位経験者でグランドスラムシングルス優勝8回の30歳になった上地結衣(同女子2位)もいる。日本の車いすテニスのレベルは世界的に見てとても高い。

 「この大会(全日本ジュニア)を機にして世界へ出て行ってほしいし、それにつながるような選手がこの大会から出てくれると本当にうれしい」と国枝氏が期待するように、今後、全日本ジュニアから巣立って、小田や上地の背中を追いかけ追い越すような選手が出現するかもしれない。若き才能の開花を心待ちにすると共に、日本テニス界が、車いすテニスと共にさらなる発展をすることを願いたい。


神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。