なぜ女の子がスポーツ離脱するのか?
ナイキ ソーシャル・コミュニティ・インパクト・シニア・ディレクター 森本美紀氏 スポーツ庁の統計によると、1週間の総運動時間60分未満は、小学生男子が9.0%、女子が16.2%。中学生男子は11.3%、女子は25.1%(4人に1人)という結果になった。
東京サミット開催にあたり、挨拶を行ったナイキ ソーシャル・コミュニティ・インパクト シニア・ディレクターの森本美紀氏は女の子のスポーツ離脱に警鐘を鳴らす。
「体は心の健康状況に大きな影響を及ぼしています。体を動かすことが、心身の健康に大きなメリットを与えてくれていますが、このメリットを現在の子どもたちは十分に受けられていません。女の子は特に顕著です。女の子のスポーツ参加率は男の子より20%も低く、始めたとしても、男の子の2倍の速さでやめてしまいます」
背景には、以下のようなことが考えられるという。
・女の子の興味関心に合うスポーツ環境とプログラムが不足している
・身体的ニーズをサポートする人や環境が整っていない
・「女性らしさ」という社会からの期待
・ハラスメント対応の未整備
・女性コーチやロールモデルが少ない
「東京サミットで特に重視したかったのは、当事者である女の子の声に 耳を傾けることです」
聞くだけでなく、自分事として次のアクションにつなげてほしいと森本氏は語った。
女の子からのストーリーテリング
NPO法人モンキーマジック参加者 中山杏珠氏(左)、桃山学院大学学生 世古汐音氏(右) 女の子が実際に直面した体験談はプレー・アカデミーに参加している2名から発表された。一人目は、桃山学院大学4年生の世古汐音(せこしおん)氏。バレー部のキャプテンを務めながら、地域の中学校バレー部での学生コーチとしても指導をしている。
「私は小学4年生の頃から現在もバレーボールをしています。プレーでの悩みはもちろん、たくさんの壁が立ちはだかってきました。競技はとても大好きなのに、プレー以外の悩みが原因でその競技から離れてしまったり、一人で苦しんだりする女の子たちをみて、このような状況をどうにかしていきたいと思いはじめました。実際に私は、指導者とうまくいかない時期がありました。その時は正直とても辛く、練習に行きたくない、やめたいと思うような時もありました。でもこのような状況でも競技をやめることなく続けることができたのは、同級生をはじめとするチームメイト、周りにいた先生方の助けがあったからでした。必ず、話を聞いてくれる人、力になろうと手を差し伸べてくれる人がいます。私は2年前から部活動指導員として、中学生にバレーボールを教えていますが、そこで学んだことの一つに、子どもたちはしっかりと考えを持っているということがあります。その考えを持っているからこそ、試合前にはできるだけ子どもたちの意見を聞きながら メニューを考えるようにしています。私は中学時代の体育の先生との出会いがきっかけで、体育教員になることを目指しています。憧れた先生に自分の可能性を広げてもらい、教師という素晴らしい夢を与えてもらいました。私も生徒に影響力のある先生になりたいと思っています。」
体を動かすことやスポーツを通して、一人でも多くの人に笑顔になってもらいたいし、楽しさを伝えたい・・・笑顔になる瞬間が楽しくやりがいがあると語る世古氏の笑顔が印象的だった。
2人目は、NPO法人モンキーマジックに参加している中山杏珠氏。モンキーマジックは、「見えない壁だって、越えられる。」をコンセプトに、フリークライミングを通じて、視覚障害者をはじめとする人々の可能性を大きく広げることを目的とし、活動しているNPO法人です。
「自分にとってのスポーツとは、人とつながるきっかけであり、自分の世界を変えてくれたものです。私は1歳の時に目の病気が見つかり、治療の影響で弱視でしたが、10歳の時に完全に見えなくなりました。弱視の時は、思い切り体を動かせる環境が少なかったのですが、見えなくなったことで状況が変わり、出会えたスポーツが2つあります。1つ目はクライミングです。クライミングは自分自身と戦うことを見出してくれたスポーツだと感じています。壁を越えるという、登れた時の達成感を得ることができるクライミングは、チャレンジすることを具現化するものと身をもって実感しました。2つ目は柔道です。柔道は自分と相手と向き合うスポーツだと感じました。クライミングは相手が壁、柔道は人です。胴着を着ること、胴着をつかむこと、受け身を覚えること、相手に投げられること、すべてが新感覚で不思議な沼にはまってしまいました。私はこの2つのスポーツに出会えたことで、自信がつき、諦めないで前向きにチャレンジすることができるようになりました。」
自分という存在がどのようにスポーツと触れ合い、楽しんでいるかを見てもらい、スポーツを始めたいと思うきっかけになれれば嬉しいとも語った中山氏。
2人の話を聞くにつれ、スポーツにはさまざまなチャンスや可能性があると感じた体験談だった。
私たちは何を考えるかー女の子の声を聞いてみて
左からローレウス財団 シニア・プログラム・アンド・グランツ・マネージャ 篠原 果歩氏、読売ジャイアンツ(女子)田中美羽選手、世古汐音氏、前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチ恩塚亨氏、中京大学スポーツ科学部 中京大学大学院スポーツ科学研究科 來田享子 教授 続いて、プロスポーツ選手や専門家を交えたパネルディスカッションが行われた。女の子のスポーツ離れの原因と障壁を探り、解決策を議論。ジェンダー規範やロールモデルの不足、女の子ならではの体の変化、メディアの扱いなどが主な障壁として挙げられた。特にメディアの扱いについては、女性アスリートの活躍の報道ではなく、スポーツに関係のない、たとえば結婚した、指輪が外れたといったプライベートな内容が多いことが懸念される。また、どうしても女性選手はアイドル的な活動が求められることもあり、プレーを見てほしいという気持ちとの葛藤があるといったリアルな意見も交わされた。パネリストたちは、女の子が参加しやすいプログラムの設計や、スポーツのイメージを多様化することの重要性を強調。また、選手と指導者のコミュニケーションや、ワクワクする目標設定の重要性も議論された。
田中美羽選手:スポーツの素晴らしさと、良い環境があったからこそ続けられたと感じた。
來田享子 教授:女の子がスポーツをしない理由を再考し、環境の重要性を強調。
恩塚亨氏:スポーツのポジティブな面とネガティブな面を指摘し、ワクワクは最強!の名言が飛び出した。
世古汐音氏:有名な方たちに自分の意見を聞いてもらい、共感してもらえたことの喜びを感じた。
スポーツを通じて自分らしさを育むことの重要性、選手と指導者間のコミュニケーション、そしてなによりワクワクする目標を設定し、それに向かって努力する環境づくり、また達成感を味わうことでもっとスポーツが好きになる。スポーツをきっかけにさまざまなチャンスや可能性が広がるとともに、我々メディア側も考えるべき問題点があると認識した。
今回のCOACH THE DREAMには、コーチングを通じて女の子の夢をみんなで応援しようという意味がこもっている。女の子たちにやってほしいことを教えるのではなく、女の子自身の夢をみんなで応援する。コーチという肩書がなくても、誰もがコーチになれる・・・スポーツを通じて社会全体が女の子のスポーツに対する夢を応援する体制づくりが整うことを願ってやまない。