監督解任もリーグ戦の結果は好転せず
AFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)を制して10年ぶりにクラブW杯に出場した浦和レッズ。アジア代表として日本のクラブが同大会に出場したのは9年ぶり、国外開催の大会には初めて参加したが、世界への挑戦という意味では消化不良になってしまったと言わざるを得ない。
開催国枠で出場したアル・ジャジーラに勝利すれば、世界ナンバーワンの呼び声も高い、欧州王者のレアル・マドリーと対戦することができた。誰もが、この試合に参加意義を見出して、「一つ勝たなければ始まらない」という思いでアル・ジャジーラ戦に臨んだ。しかし、0-1で敗れるという失態を犯してしまい、レアル・マドリーとのドリームマッチは、夢のまま終わってしまった。その後、5位決定戦でアフリカ代表のウィダード・カサブランカに3-2で勝利したが、浦和の挑戦は志半ばで潰えたと言っていい。
日本屈指のビッグクラブである浦和だが、来季はACLに出場できない。世界への道は閉ざされているため、国内タイトル獲得は単なる目標ではなく、ノルマと言える。同時に、再び世界の舞台へ戻るための地盤作りもしなければならない。しかし、それも簡単なことではない。シーズン途中で監督交代に踏み切り、結果最優先で守備的な戦い方を選択し、強い気持ちで戦ったACLこそ制したが、リーグ戦に目を移せば、決して状況は好転していないからだ。
今季のJ1リーグ戦、浦和の最終順位は7位だった。7月29日の北海道コンサドーレ札幌戦を0-2で落とした直後に、ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督を解任し、堀孝史監督をコーチから監督に昇格させたが、前監督の下での最終順位だった8位から順位を一つ上げたに過ぎない。しかも、ペトロヴィッチ監督が指揮した20試合で得た勝ち点は29。20試合で獲得可能な勝ち点は最大で60のため、勝ち点獲得率は48.3%になる。一方、堀監督の下で戦った14試合で、獲得できた勝ち点は20。こちらの勝ち点獲得率は47.6%であり、わずかながらも減少しているのだ。
つまり、監督交代後も状況は好転しておらず、今のままでは来季の戦いも決して簡単ではないだろう。浦和がより強いチームになり、タイトルを獲得するために、補強は欠かせない。現在、浦和から正式に発表されているのはMF山田直輝が期限付き移籍をしていた湘南ベルマーレから復帰することと明治大からDF柴戸海が入団すること、ユースからMF井澤春輝、MF荻原拓矢、DF橋岡大樹の3選手が昇格することのみ(※井澤は徳島へ期限付き移籍)。その他では、ヴィッセル神戸からDF岩波拓也、横浜F・マリノスからFWクエンテン・マルティノスの獲得が濃厚とも言われている。
補強ポイント①興梠のバックアッパー
©Getty Images堀監督は就任してしばらくペトロヴィッチ監督と同じ3-4-2-1で戦っていたが、川崎フロンターレに逆転勝利したACL準々決勝第2戦の前、柏戦から4-1-4-1を基本として戦ってきた。
ペトロヴィッチ監督と堀監督で起用法が異なったポジションの一つがワイドプレイヤーだ。ペトロヴィッチ監督はワイドにはサイドアタッカー、またはウイングバックの選手を起用した。また、4-1-4-1の2列目のサイドには一般的にドリブルが得意なサイドアタッカーを置くことが多いが、堀監督はFW武藤雄樹、FWラファエル・シルバを基本とし、FWズラタンも起用した。MF梅崎司、FW高木俊幸が起用されることもあったが、浦和で最もドリブラー気質の強かった関根貴大が移籍したとき、右サイドの一番手になると思われたMF駒井善成はベンチにすら入れない状況が続いた。
ラファエル・シルバや武藤、ズラタンをサイドに起用し、駒井は蚊帳の外。そう考えれば、堀監督はサイドに単純なドリブラーやクロッサーではなく、フィニッシュワークに絡める選手を起用していることが分かる。
その点、世界有数のサイドアタッカー輩出国であるオランダで育ったキュラソー代表のマルティノスは、サイドから独力でシュートまで持っていける力を持ち、フィニッシュワークにも絡める。ラファエル・シルバとの両翼となればコンビネーションや守備に不安を抱えることも事実だが、攻撃力は増すだろう。
攻撃陣で言えば、最前線でボールを収める選手も欲しい。今シーズンのリーグ戦でキャリアハイとなる20得点を挙げ、最終節まで得点王争いを繰り広げたFW興梠慎三は欠かせない選手だが、彼の代わりを務められる選手がいない。興梠のほかにも最前線を務められるFWにはラファエル・シルバ、ズラタン、李忠成がいるが、いずれも前線で起点になるという点では興梠に見劣りする。仮に興梠が出場できなくなった際には、得点を奪えるだけでなく前線で起点になれる選手が必要だ。
ただし、最大の補強ポイントはFWではない。昨季はほとんど選手がいなかったポジション、サイドバックだ。
補強ポイント②適任者が不在のサイドバック
©Getty Imagesサイドバックはペトロヴィッチ監督のフォーメーションや戦術では必要とされなかったポジションであり、昨季のメンバーでサイドバックを本職とする選手は同監督就任以前から浦和でプレーしていたMF平川忠亮とDF宇賀神友弥のみ。宇賀神もどちらかと言えばウイングバックの選手だ。そんな人材不足のなか、堀監督右にはDF遠藤航、またはDF森脇良太を、左にはDF槙野智章、宇賀神を主に起用した。
特に右サイドバックは人材難を露呈した。ペトロヴィッチ監督下では、不動のレギュラーだった森脇だが、その起用方法は3バックのストッパーであり、堀監督の就任後は遠藤にポジションを奪われた。その遠藤もボランチでのプレーを希望しており、それまではリベロとしてプレーし続けていた。サイドバックでのプレーは、昨季が初体験に近かったが、元来持っているポリバレント性の高さを示し、守備はもちろんクロッサーとしての能力の高さも示した。それでも攻撃面で物足りなさを感じるのは事実だ。サイドバック適性の最も高い平川は、昨季の公式戦出場数が7試合(リーグ戦3試合)にとどまっており、クラブW杯ではチームに帯同こそしたものの、23人の登録枠からは外れた。来年で39歳となる彼に多くのことを期待するのは難しい。
E-1サッカー選手権の韓国戦で、右サイドバックに本来はセンターバックのDF植田直通が起用されたように、サイドバックはJリーグ全体を見渡しても人材不足である感が否めない。それでも、最低一人はサイドバックを本職とする選手、できれば代表クラスの選手を獲得したいところだ。
その一方で、4-1-4-1の際の最終ラインの選手は宇賀神、槙野、遠藤、平川、森脇に加え、マウリシオ、那須大亮、福岡からの期限付き移籍だったがDF田村友、本来はボランチながら堀監督就任以降はセンターバックとしてプレーしているMF阿部勇樹、ルーキーとはいえ橋岡、柴戸もいる。ここに岩波も加入するとなれば明らかにバランスが悪い。センターバックの余剰戦力の整理も必要だろう。
選手たちはクラブワールドカップを終え、5位決定戦のウィダード・カサブランカ戦の戦い方、すなわち攻撃的なスタイルで戦うことに手応えと希望を感じていた。昨季とは異なり、開幕前から堀監督が指揮を執る来季はどんなメンバーを揃え、どんな戦いを見せるのか。ACLの優勝賞金約4億8000万円、クラブW杯の5位の賞金1億7000万円などもあり、今季の収益は前年度を10億円上回る計80億円以上が見込まれている。クラブW杯の経験と悔しさを糧とし、的確な補強を行うことで、さらなる進化を果たすことを期待したい。
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