E-1出場の日本代表は高校サッカー部出身者が15名

冬の風物詩であり、高体連サッカー部に所属する選手にとって最大のイベントでもある全国高等学校サッカー選手権大会。今年度の第96回大会では安藤瑞希(長崎総科大附高/セレッソ大阪内定)や郷家友太(青森山田高/ヴィッセル神戸内定)、高橋大悟(神村学園高/清水エスパルス内定)といったJクラブ内定者が前評判通りの活躍を見せ、将来の飛躍を予感させている。

ところで、Jリーグ入りする新人選手は高校サッカー部からの加入、大学サッカー部からの加入、アカデミーからの昇格、街クラブからの加入という4つのルートに大分される。そして、「高校サッカー部出身者とアカデミー出身者、どちらが大成するか」という議論が事あるごとに巻き起こり、エリートであるはずのアカデミー出身者より、部活出身者のほうが成功しているという結論が導き出されることが多い。一例としてJクラブ所属選手だけで構成されたEAFF E-1サッカー選手権2017のメンバーを見ると、ユース年代の時に高校サッカー部に所属していた選手は15人と、Jクラブユース出身者の9人を上回っている。

日本のサッカー界における人材の“大供給源”となっている高校サッカー部。その中で特に多くの選手を輩出している部はどこなのだろうか。2008シーズンから2017シーズンまでの新加入選手について、「高校時代にどのチームに在籍していたか」のデータを算出し、検証してみた。

第96回大会に参加している48校で見ると、過去10年間で最も多くのJリーグ選手を輩出しているのは千葉県の強豪、流通経済大柏高で、その総数は37人にも上る。田口泰士(09年名古屋グランパス加入)や小泉慶(14年アルビレックス新潟加入、現柏レイソル)のように、卒業後に直接J入りした選手もいるが、系列校である流通経済大を始め、大学経由でプロ入りする選手が多いのも特徴で、統計を取った10年間、欠かさずJ入りする選手を輩出している。

選手権出場校では、青森山田高の23人がこれに次いでいる。こちらも大学経由でプロ入りする選手が多いものの、11年J加入の柴崎岳(鹿島アントラーズ、現ヘタフェ)や櫛引政敏(清水エスパルス、現モンテディオ山形)、16年J加入の神谷優太(湘南ベルマーレ、現愛媛FC)と常田克人(ベガルタ仙台)、17年J加入の廣末陸(FC東京)と高橋壱晟(ジェフ千葉)のように、高校から直接J入りする選手もいる。

前橋育英高の19名、東福岡高の16名がこれに続く。前橋育英は過去に山口素弘や松田直樹、細貝萌といった代表クラスの選手を数多く輩出しており、近年も毎年のように同高出身者がプロ入りしている。東福岡からは17年に藤川虎太朗(ジュビロ磐田)、高江麗央(G大阪)、小田逸稀(鹿島)の3人が高卒新人としてJ入りしており、彼らと同級生で大学に進んだ鍬先祐弥(早稲田大)や児玉慎太郎(同志社大)も、3年後にプロ入りする可能性がある。

その他では大阪桐蔭高が10名、滝川第二高、立正大淞南高、岡山県作陽高が9名と、年に1名ペースでプロ選手を輩出している。大阪桐蔭は今大会が9年ぶりの選手権出場だったが、E-1選手権の代表に三浦玄太(G大阪)、阿部浩之(川崎フロンターレ)の2人が名を連ねるなど、ハイレベルな選手を輩出している。

選手権不出場校からも多くの選手たちがJリーグへ

選手権不出場校では、流通経済大柏のライバルである市立船橋高が23人を輩出している。17年には杉岡大暉(湘南ベルマーレ)、原輝綺(アルビレックス新潟)、高宇洋(G大阪)の3人が、16年には椎橋慧也(ベガルタ仙台)と永藤歩(モンテディオ山形)が高卒で直接J入りするなど、人材供給源としての評価は昔から変わらず高い。今年も杉山弾斗(千葉内定)、長谷川凌(水戸ホーリーホック内定)、福元友哉(ファジアーノ岡山内定)の3人が高卒でJ入りする予定となっている。

大津高校も17人を輩出している。県立高校ながら06年にはOBの土肥洋一、巻誠一郎の2人がドイツW杯メンバーに選ばれるなど、九州きっての強豪として不動の地位を築いている。特筆すべきは14年の7人で、これは全員が09年に同校を卒業し、大学での4年間を経てJ入りしたもの。圍謙太朗(桃山学院大を経てFC東京、現C大阪)と藤嶋栄介(福岡大を経てサガン鳥栖、現松本山雅)のダブル守護神に谷口彰悟(筑波大を経て川崎F)、1学年下の車屋紳太郎(筑波大を経て川崎F)らを擁した当時のチームは、確かに“タレント軍団”と呼ぶにふさわしい陣容だったことを記憶している。

中村俊輔(現ジュビロ磐田)を輩出した桐光学園高、個人技を重視した育成で知られる静岡学園高、“セクシーフットボール”で一世を風靡した野洲高校も、今や人材供給源としての機能を果たしている。また、帝京や国見、鹿児島実業といった古豪も、近年はなかなか選手権の舞台には立てずにいるものの、定期的にJ入りを果たす選手が出ている。

ここで興味深いのは、成立学園高から14人の選手がプロ入りしている点だ。過去の選手権出場は第82回大会、第84回大会の2度だけだが、東京都きっての強豪として知られており、08年に柏レイソルに加入した大津祐樹を筆頭に、毎年のようにOBがJ入りを果たしている。

今回は高校生時代に学校のサッカー部に在籍し、過去10年の間にJリーグ入りした選手に限定して、その出身校を調査した。上位に名を連ねた高校はいずれも強豪・古豪ぞろいで、Jリーグにとっての重要な人材供給源になっている。ただ、有名校、強豪校に所属していることがプロ入りの絶対条件ではない。例えば17年に国士舘大から名古屋グランパスに加入した松本孝平は、神奈川県の藤沢清流高の出身で、当時は全国的にはほぼ無名の存在。大学3年の頃から一気に頭角を現して名古屋からのスカウトを受けた。17年12月に岡山からC大阪への移籍が発表された片山瑛一は、埼玉県の川越高校出身。ここはサッカーの有力校ではなく、東大合格者の多さで知られる進学校。片山自身は一般入試で早稲田大に進学し、大学での4年間で着実に成長してプロ入りを勝ち取った“叩き上げ”だ。これらの例を考えると、どのようなきっかけでプロへの扉が開かれるのかは、実は選手たち本人にも分からないかもしれない。

■2008年から2017年におけるJ加入者の主な出身高校
流通経済大柏高(千葉):37人
市立船橋高(千葉):23人
青森山田高:23人
前橋育英高:19人
大津高:17人
東福岡高:16人
桐光学園高:16人
成立学園高:14人
静岡学園高:13人
帝京高:13人
野洲高:11人
国見高:11人
四日市中央工高:10人
大阪桐蔭高:10人

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。