■「前よりは数段いい」けれども

第96回全国高等学校サッカー選手権は、1月8日に前橋育英の優勝で幕を閉じた。決勝戦後に議論を呼んだのが「過密日程問題」だ。

試合後の記者会見では流経大柏の本田裕一郎監督が「プレーヤーズファーストで大会を運営してほしい」と苦言を呈した。8日夜には日本代表DF長友佑都も自身のTwitterアカウントで「決勝に上がった2校の日程見て驚いた。1週間で5試合。いろいろな事情はあるんだろうけど、もう少し選手ファーストで考えてほしいな」とコメントしている。

今大会は下記のようなスケジュールだった。
・12月30日:開会式&開幕戦(1試合)
・12月31日:1回戦15試合
・1月1日:休養日
・1月2日:2回戦16試合
・1月3日:3回戦8試合
・1月4日:休養日
・1月5日:準々決勝4試合
・1月6日:準決勝2試合
・1月7日:休養日
・1月8日:決勝戦

前橋育英、流経大柏の両校は1回戦シードだったため5試合で済んだが、1回戦から登場するチームが仮に決勝へ進むと計6試合になる。

大会の主催者や日本サッカー協会が、選手たちのコンディションにまったく無関心ということではない。本田監督も会見の場で「前よりは数段いいけど」と補足をしたそうだが、「プレーヤーズファースト」の方向で日程やレギュレーションは変わりつつある。例えば今大会は1試合の交代枠が「4」から「5」に拡大されていた。
 

■大会期間の拡張は可能か?

高校サッカーが年末開幕になったのは1994年度の第73回大会から。それまでは年明けの開幕で、1月1日に天皇杯決勝の前座として開会式を行い、2日に開幕していた。2日に1回戦、8日に決勝という「7日で6試合」の超過密日程だった。
 
2001年度からはハッピーマンデー制度を活かして、決勝が8日から成人の日に移った。それに伴って準決勝も「成人の日の直前の土曜日」に定まった。
 
ハッピーマンデー制度は成人の日、体育の日など4つの祝日を月曜日に移し、土日月の3連休を取れるようにした仕組み。成人の日は「1月の第2月曜」なので、8日から14日まで7通りのケースがある。
 
来年の成人の日は1月14日。つまり5日の準々決勝から12日の準決勝まで「中6日」になる。これだけの間隔があれば、選手の体力はほぼ回復するだろう。その先の暦を見ると成人の日は2020年が13日、21年が11日(2020年がうるう年のため)、22年が10日、23年は9日となる。次に8日へ戻るのは2024年だ。
 
この議論は広げようと思えば更に広げられる。一つは選手権を「大きくしよう」「理想の大会にしよう」という発想だ。例として挙げるならこのような意見だ。
 
・選手権の期間を拡大して十分なインターバルを取る
・出場校を64に増やして、シード校とその他の不平等を無くす
 
ただし選手権は高校生の大会だ。クラブチームも含めてこの年代は「試合を学校の授業と被さない」という大原則がある。もちろん年代別代表の国際試合は中高の休みなど関係なくFIFAやAFCが先に組んでしまうし、国内でも若干の例外はある。しかし選手権は多くの人手を要するビッグイベント。運営を担当する都道府県協会の役員は教員が多いし、スタッフの多くは各校の部員だ。各都道府県によって違いはあるが、冬休みは12月23日から1月8日。
 
「決勝戦を1月の第3日曜へ」という意見があるかもしれないが、この日はセンター試験だ。決勝で活躍するような選手は大よそ推薦で進路も決まっているのだが、どんな学校が勝ち上がってくるかは分からない。登録30選手の誰かがセンターを受けることは当然想定しなければいけない。

■日程の前倒しは?

私のようなサッカー馬鹿は「高校サッカーのために冬休みを伸ばそう」「センター試験の日程を変えよう」という考えに突き進みがちだが、この国におけるサッカーの優先順位はそこまで高くない。

一方で「開幕を前に移す」のも容易でない。今年の高円宮杯U-18プレミアリーグ、プリンスリーグは積雪地帯を除いて12月の第2日曜(10日)までリーグ戦を行っていた。15日(金)、17日(日)にはその結果を受けて「プレミアリーグ参入戦」が開催された。
 
一見すると12月23日、24日の週末は空いているが、このタイミングで各地の「プリンス参入戦」が行われる。プリンス参入戦も「プレミア参入戦後」に開催する必要がある。
 
今年度の具体例を挙げると前橋育英Bは群馬県リーグを制しており、プリンス参入戦に進む資格を持っていた。ただ「同じ学校、同じクラブから同じリーグに複数チームを出せない」という規定に抵触して桐生第一に差し替えられた。
 
前橋育英Aはプリンス関東を制し、プレミア参入戦に臨んでいた。しかし参入決定戦でジュビロ磐田U-18にPK戦で屈したため昇格を逃した。これがなければ前橋育英Bに「プリンス参入戦」の出場資格があった。要は「プレミアが決まらないとプリンス参入戦の出場チームが決まらない」という事情がある。
 
今選手権の4強に入った矢板中央は12月23日、25日にプリンス関東の参入戦を戦い、その上で1月2日の選手権初戦に臨んだ。各地のプリンス参入戦出場チームがそのまま選手権へ出てくることは多い。つまりそちらの日程も考慮しなければいけない。

「プレミア、プリンスのリーグ戦を前倒しすればいい」という意見もあるだろうが困難だ。例えば高校の中間テスト、期末テストの時期は公式戦ができない。プレミア、プリンスのチームはシード校として優遇されているが、リーグ戦と高校総体や選手権の都道府県予選が重なってもいけない。(※今年は調整がつかなかったようで、ついに神奈川で「重複」が起こった)

「プレミア、プリンスのチーム数(=試合数)を減らす」ことになれば、今度はピラミッドの一番下まで一気にしわ寄せがいく。日本サッカー協会、高体連の大会はスケジュールがみっちり詰め込まれていて、実はもうほとんど動かしようがない。その現実を理解しないで、選手権の日程だけ切り取って議論するのはあまり意味がない。

■「いっそ選手権をなくせ」は正しいのか

そうは言っても今年度の選手権は流石にあり得ない過密日程だったように思う。せめて6年に1度、7年に1度の「成人の日が1月8日になる」場合に限って日程のアレンジを行うべきではないだろうか?
 
例えば選手権の開幕を30日に1日早めて、1日に2回戦を行う。お客やスタッフ集めの関係で1月1日の開催が難しいなら、29日に1回戦、31日に2回戦を行う。それでも十分とは思わないし、逆にプリンス参入戦からの間隔がかなり短くなる。ただ「中1日は空ける」という配慮は最低限だろう。
 
逆に「選手権は不要」という主張もある。日本各地でプレミア、プリンス、都道府県リーグが整備され、各高校のCチームやDチームも試合経験の場が整った。「過密日程の全国大会などいらない」という主張も一応理解できる。
 
しかし選手権は高校生にとって「一番目立てる場」であり「最高のモチベーション」だ。そういう夢を持つことはアスリートとして、人間としての成長につながる。「人生にはもっと先がある」と大人目線で彼らを腐すことは容易だが、10年後、20年後の夢にリアリティを持てる高校生はそう多くない。選手権という夢、ロマンは大切だし、彼らから奪うべきでない。
 
今大会の決勝戦には4万人を超える観客が集まった。プレミアのチャンピオンシップでクラブチームも含めた「真の日本一」になるよりも、選手権で「高校だけの日本一」になった方が関わる人々の満足度は高いという現実がある。「都道府県の代表校が戦う」というフォーマットはメディアやファンの受けもいい。「負けたら終わり」というドラマ性もスペクタクルだ。
 
実は夏の全国高校総体は「7日間に6試合」「炎天下」という、冬の選手権以上をしのぐ過酷な条件で開催されている。しかしこのような問題提起は、選手権だからこそ脚光を浴びる。
 
つまり選手権はそれだけの価値があり、学校にとっても生徒を集め、ブランドを高められるイベント。だからこそサッカー経験者を教員として採用し、施設を整備するという投資も行われる。高校サッカーという「ハレの舞台」があるから、リーグ戦という「日常」も充実する。この両者は二者択一でなく、補完関係にある。選手権を無くす、縮小するというという方向性はおそらく全体最適につながらない。
 
明確な結論とまでいかないのは我ながらもどかしいところだが、様々な前提条件がある中で、相応の理由をもって高校選手権のスケジュールは定まっている。何かを変えることにはメリットもあるが、裏腹にデメリットもある。筆者のレベルでは「劇的な解決」に向けた方向性を導き出すことができない。もっと知恵のある人がもっと良い提案をして、より高度な「プレーヤーズファースト」が実現されることを願っている。
 
<了>

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大島和人

著者プロフィール 大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。