ドイツより帰国、感じた確かな成長の手応え

全日本男子バレーボールチームの柳田将洋が、今季プレーしたドイツより帰国し、全日本合宿に合流した。彼の所属するブンデスリーガ1部のビュールは11チーム中の8位だったが、柳田はチームに加入後すぐ主将を任され、得点でも常に上位にランクインする活躍を見せた。

成田空港に到着後、囲み取材が行われた。ドイツリーグに参戦して得られたものを聞かれると、「国内のチームに所属していた時よりも、レセプション(サーブレシーブ)でボールに触る機会が多かったので、試合でボールに触ることがすごく重要だなと思いました。ボールを触る機会が増えることで、自分の練習に対するモチベーションもどんどん上がっていったので、代表でも継続していきたいと思っています」と語った。サーブでもずっと上位につけたことも、「手応えは感じた」と満足げな表情だった。

今年度は全日本男子でも主将として活動する。主将就任を言い渡されたのは、2月に中垣内祐一監督がドイツ視察を行なったときだった。「そうなんだ」と、特別な感慨はなかったという。「ドイツでも主将をやらせていただいていましたし、自分に求められた役割を果たしたいという気持ちだけですね」。

自分から発信していく。その点では、ドイツのクラブでも、全日本でも、主将として果たす役割は変わらないという。ただし、全日本には遅れて合流した。いまチームが取り組んでいる新しい戦術に自らが馴染みきっていないことから、まずは柳田自身が全日本の戦術に合わせることがスタートになる。フィリップ・ブランコーチとの英語でのコミュニケーションは、ドイツに渡る前よりもスムーズにできるようになってきた。聞く方だけなら、大体は事が足りる。自分から何かを伝えるときに、やや語彙の少なさを感じるだけだ。

「1を聞くと、3にも4にもなって返ってくる指導者なので、それがしっかりわかるのは良くなったこと。逆に自分からこうしたら、と伝えるときに自分の言葉に詰まることがある。コート上ではやりとりに困ることはないですが、コート外ではまだ少し聞き返したり、待ってもらうことがありますね」

全日本に合流した柳田が感じたこと

柳田が全日本の合宿に合流したのは18日だった。初日の練習後、彼は「僕が合流する前から合宿をしているので、まだ馴染むのに時間がかかります。今日初めて6対6のゲーム練習に参加したのですが、まだまだブランコーチに指示されることが多い。それを少なくして、自分から発信していくようにしたいです」と振り返った。

今年度の全日本は「トスを早く、より早く」というのがモットーだ。昨年度も早いバレーには変わりなかったが、今年度はよりそれを追求する。柳田がいたドイツリーグは、速いバレーは主流ではなかった。現地で柳田自身にもトスが遅いのではないかと尋ねたが、「このチームではセッターに多くは望まない」と割り切っていた。

ドイツから帰国し、全日本に合流して改めて痛感したことがある。「やはり、日本のバレーをする環境、レベルはすごく高いと思いました。その中に身をおいてプレーができるのは本当にありがたいこと。もちろん世界選手権で戦う相手は、より高いレベルでのバレーをしているチームばかり。今の環境に甘んじることなく上位チームに一つでも勝っていきたい」。ドイツにいるときも、サントリーや全日本での環境の方が恵まれていること、全日本の練習メニューのほうがハードだと言っていた。しかし、プロ宣言して海外に行くことでしか得られないものもあった。「自分としてはそれがいいように作用していると信じています」と胸を張る。

例年にない大人数で行われた全日本合宿

世界選手権の前に、まずはネイションズリーグがある。そこである程度自分たちの現在の立ち位置がわかるのではないかと柳田はいう。ネイションズリーグは昨年まではワールドリーグと呼ばれた大会で、毎年開催され、各地を転戦する。賞金大会なので、決勝ラウンドに進出するような国はシリアスに戦うが、毎年年度初めに開催される大会ということで、若手を試す場にもなっている。全日本男子は今年度、ネイションズリーグ、アジア大会、世界選手権を戦う。アジア大会と世界選手権は日程が近接しているため、チームを2つ用意して臨む。監督も、アジア大会にはゴーダン・メイフォースという中垣内監督の旧知のアメリカ人の監督が指揮を執る。

4月に行われた東京合宿と薩摩川内合宿では、その2チームをあわせた人数の選手が行動をともにした。さつま川内ではコートを3面とって選手が入れ替わりたちかわり練習をこなしていた。中垣内監督、ブランコーチ、ゴーダンコーチはそれぞれの選手に目配りをしてプレーをチェックする。これだけの大人数が合宿をこなすことは従来なかなかなかった。

柳田は、「東京五輪まで見据えて、今後もいろんな選手がシニア代表に入ってくるでしょうけど、今回これだけたくさんの選手と一緒にやれたことは自分にとってプラスになる。もちろんこの合宿に呼ばれていない選手でも良い選手はいるでしょうけど、今回集まった選手の中からより絞られてくる可能性は高い。そういう選手と一緒のコートでプレーした経験は、今後そういう選手がまたシニアに来たときに絶対に役に立つし、僕自身も刺激になりました」と、この合宿を評した。

22日には紅白戦が行われ、キャプテンとして初の仕事をこなした。「でも、試合前に署名をしたりするだけで、特にキャプテンとして大変だったということは全くありませんでした(笑)。まだ合流して日が浅いので、なかなか自分から発信していくということが少ないのですが、今日僕が声をかけたことは、あたり前のことばかりで、みんなもそう思っていたことを僕が言っただけです。今後も気負うことなくキャプテンの務めを果たしたいですね」。

全日本男子は、5月11日に始動記者会見が行われる。そして翌日からヨーロッパ遠征が始まり、25日からフランスでネイションズリーグの開幕を迎える。柳田が新キャプテンとして、どんな姿を見せるかも注目したい。

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中西美雁

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はスポルティーバ、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行っている。著書『眠らずに走れ 52人の名選手・名監督のバレーボール・ストーリーズ』