なぜ「二刀流」が増えているのか?

僕がプレーするモンゴルでも、大谷翔平選手の情報は入ってくる。毎日彼のプレーを楽しみにし、暇になったらYouTubeで彼のハイライトを毎晩チェックしている。そんな大谷翔平という二刀流の天才が世界を沸かす中、日本サッカー界の育成年代でも二刀流が増えていることはご存知だろうか。すなわち、GKとFPという二刀流だ。今日は、この「サッカー界における二刀流が増えている理由」について考察する。
 
育成年代において、二刀流を志す選手が増えていることについては、冨澤もスタッフとして活動するPangea Football Academyでも話題になっている。同クラブの代表兼GK統括である若田和樹氏は、その理由を次のように分析する。
 
「二刀流が増えてきた理由は、選手の意思を尊重する指導者、環境が増えてきたことにあると思います。これまでは、本人が強くFPを望んでも技術的な問題や身長の問題など、様々な要因によってGKを“させられた”選手がいたはずです。

逆に、GKをやりたいと強く望んでもFPとしての能力の方が高くチームで中心となれるような選手だった場合も、同様にFPを“させられた”でしょう。しかし、近年では選手を尊重する指導者が増えてきました。多様性が認められていく中で、フットボールにおけるポジションという概念そのものにも多様性が生まれてきたように思うのです」

例えば、FPで言えば、戦術的な呼び名ではあるが偽9番と呼ばれるゼロトップに始まり、偽エストレーモ(ウイング)や偽ラテラル(サイドバック)といったポジションを擬態するプレーヤーまで登場している。

GKではマヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)の登場で多くのチームでGKに求める役割が大きく変わり、次世代型のGKとして期待されているエデルソン・モラレス(マンチェスター・シティ)といった選手もでてきた。1人の選手の個性やプレーに憧れ、多くの育成年代の選手たちに影響を与えているという図式はまさに現代の縮図と一緒だ。若田氏は、こう続ける。

「インフルエンサーがフォロワーに影響を与える構図と一緒ですね。昔と違うのは、ファンになれる対象がたくさんあること。まさに、FPで好きな選手やスタイルがあれば、同様にGKでも好きな選手やスタイルが出てきて、それぞれの魅力のどちらも追いたくなるわけです。

また、少人数制によるプレー環境の変化及び選手、親がチーム、サッカースクールを選択できるようになったというのも二刀流が増えた理由だと考えています。

8人制での公式戦が行なわれるなど、選手としてボールをたくさん触れることができるようになり、交代が以前に比べて増え、どちらもプレーすることに違和感がなくなって来ました。『前半はゴールを決める役に徹し、後半はゴールを守る役をやる』という選手が多くなって来たのです」

また、チーム選択についても変化が出てきた。4種のチーム数が増加したことで、「近くにある少年団に入る」という流れよりも「入りたいチームを選ぶ」「平日の練習がないときはスクールに通う」という選手が増えて来たことも要因だろう。

「二刀流」のメリットは?

ではサッカー選手、特に育成年代にとって二刀流のメリットはなんだろうか? 端的にいうと、「客観視できること」であろう。もちろん、GKにおけるプレーをビデオなどで確認することは非常に大切だ。自身の欠点、修正すべきポイントを洗い出すことができる。ただし、ときに自分自身のサッカー観で物事を考えすぎてしまう弊害もある。

比べると、GK自らフィールドプレイヤーとしてプレーすることは、普段止める立場だったシュートにおけるシチュエーションを体感できるということだ。「この角度だったらこのコースに打たれるとイヤだな」「この距離感ならループシュートを打たれてしまう、もっと間合いを詰めたほうがいい」など、普段対峙する相手目線から物事を考えられる。

FPに指示を出す際にも有効だ。外から見ていると「もっと走れよ」と思っても、実際にやってみると「この距離私で二度追いするのは難しい」「もう一歩寄せないと失点する」など、味方の状況も肌感覚で知ることができるのだ。

私自身、コーチとしてGKスクールの指導をしているが、1ヶ月に1回はGK同士でゲームをさせるようにしている。また、1回のトレーニングで1度はFWをやらせ、選手自身にGKの相手役をさせてもいる。

私自身は公式戦においてFPでプレーすることはあまりないが、FPとしてプレーすること自体は大事にしている。昨年も、モンゴルU-16とのトレーニングマッチでFWをプレーした。これによって、「1,300メートルオーバーの標高でのハードワークが難しい」と学んだ。

小学生など若い年代で、多くボールを触ることができるFPを経験することはGKにとってとても大切だ。物事を違う目線から捉えることで、より多くのことを吸収できるのだ。

いつか「ホルヘ・カンポス」が出てきてほしい

現代のフットボールにおいて、GKには11人目の選手という足元の技術も求められるようになって来た。これは、目を背けることができない事実だ。

そうした状況において、若い頃にGK・FPどちらでも練習することは、間違いなく選手としての幅を広げることになる。もっとも、GKのトレーニングをする際はその時間だけFPとしてのトレーニングはできないし、逆も然り。そのため、GKはFPよりも多くサッカーに対して向き合う必要があると言えるだろう。前述の若田氏はこう述懐する。

「FPとしてプレーすることでFP特有のプレーのリズム感や360度の視野の確保といった視点を学ぶことができるし、シュートやロングパスを放つ側に立つことで、客観的に良いGKと悪いGKのポジショニングや判断も学ぶことが出来ます。

現代の理想のGK像は『足元があり』『DFラインの後ろに広がる広大なスペースを埋める守備範囲』そして『確かなGKとしてのスキル』『戦術眼』が求められています。全てを手に入れるには、FPとしての経験が必要不可欠となってきているのではないでしょうか」

FPにもたらす効果で言えば、GKのトレーニングはFPと違いジャンプや力強いステップワークのTRが多いことに加え、相手の足元に飛び込む勇気やミスが許されないプレッシャーの中でプレーすることで精神的にもタフになれる可能性がある。いち競技者としての運動能力があがるだけでなく精神面でも成長が期待できるだろう。

ただ、課題はある。GKもFPもそれぞれの専門性がもちろんあるため、絞らないことで専門分野の成長を遅らせる可能性があることだ。「どちらの道もある」選手が今後増えてきた時には、そういった問題に直面していくことも考えられる。

「可能性を残す」意味では二刀流もいい。ただ「可能性を確かなものにする」ためには、どこかで1つに絞る選択も必要になる。いずれにせよ、これからの時代は選手が自分で選択していくことが重要だ。指導者はその多様性の受容と可能性を狭めないことを意識しながら、時に選択することのリスクも正直に話し、子どもたちと向き合っていかなくてはならない。

もっとも、ホルヘ・カンポスのような選手が出て来たら日本サッカー界は面白くなる。プロとして両立が可能かというと、制度面含め難しいとは思うが、いたら絶対に盛り上がるはずだ。また、物事を様々な角度から見ることは、何もサッカーに限らず、多くのことで能力を伸ばす上でかなり有効ではないだろうか。「サッカー界の大谷翔平」が出てくる日を、楽しみにしている。

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VictorySportsNews編集部