レヴァンドフスキを経験している方が有利

ゴールキーパー(以下、GK)。1試合に1席しかないスターティングイレブンの椅子に誰が座るべきなのか、ということは常に議論されて来た。

「GKで憧れる選手は誰だ」と言われた時、私が教えるアカデミーでも、周りのGKもノイアー、ブッフォンと海外で戦うGKを真っ先に挙げる。日本人のGKの名前が出て来るのはかなりレアなケースである。
 
日本人GKで名前が上がるのは同世代から上の年代になると圧倒的に川口能活。それより下だと川島永嗣、西川周作が多いというのが傾向で見られる。
 
先に私の立場を明らかにすると、圧倒的に川島永嗣がW杯の舞台に立つべきだと思っている。国際大会の経験が多いことと大舞台に強いメンタリティを持っていることから、私は彼が出場するべきだと思うのだ。
 
もちろん西川周作のあのキックは日本代表の武器になると思うし、中村航輔の若さと1対1の間合いの詰め方などは他のGKにも川島永嗣より優れている部分がある。しかしGKにとって重要であるのは「弱点がないこと」「シュートストップの能力」であり、W杯の舞台で必要になってくるのはその技術を100パーセントに近い状態で発揮することだと私は考える。
 
極端な話、レヴァンドフスキのシュートを止めることはレヴァンドフスキのシュートを受けたことがある選手の方が有利だ。リーグ戦でネイマール、バロテッリ、カバーニなど世界トップレベル、もしくはそれに準ずるシュートを受け続ける川島永嗣に対して、JリーグのGKで世界トップレベルのシュートが放たれるのは実績だけ見れば神戸のポドルスキからだけ。圧倒的に受けているレベル、戦っているレベルが違うのだ。アベレージが高い方が世界の舞台で戦えると私は考えている。

GKは経験値のポジション

数回国際Aマッチの経験をしているのと、毎週外国人のシュートを受けるのでは全然違う。
 
私自身の話だが、19歳まで日本でプレーした私は13歳の時にスペインにチームでスペイン遠征に行った以外は海外でプレーした経験はなかった。ヨーロッパではポルトガル等でテストを受けニュージーランド、モンゴルと数カ国でプレーして思うのは国によってシュートの質もストライカーの性質もまったく違うということ。
 
1番それが顕著に感じられるのは、アフリカの選手と対峙した時である。届かないと思う1歩が出てくるし、あのスプリントの伸びは日本では経験できない。ポルトガルにいた時もブラジル人が多かったが、あのドリブルのテンポから繰り出すシュートやパスは、1対1の対応でも間合いを詰めるのが難しい。
 
GKは、経験値のポジションだ。身体に無理を効かせ、ボールに飛びつかないといけないポジションだ。歳をとることでフィジカルは落ちていくかもしれないが、自分の身体の使い方もわかっていくし、シュートを受けた本数も違ってくる。
 
野球でたとえると、通常140キロでバッティングセンターでトレーニングする選手と120キロでトレーニングする選手なら、試合で140キロのボールに対応できるのは前者に決まっている。140キロのボールを100球受けた選手と10000球受けた選手では、明らかに後者の方が打ちやすいはずだ。単純な話、数をこなしていることが大きなアドバンテージになる。練習、自チームでの公式戦のレベルから見ても、海外組である川島永嗣以外に考えられないのだ。
 
それを顕著に感じたシーンは、前大会前のオランダ対日本の国際親善試合で、ロッペンが西川周作からゴールを奪ったシーンだ。確かに素晴らしいシュートではあったが、カットインされた後に体が完全に横を向いた状態からシュートを放たれた時、明らかに西川は準備していなかった。ポジションが高すぎたのだ。フロントダイブを狙ったのか単純にポジションが高かったのかわからないが、彼の頭上を通りボールはゴールに吸い込まれた。あのシュートを打てる選手は当時、日本にはいなかったと思う。

確かに世論で川島永嗣ではダメだという時期もあった。それは私も否定しない。それはチームがない時や試合に出場していなかった時である。
 
やはり試合に出場しないとGKは難しい。サブの選手はいつ出番が来ても良いように準備をするが、トレーニングではよりリアリティのあるトレーニングには限界があるし、練習試合も怪我をしないようにということやトレーニンングマッチなので普段のゲームの緊張感を持って望むことはとても難しい。
 
今、私自身もプレシーズン期間だがトレーニングマッチと公式戦では大きく違うし、チカラを養うことができない。いくら本場でトレーニングをしていようがチームと契約していても、公式戦に出場してこそ意味があるのだ。
 
しかし今の川島永嗣にその問題は一切ない。むしろ彼はPSG、モナコなど世界のトップレベル相手に良いパフォーマンスを発揮している。確かにチーム力の差はあるので失点は多いかもしれないが彼自身のパフォーマンスは悪くないし、むしろPSG相手にプレーできる日本人GKは他にいないのだ。世界のトップに日本のGKは到底及ばない。しかし今現在世界のトップに1番近いのは彼であると私は考えている。
 
日本人のGKにあとW杯まで2ヶ月しかない状態でノイアーやブッフォンを求めるのは酷な話である。そう考えると弱点の少ない川島永嗣がベストであると考える。

所詮、キックなんて特殊能力でしかない

日本のGKにキックの技術を求めるコーチ、選手は非常に多い。そして前大会でノイアーが見せて強烈な印象を与えた11人目の選手としての技術、ペナルティーエリア外での仕事を求める傾向が強いのが今の育成年代を見ても顕著に表れている。私自身のプレースタイルもキックが得意だったり足元の技術、デストリビューションが得意ではある。海外1年目では、それを全面に押しだそうと思っていた。
 
しかし海外3年目になる私の今の意見は全く逆だ。キックは所詮特殊能力に過ぎない。最も大事なのはシュートを止める能力だということ。外国人枠という海外のリーグで争う大きな問題の中でGKに1枠使うのはかなり勿体無い。しかしGKはシュートを決められなければ勝ち点1が獲得できるというポジションである。
 
海外に出てから、「シュートを止めること」がどれだけ大事なのかを何度も痛感した。身体もでかい身体能力も高い外国人に勝つためには、シュートを打たれる前に食い止めるコーチングと、何よりもポジショニングである。それが川島が1番優れている。攻撃は最大の防御であるというかもしれないが自分の身体より大きなゴールを守るというのがGKにとって最も必要な能力であるのは間違いない。
 
確かに川島にノイアーのようなペナルティーエリア外に飛び出して処理するような能力があるわけではない。何度かヘディングでの処理や足元の処理でおぼつかないシーンを披露したこともある。しかし強豪国相手に押し込まれるシーンが多くなると予想される今大会ではペナルティーエリア内でどれだけ仕事ができるかというのが日本人GKが最も必要とされるところであると言える。キーパーがキャッチしてからのカウンターはあれば武器になる。しかし何度も申し上げるがまずはゴールを守ることが日本上位進出の鍵であるのは間違いないのだ。

中村航輔が見せた可能性

すごいキーパーが出て来たな、というのが彼を初めて福岡所属の時に見た時に私が感じた印象である。彼のプレーを生で見たことがあるのは数ヶ月前に行われた東アジア選手権の北朝鮮戦1度だけであるが彼のプレーは非常に参考になるし日本のGKが世界で戦う上で最も重要なことを持ち合わせていると思う。
 
それはシューターとの間合いの詰め方である。1対1や単純なシュートストップにおいてあれだけうまく自分との間合いに持っていき対応できるキーパーはないと思う。タッパがないと言われる日本人GKにとって自分よりはるかに大きいGKと戦うためにはシュートコースを限定するしかないのだ。
 
もちろん大きいキーパーが良いに越したことはない。それは一切否定しない。自分より大きい選手が飛んで届く範囲が広いのは明らかである。背が大きいというのは生まれながら持った特殊能力である。私自身もとても小さい。プロ契約である日本人のGKの中で最も小さいと思う。自分より小さいGKを見たことがない。
 
しかしその変えられないハンデをどう埋めるのかとなった時に1番大切になるのがポジショニング、相手選手との間合いだ。距離が詰まれば詰まるほどシュートコースは縮まる。シュートを派手に止める必要はなく体のどこかに当たれば良い。特に1対1では。2大会前の川島も間合いのが上手く詰まりオランダのアフェライとの1対1を含め多くのシュートストップをした。それより間合いを詰める巧さが中村にはあるのだ。
 
日本のGKが生きる道とも言えるものを持っている彼が、将来日本のゴールマウスを守るだろうと思う。しかし今ではない。それは先ほども申し上げたが経験値である。彼があのプレーを世界トップレベルに発揮できる保証は、今はない。

W杯でしか海外移籍のチャンスがない?

外国人枠にGKを使うのはレアである。移籍金、年俸を払ってまで使えるか未知数なGKを獲得するほどヨーロッパのマーケットもバカではない。
 
そんな日本人のGKが世界で活躍するためにはW杯で活躍する、自分からテストを受けに行くぐらいしかない。実際に海外でプレーした日本人GKといえば川口能活と川島永嗣という印象が多くの人にある。彼らはW杯で良いパフォーマンスを見せた。SVホルンに行った権田修一も例外ではないが、行き先は日系チームであった。そんな彼でもオリンピックという舞台でチームは結果を出した。アジアで、日本で良いパフォーマンスを見せていても海外で声はかからないのだ。
 
何よりそれは算段が取れないから。フィールドプレーヤーであれば香川真司などはW杯からではないが他に活躍していた日本人プレーヤーがいたため推測ができた。しかし日本人GKは2人しか海外で評価された例がない。川口はあまり大きな実績を残せなかったことから川島1人といっても過言ではない。ハリルホジッチを更迭した今日本人GKの未来を考えると中村でも良いんじゃないかと投げやりになってしまう自分がいるのも事実である。W杯は選手を市場に売り出す格好の機会でもあるのは事実なのだ。

PKの強さ、セットプレーの強さ

最後にGK1人の活躍が鍵になってくるPKと短期決戦の肝であるセットプレーについて考察する。
 
「日本代表のキーパーは、PKを結構止めるよな」というのが自分のざっくりとした印象である。そのPKに川島はめっぽう強い。親善試合のブラジル戦でも2本目のネイマールのPKをストップして見せた。PKに強いというのは川島の大きな武器であり、短期決戦でもかなり重要なものになってくるだろう。
 
今の日本に点を取り合いをするのは想像がつかない。監督交代もあるが守って耐える日本代表が今だからこそ期待したい。そうなった時に0-0の状況でPK戦に回って来た時に期待できるというのは素晴らしいことである。

セットプレーについては3大会前にオーストラリアにロングスローからゴールを決められた印象があるが、体格に優れない日本が崩れないためには大事な要素であると言える。ボールが止まっているのだから、チャンスを作りやすい。日本も決勝トーナメントに駒を進めた2010年W杯は本田圭佑と遠藤保仁によるあのスーパーFKがあったからと言っても過言ではない。
 
ヘディングシュートは通常のシュートと違い、シュートの角度が「上から下」に入ってくる。人間の脳科学的に、反応が遅れるのはしょうがないことでヘディングシュートは通常のシュートストップより難しい。しかし川島、中村両者ともに対応が上手いのはかなりポジティブなポイントだろう。
 
選手目線からして日本人GKの大活躍を期待したい。日本人GKできるんだぞ、世界で戦えるんだぞというのを見せて欲しい。自分自信のチャンスにもなるし多くの日本人の子供達の希望にもなって欲しい。そして1ファンとして川島が大舞台で活躍するのを期待している。
 
日本のGKが世界で戦うための先駆者として川島選手を心からリスペクトしている。本大会での日本人GKの活躍に期待している。日本のサッカー少年が1人でも多く「GKって良いな」、そんな風に思ってもらえるW杯を期待している。

代表正GKは、川島永嗣でしかあり得ない。専門家がみる3つの理由

川島永嗣選手は、2010年W杯以降4人の監督からサッカー日本代表正キーパーに指名されてきた選手です。巷では「ミスが多い」「技術が低い」「Jリーグにもっと良いGKはいる」等の意見もあります。しかし、山野陽嗣氏(元U-20ホンジュラス代表GKコーチ)は、「正GKは川島以外あり得ない」とまで言い切ります。どういう理由なのでしょうか?(文:山野陽嗣)

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VictorySportsNews編集部