注目を集める2020年、期待されるその経済効果
オリンピック開催決定から、2020年を契機に、医療や健康、観光などの産業を巻き込んだ「スポーツの成長産業化」に期待が集まっています。経済界の東京2020オリンピックへの期待は相当なものですが、一方で「イベントを当て込んだ施策は継続性がない」、「真の意味での産業化は2020以降も見据える必要がある」という声も聞かれます。
横浜DeNAベイスターズ初代球団社長で、スポーツ庁参与を務める池田純氏は、スポーツの可能性はイベント依存の試算金額などを差し引いても大きな可能性を秘めていると言います。
「スポーツは、日本が自主的、能動的に発展させられる数少ない産業です。さまざまな産業を推進力にして発展してきた日本ですが、私はスポーツがその最後に近い可能性の一つだと思います」
高度経済成長、バブル崩壊、リーマンショック、為替安定による経済の緩やかな回復など、さまざまなタームを経て成熟してきた日本経済において、スポーツは「最後のフロンティア」である。池田氏によればそれは金銭的な経済発展の可能性だけに留まらないと話します。
「“成熟期”を迎えた日本にはさまざまな社会課題があるといわれています。少子高齢化、人口減少が進み、大きく発展していた成長期に比べれば、さまざまな場面においても企業や個人が短期目線でしか物事を見なくなり、自分が主導的に声を挙げていく、先頭に立って引っ張っていくという“気概のある人”が減っているような気がします。そんな中で、スポーツというのは、経済効果だけでなく、それ以上に大きな可能性を持っていると思います」
池田氏は多くの人が注目する産業としてのスポーツの魅力に潜在的価値があるとした上で、スポーツにはさらにそこを超えた大きな魅力があると言います。
オリンピックだけじゃない! スポーツは日本の“元気玉”になり得る
「私はスポーツが、日本の最後の“元気玉”だと考えています。スポーツによって産業を興していくというのもありますが、スポーツの世界から国を変えるような人が出てきてほしいという期待感があります。誤解を恐れずにいえば、『スポーツは国を変えることができる』。それぐらいの“元気玉”なんだと思います」
現状、スポーツがクローズアップされるのは不祥事のときだけ。旧態依然の組織に批判が集まっているのが現実ですが、「スポーツの産業化」を真剣に考えるなら、日本国民の元気が集まった“元気玉”を大きくしていく受け皿であることが重要だと池田氏は言います。
「リーダーや組織が“変わる”ことが絶対的な必要条件にはなりますが、スポーツにはそうした“元気玉”になり得る可能性があると思います。例えば、地方の人口減少、過疎化という社会課題に対して、地域活性化のための手段にやはりスポーツはうってつけだと思います。目先のことだけ考えてしまうと、『アリーナを造ろう』『スタジアムを造ろう』という発想になってしまい、それではアリーナ、スタジアムを建てた人や、Jリーグ、Bリーグのチームをつくった人、誘致した人の手柄になって話が終わってしまいますが、社会課題に対するアプローチというのはそういうことではないはずです。
現状、プロリーグのチームを呼んできてアリーナやスタジアムで興行を打っても集客面で苦戦するのは目に見えています。アリーナやスタジアムを造ったところで、毎日プロスポーツの試合を開催できるわけでもなく、人気アイドルが恒常的に全国津々浦々でコンサートを開催するわけでもない。アリーナやスタジアムを造ること自体を否定するわけではありませんが、短期的、近視眼的な発想で“ハコモノ”を増やしてしまうと、せっかくの投資が“負の遺産”になってしまうことだってあります」
池田氏が指摘するのは長期的な視点に立ったビジョンの重要性です。
「長い目で見て、国なら国のためになること、地域なら地域の力になるようなことをセットで考えなければいけません。スポーツはそういう長期的なビジョンが持ちやすいソフトになる可能性が高いといえるでしょう」
全国一律はナンセンス 地域の特徴を生かした活用法がある
池田氏は一律に「人気競技のプロチームを持とう」という発想や、人気がある競技を呼べるアリーナ、スタジアムを造ろうという発想ではなく、その地域の特色と適材適所で紐付けられるのがスポーツの魅力だと言います。
「別に全国一律で野球、サッカー、バスケである必要はありません。ワールドクラスの波がたち海がきれいな地域であればサーフィンの名所として地域おこしをすることも考えられます。サーフィンの世界大会を誘致するだけじゃなくて、地元にサーフィンの学校を建てる。高校年代から世界を転戦するような有望選手に単位を与えて、その地域から世界的なサーファーがどんどん出てくるような環境をつくれば、その地域の力になりますよね。観光客も民泊で受け入れて、インバウンド需要で地元経済を発展させるとか、サーフィンを文化として根付かせることができるはず。その地方の良さや特徴を活かしたオリジナルのスポーツの活用方法だってたくさんあるはずです」
長期的な展望に基づいた施策を打つことができれば、新たな産業としての可能性をまだまだ秘めているスポーツ。
「最近のスポーツ界ではさまざまな問題が起きていますが、そういった組織やリーダーではなく、未来を描ける、夢を掲げるリーダーが増え、その未来や夢に向かって進むことができれば、日本のスポーツの産業化は難しくはないと思いますし、スポーツが日本の“元気玉”になれるものだと考えています」
目先の経済活性化ではなく、継続性のある“文化”としてスポーツを有効活用できるか? 来たるべき2020年、そしてその後の日本のスポーツはどうなるのか? 直接スポーツに関わる人だけでなく、多くの国民が関心を持って注目していく必要がありそうです。
<了>
取材協力:文化放送
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毎週木曜日レギュラー出演:池田純
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