新時代のスポーツビジネスとは

2017年4月12日にスポーツ庁長官の鈴木大地氏をゲストに迎えた講義に始まり、毎回多くの受講生を前に豪華な講師陣と対談を行ってきた『Number Sports Business College』発起人の池田純氏は、開講からの1年を振り返ってこう話した。

「『Number Sports Business College』へ受講しに来る方は、自分で新しいことを切り開こうとする人が多い印象です。スポーツビジネスというと、プロスポーツリーグやクラブのようなスポーツの“本丸”をイメージされることが多いと思いますが、今やそういった時代は終わりを迎えていると考えています」

変化の激しい時代において、既存のビジネスモデルにばかり頼っていては市場の成長は望むべくもない。人口減少時代に突入し経済成長が停滞している日本においては、スポーツビジネスも規制や枠組みの中で考えるのではなく、「スポーツビジネス」の概念そのものを変えていく必要があるだろう。『Number Sports Business College』では、市場にダイナミズムを生み出し、新たなスポーツビジネスの形を切り開いていくきっかけになればと池田氏は言う。

「今の日本には、人口減少、教育、地域活性化、働き方改革など数多くの社会課題があります。こうした社会課題を、いかにしてスポーツを使って解決することができるかが、これからの『スポーツビジネス』のあるべき姿なのではないかと考えています。そのためには、それぞれの分野のプロフェッショナルがスポーツ産業に関わっていくことが必要になると思います。理想は、『Number Sports Business College』を受講しに来た方々がそれをきっかけに、スポーツの周辺ビジネスで新たなアイデアを生み出していけるようになれればと思っています」

(C)荒川祐史

未来のスポーツビジネスに必要なのは掛け合わせができる人材

2016年にスポーツ庁と経済産業省は「スポーツ未来開拓会議」を設置し、2025年までにスポーツ産業の国内市場規模を15兆円に拡大する目標を打ち立てた。だがそれを現実的なものにするためには、「圧倒的に“人材”が足りない」と池田氏は言う。

スポーツの世界で働くことは“夢”、ドリームジョブとも言われてきた。給与を下げ、非常に厳しい環境の中でも働くことが美学のようになってしまっている。この時代にスポーツ業界で求められる人材像は一体どのような人なのだろうか。

「スポーツはもっと儲けることができると考え、ビジネス規模を大きくしていこうというマインドのある人。クリエイティビティ、イマジネーションがあって、もっと自由に、もっとダイナミックに動ける人だと思いますね」

他のエンターテインメントビジネスがさまざまなアイデアを駆使している中、スポーツの世界では今後、もっと突き抜けたことが求められる時代となると池田氏は言う。

「スポーツをいろんなものと掛け合わせて考えられる人、ITでも他のエンターテインメントでもどんなことでもいいと思うので、掛け合わせて考えることができる人が必要だと思います。そのためには、両方の最先端を知っておかなくてはいけません。そうした掛け合わせが、新しくて面白いものを生み出していくんだと思います」

スポーツビジネスは、ある意味で世の中のあらゆるものが集約されていると言うこともできるだろう。人の心を動かすためには何が求められているのか。時代の流れやその背景まで知る必要がある。そして、自分が良いと思ったものとコラボして、ビジネスに取り組んでいけばいい。池田氏が言う世の中のコンテクストを理解した上で、新たなものを生み出していくことが必要とされていると池田氏は話す。

(C)荒川祐史

最先端に触れ続けることができる場

「最先端の人の話を聞くこと。それが一番楽しいですし、一番意味があると思います。私もそうした方たちの話を聞いていてとても楽しいですし、そういうマインドの人たちがもっと増えてほしいと思います」

スポーツビジネスの最先端で挑戦し続ける他分野の成功者たちと対話することで新たなシナジーが生まれる場。『Number Sports Business College』の講義は、米国の大学で多く見られる実践的な形式となっている。学術的な内容や過去の話を座学で勉強することももちろん大事なことかもしれないが、勉強することそのものは目的ではなく、あくまでもスポーツを“活用”して新しい世界を創るという真の目標のための手段であるはずだ。最先端で活躍している人たちの最新の話を聞き、さらには対話できることこそが、この場の良さだと池田氏は言う。

「率直に、もっといろいろな競技のことも知りたい、さまざまな分野の最先端で活躍、成功していて、改革、挑戦を続けている方たちの話を聞きたいという思いがありましたね。1年続けてきて、あらためてその重要性を感じています」

講義中、池田氏がゲストに対して鋭く質問を投げ掛ける姿がよく見られる。まさに最前線で挑戦を続けてきた池田氏だからこそ持ちえる視点の成せる業だ。

「知っているものを隠し持っていても仕方ないですからね。自分の持っているものはすべてさらけ出しますし、それをみんなでやることに意味があると思っています」

思えば池田氏は、これまでも常に海外や他産業における成功事例を見ては、スポーツの世界に取り入れてきた。そうした池田氏の姿勢そのものが、この『Number Sports Business College』に投影されているのだろう。こうしたスタイルこそが今後のスポーツビジネスを面白くする可能性を持っている。

4月12日には中田英寿氏をゲストに迎え、第2期が開始する。まずは実際にこうした場へと足を運ぶことが、すべての第一歩になると池田氏は言う。

「ゲスト、受講生を含め、いろいろな人と知り合うことができて、直に話を聞ける。その場で名刺交換して、情報交換をして、さまざまな繋がりができる。そうしたコミュニティーになればいいと思っていますし、あまり気張らず気軽に参加してもらえるとうれしいですね」

『Number Sports Business College』に一度足を運んでみれば、新時代のスポーツビジネスの片鱗と、自分がこれから何をするべきか、そのヒントが見えてくるかもしれない。

<了>

『Number Sports Business College』の詳細はこちら

===================================================
池田氏が発起人となって2017年4月に開講した『Number Sports Business College』が一冊の書籍、『最強のスポーツビジネス Number Sports Business College講義録』(文藝春秋社)となって、4月20日(金)に刊行されることとなった。
豪華なゲストを迎えて行われた第1期 第1回~第19回までの講義内容が、さらに価値を高めた内容として収録され、まさに『Number Sports Business College』の世界観が凝縮されている。スポーツビジネスを志している方、すでに携わっている方、あるいは他産業からスポーツ事業への参入を考えている方に必見の、スポーツビジネスのバイブルといえる一冊になりそうだ。

以下、本書に収録されているゲストの一覧(敬称略)
■♯1 鈴木大地(スポーツ庁長官)
  スポーツ基本計画が示す日本の未来
■♯2 為末大(世界陸上男子400mハードル銅メダリスト/DEPORTARE PARTNERS 代表)
  アスリートのキャリアとスポーツベンチャー
■♯3 大河正明(Bリーグ チェアマン)
  バスケットの可能性 アリーナの可能性
■♯4 島田慎二(株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長)
  チームを再建し、人を呼ぶ方法
■♯5 田嶋幸三(日本サッカー協会会長)
 「育成日本」復活の真意とは
■♯6 井上康生(シドニー五輪柔道男子100kg級金メダリスト/柔道全日本男子監督)
  日本柔道はなぜ復活できたか
■♯7 齋藤精一(株式会社ライゾマティクス代表取締役社長)
  スポーツエンターテインメント テクノロジーの幸福な関係
■♯8 岩渕健輔(公益社団法人日本ラグビーフットボール協会理事/TEAM JAPAN2020 男女7人制日本代表監督)
  2019 年、そしてその先のラグビーのために
■♯9 上野裕一(一般社団法人ジャパンエスアール会長)
  サンウルブズ、スーパーラグビー参入までの道
■♯10 ジム・スモール(MLB JAPAN ヴァイスプレジデント アジアパシフィック)
  MLB のアジア戦略とWBC
■♯11 早野忠昭(一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・レースディレクター)
  愛される市民マラソンの作り方
■♯12 隈研吾(建築家/東京大学教授)
  新国立競技場に込めた思い
■♯13 太田雄貴(日本フェンシング協会会長)
  フェンシングをメジャーにするために
■#14 松下浩二(Tリーグ専務理事/株式会社VICTAS 取締役会長)
  卓球新リーグをなぜ立ち上げたのか
■#15 川淵三郎(日本サッカー協会最高顧問/日本トップリーグ連携機構代表理事会長、他)
  すべては組織のガバナンスから
■♯16 大橋秀行(ボクシング元WBC/WBA 世界ミニマム級チャンピオン/大橋ボクシングジム会長)
  日本ボクシング界の「今」と「これから」
■♯17 堀江貴文(実業家)
  スポーツはビジネスチャンスにあふれている
■♯18 池田純(一般社団法人ジャパンエスアール CBO(チーフブランディングオフィサー))
  青山ラグビーボールパーク化構想と、サンウルブズ活性化計画

『最強のスポーツビジネス』日本のスポーツシーンを牽引する豪華メンバーのビジネス論が刊行

「2020年の先を見据えた、スポーツの未来を考える」をコンセプトに、スポーツをビジネスとして考え、実行に移せる人材を輩出していく学びの場『Number Sports Business College』。開講から1年、これまでの講義の内容をまとめた書籍『最強のスポーツビジネス Number Sports Business College講義録』が刊行されることになりました。【PR】

VICTORY ALL SPORTS NEWS

以下は、『Number Sports Business College』レポート記事

川淵三郎「集めた知識と経験を元に、物事を定量的に把握することが大切」(日本サッカー協会最高顧問 日本トップリーグ連携機構代表理事会長他) 太田雄貴「日本人としての戦い方を模索する」(世界陸上男子400mハードル銅メダリス/DEPORTAREPARTNERS 代表)木谷高明「新日本プロレスが突き進む“映像ビジネス” その戦略とは?」(株式会社ブシロード取締役・新日本プロレスオーナー)隈研吾「これからの建築には飲み込む力が必要なんじゃないかな」(建築家・東京大学教授/新国立競技場設計)松下直樹「選手がパフォーマンスを上げて、初めてその選手や団体をサポートしていると言える」(株式会社アシックス グローバルスポーツマーケティング統括部長 兼 アシックスジャパン株式会社 取締役)松下浩二「卓球の放映権を中国や東南アジアに売りたい」(T リーグ専務理事/株式会社VICTAS 取締役会長)ジム・スモール「スポーツビジネスの優位点は“情熱”にある」(MLB JAPAN ヴァイスプレジデント アジアパシフィック)岩渕健輔「常識を疑ってかかることが大切」(公益社団法人日本ラグビー協会理事/TEAM JAPAN2020 男女7 人制日本代表監督齋藤精一「スポーツは、もっとやれる」(株式会社ライゾマティクス代表取締役社長)上野裕一「正直であることしか強みがない人間なんです」(一般社団法人ジャパンエスアール会長)

新川諒

1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。