どのコーチも言う「腰の開きが早いよ!」

「腰の開きが早いよ!」これはピッチャーを経験した人なら分かると思いますが、かなりの確率でコーチから言われる言葉です。
私も高校までピッチャーをやっていたので、もちろん言われました。
同時にそのとき以下のような疑問も持ちました。

・開くとはそもそもどういう動き?
・開いてないとはどういう状態?
・「早い」のがダメなんだったら、いつ開けばいいんだ?

そもそも腰の開きとは?

腰の開きとは、基本的には後ろ腰(骨盤・股関節)の位置のことを指しています。
右投げなら、右腰です。

「早い」とは、主に同じ側の脚や上半身などとの位置関係で決まります。
例えば前側の脚が接地するタイミングでの腰の位置です。
開かない選手は、腰がまだ回転を始めていません。
一方で、開きが早い選手は、この時点ですでに腰が回転を始めています。

©︎中野崇

これらのことから分かるように、「腰の開きが早い」とは、「腰が回転を始めるタイミングが早いよ」、という意味です。
腰を開く、つまり回転を始めるタイミングについては、後述します。

腰の開きが早くなるといけないの?

実際、腰の開きが早くなると、大きなデメリットが生じます。
その結果起こることは、シュート回転、バッターから見やすい、キレの低下、肘や肩のケガ。
ピッチャーに起こる問題の多くは、実は大半が腰の開きが早いことに起因しているのです。

これには2つの要因があります。

1)ピッチングではリリースポイントが決まっていること。

ストライクゾーン、キャッチャーの構えるミットに狙い通りに投げる必要がある以上、リリースポイントは非常に狭い範囲に限定されます。
リリースの位置が少しでもずれると、18.44m先では大きくずれることになります。
つまり、ピッチングではゴール(リリースポイント)が決まっているということです。

2)加速の鍵は助走。

一つ目と密接に関わるのですが、投球時にリリースポイントでどれだけ加速できているかは大きなポイントです。
リリースポイントの時点でどれだけ加速できるかは、助走の距離が影響を与えます。
つまり、リリースポイントまでの距離が80cmあるのと、50cmしかないのとでは前者の方がリリースポイントでは加速できている状態であるということです。

そして重要なことは、腕の加速の動力源は腰の回転(腰→背骨→肩甲骨→腕)であるということです。
つまり、腰の回転の加速がスタートする位置が重要なのです。
もう一度、上記の腰の開きが早い状態と我慢できている状態の写真を見比べてみてください。

一目瞭然、腰の開きが抑えられている方が、助走は長くなります。
ズルズルと開き始めた状態から加速するのと、ギリギリまで我慢して助走をたくさん確保して加速するのとでは、加速できる距離に大きな差が生まれます。

©︎中野崇

助走が足りない=加速が足りない場合、ピッチャーはどうするのでしょうか。
それは肩や腕を力ませることで補助します。
当然、一回の投球ごとの肩肘への負担は大きくなります。
それを繰り返すことが、肩や肘の怪我を誘発しているのです。

プロでは常識。アウトエッジで腰の開きを限界まで抑える

では、この腰の開きを抑えるためにはどのようにすればいいのか。
その鍵となるのが「アウトエッジ」です。
実際、プロ野球選手は多くの投手がアウトエッジを常識としています。
使うタイミングは、並進運動のときです。

©︎共同通信

並進運動は、腰の回転運動を加速するための勢いをつける役割があるので、その時にズルズルと回転を初めてしまっては元も子もないのです。
アウトエッジは、並進運動のときに腰の回転を抑える作用があるのです。
それに対して、多くのアマチュアレベルやスポーツリハビリでは、「並進運動のときはインエッジで押していけ」と指導します。
私もそれをひたすらやっていました。
「ヒップファースト」というトレーニングが典型的な例です。

©︎中野崇

インエッジで並進運動をすると、股関節が内側に捻られる作用により、膝が内に入り、腰は回り始めます。
これを専門的には運動連鎖といいます。
インエッジを使うタイミングは、並進運動の最後の最後、「腰を急激に回転させるとき」だけです。

©︎中野崇

腰の回転は急激に始める。

アウトエッジから急激にインエッジにして膝を内に入れることにより腰は急激に回転を始めます。
それまでは、ひたすらアウトエッジで我慢です。
限界まで我慢したら、急激に膝を内側に入れて腰を回転させます。
それが、腰の「キレ」を出すコツです。
バッターから見ると、急激に加速するので、非常にタイミングが取りにくいことになります。
全盛期のジャイアンツ杉内投手など「球速数値より速く感じる」と評価されるピッチャーはこのあたりが非常に長けています。

アウトエッジだけでは足りない。股関節とセットで使う

いくらアウトエッジで支えたとしても、股関節が連動していなければ、単で外側で支えている状態です。
これでは腰の回転を抑えて限界まで我慢するには不十分です。
腰の開きを抑えるとき、アウトエッジと股関節が必ずセットで働く必要があります。
今回は、このセットを身体に落とし込むための運動をご紹介します。

「アウトエッジ股関節入れ」というトレーニングでプロ野球選手たちにも取り入れてもらっています。
*先日ご紹介した、鼠径部とみぞおちを押さえて地面を足で叩く運動を先にやっておくとさらに効果的です。

©︎中野崇

足は、つま先を正面に向け、くるぶしラインに重心を置きます。そこから足の内側を1cmほど浮かせます。
「くるぶしライン+外乗せ」、この状態がアウトエッジです。
この運動中はずっとこの状態をキープします。

©︎中野崇

両手で左右の鼠径部を2本指でそれぞれ押さえます。
アウトエッジを作る際は、膝が外に逃げないように注意してください。

©︎中野崇

アウトエッジで鼠径部を押さえたまま、お尻を後ろに突き出していきます。
モモ裏が伸びる感覚が出るところまでです。
モモ裏が伸びるところまで動かしたら、その張りを保ったまま小さく上下してその反動がモモ裏に伝わるように10回ほどリズムよく「グッグッ」と小さな上下を繰り返します。
膝は少しだけ曲がります。

©︎中野崇

このとき、股関節体幹部分は反らせず丸めず、筒状をキープします。
膝は前には動かないようにしてください。
その状態で行っても効果は得られません(投球時に腰は開きます)。
お尻を後ろに出していけば、前には動きません。

キャッチボールやピッチング練習の前や途中に、頻繁に繰り返すのがオススメです。

このアウトエッジ、バッターにも同じように非常に重要です。
次回、バッターのアウトエッジについてご紹介します。

次回記事『「身体が開く」とは?青木宣親から学ぶ、身体の開きを抑える方法』

「野球がうまくなる運動 教えます」記事一覧はこちら

中野崇の記事一覧

VICTORY ALL SPORTS NEWS
体幹トレーニングによって野球が下手になる?誤解されがちな”体幹”野球のトレーニングに「走り込み」は必要なのか? vol.1

中野崇