日本男子のいないスケートアメリカ

今回のスケートアメリカには日本男子のエントリーがなかった。歴代の男子優勝者には日本人が名を連ね、10年前、今年と同じエバレットで開催された大会では小塚崇彦が優勝している。そんな縁の深い大会にエントリーがなかったことは残念だが、エントリーできる選手がいなかった、というのが実際のところだ。グランプリシリーズには出場資格があり、前年の世界選手権の順位、ISU世界ランキング、前年のベストスコアのランキングなどで決められる。自国開催の大会だけは別の基準で選出することが可能だが、海外の大会にエントリーするためには成績面での資格を満たしている必要があり、日本で出場資格のある男子選手は、他の大会だけですべてのエントリーを使い切っている状態だ。2試合にエントリー可能な選手は羽生結弦、宇野昌磨、友野一希、田中刑事の4名。ここに1試合のみエントリーの佐藤洸彬、山本草太を含めても合計の延べエントリー数は10。スケートアメリカにエントリーしなくても足りてしまう数字なのだ。気が早いが、来季は山本草太、島田高志郎が2試合のエントリーを勝ち取り、すべての大会で日本男子の雄姿を見られることを期待したい。

新ルール下での初のグランプリシリーズ、その影響はいかに?

その男子だが、今大会はネイサン・チェンの完勝となった。新ルール下でのこの勝利は、スケートアメリカだけに留まらず、世界選手権までの戦いをも占うものとなる。まず内容面だが、チェン選手は直前のジャパンオープンに比べて難度を落とした構成を選択した。ジャパンオープンで挑んだ4ループは跳ばず、4回転ジャンプの数は、ショートで1本、フリーで3本。より完成度を求めた構成だった。ショートの4フリップでのミスなど、パーフェクトとは言えない内容で合計280.57。この構成でパーフェクトな演技ができた場合、280点台後半の点数となることだろう。これが羽生結弦、宇野昌磨にとってもターゲットスコアとなる。当面は290点を争う展開となり、各選手のプログラムの内容がこなれ、より高難度の構成を組める3月の世界選手権の頃には300点超えも視野に入ってくるはずだ。今週末のスケートカナダでは宇野昌磨が出陣する。内容、スコア、ともに注目したい。

日本男子のいない、静かなスケートアメリカ。その現場で感じた、日本のスケート文化の成熟ぶり

今回、羽生結弦、宇野昌磨といった日本男子のスター選手がいないことで、取材メディアの数はとても少なかった。特に日本で羽生結弦が出場する大会の熱狂ぶりから比較すると拍子抜けするほどだ。日本の大会のようにグッズ販売のブースに長蛇の列ができるようなこともなく、観客の数も総じて少なめ。正式な入場者数の発表はなかったのだが、概ね5000人以上は入る会場に、目視でせいぜい2000人程度の客入り。そんな中、かなりの数の熱心なファンが日本から応援に駆け付けていたのだ。その数、およそ100人。ネイサン・チェンのファンが多かったようだが、もちろん日本女子の応援も熱心にされていた。実は現在、アメリカではフィギュアスケートはさほどの人気スポーツではない。今回もNBCが放送をしていたものの、アメリカ国内での注目度は高くなく、かつてのミッシェル・クワンのブームの時期に比べると寂しい状況なのだが、そんな中、遠く日本からのファンが会場の雰囲気を盛り上げることに一役買っていたのだ。また、地元企業の看板広告に交じり、日本企業の広告も多数見受けられた。日本のフィギュアスケート文化のすそ野の広さを実感し、大いに意を強くした出来事だった。

絶好のスタートを切った日本女子!本田真凜にも確かな進化の兆しが

女子は、嬉しい日本人のワン・ツーとなった。宮原知子はスケートアメリカ2連覇。坂本花織も2年連続2位の素晴らしい成績だ。順位もさることながら、宮原知子はオフを通して取り組んだ、ジャンプの改良が実を結びつつあることを実感できたことが大きい。ジャパンオープンでは「高く跳ぶことばかり考えてしまっていた」というが、そこからさらに修正を図り、高さを控えめにしても滞空時間を確保できるようになっていた。「練習に比べたら良くなかった」というが、それでもジャッジから高く評価されたことは素晴らしい。
坂本花織は夏場の不調を乗り越えるため、猛練習を積んでグランプリシリーズ開幕に間に合わせたことが大きな収穫だ。元来、スロースターターなタイプだが、今年のスケートアメリカの開催時期が昨年よりも1か月早いことを考慮すると、坂本選手としてはかなり仕上がりが早いと言えるだろう。世界選手権まで期待の持てるシーズンとなりそうだ。

今大会、宮原、坂本、両選手は他の選手に大差をつけてのワン・ツーとなったが、内容的にも順当な結果だ。海外勢から一人挙げるならば、地元、アメリカのテネルを上回り3位につけた、ロシアのサモデュロワの勢いは素晴らしかった。まだまだPCS(演技構成点)では日本勢とは差があるが、今後評価が上がってくれば強力なライバルがまた一人増えることとなる。

女子についても新ルールの影響が懸念された今大会だが、宮原選手に言わせると「あまり変わらない」とのことだった。「結局、やるべきことは変わらない」。宮原選手のこの発言こそが正鵠を射ているのだろう。エレメンツの質、前後のつなぎ、スケーティング、そうした要素を手抜きなくしっかりと努力して積み上げてきた選手にとっては、今季の新ルールも恐れる必要はない。そして日本勢は、こういった基礎を疎かにしない、努力型の選手が多いのだ。今季の新ルール、日本にとってはむしろ追い風になるかもしれない。

今季から拠点をアメリカに移す決断をした本田真凜。進化の兆しは随所に見られた。スケーティング、所作などの改良点も目に付いたが、何よりもスケートに取り組む姿勢が大きく変わったように感じる。以前は練習嫌いなことで有名で、才能だけでスケートをしていた印象が強かったが、アメリカに来てスケート漬けの生活を送ることで、精神面で大きく成長したようだ。メディア対応においても真摯に対応するようになり、大人のアスリートへと変貌を遂げた感がある。今回は怪我のアクシデントもあり、残念な結果に終わってしまったが、今季から指導をするラファエル・アルトゥニャンコーチからは「完成までは2,3年かかる」と、長い目で見て取り組むように言われているのだという。本田選手はどうしても、現在のコンディション以上に世間からの注目が集まってしまう。それは期待の表れともいえるが、本人にとってもきついことだろう。怪我については「それほど酷くない」と感じているようで、フランス大会での巻き返しを期待したい。

VictorySportsNews編集部

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