スポーツ紙などのプロ野球関連のニュースで、1月に話題の中心となるのが「新人合同自主トレ」だ。今年も、昨夏の甲子園大会で準優勝に貢献した日本ハムのドラフト1位・吉田輝星投手(秋田・金足農高卒)や、同優勝高の大阪桐蔭から中日にドラフト1位で入団した根尾昂内野手(中日ドラフト1位)、即戦力候補のDeNAドラフト1位・上茶谷大河投手(東洋大卒)らの一挙手一投足が連日、紙面やネットをにぎわした。

「改めて考えてみると不思議な慣習ですね」
そう話すのは、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長の池田純氏だ。

この「新人合同自主トレ」に限らず、実はかつてプロ野球では1月からチーム管理のもと、原則的に支配下登録選手が全員参加する形で合同練習が行われていた。第1次長嶋茂雄政権(1975-80年)の巨人では、1月20日を過ぎると多摩川グラウンドで合同自主トレが始まるのが毎年の恒例。古くからの野球ファンは、2月からのキャンプに備えて走り込みなどに励んでいた選手の姿を覚えている人もいるかもしれない。

ただ、選手会と日本野球機構(NPB)の話し合いで「オフシーズンの明確化」を理由に、契約期間外である12月1日から1月31日は練習を強制できない決まりになった。「野球協約第173条(ポスト・シーズン)」には「(前略)いかなる野球試合又は合同練習あるいは野球指導も行うことはできない。(中略)なお、選手が球団の命令に基づかず自由意志によって基礎練習を行うことを妨げない」と記されている。

一方で、新人選手については例外的にトレーニングコーチの指導を選手会が認め、今の形になった。球団社長時代に数多くの新人選手を迎え、接してきた池田氏は「教育の意味合いが強いものだと思います。入団する新人選手は、プロの世界で右も左も分からない状況。少しでもプロの世界を体感しておかないと、2月からのキャンプですぐにバテてしまったりする。新人合同自主トレはプロの厳しさを教える場なのです」と説明する。

140試合超が設定されているプロでは、アマチュア時代とは比べものにならない体力が求められる。ドラフトで指名されると地元で盛大にお祝いされ、すっかり太った状態で1月の入寮を迎える選手もいるという。「(2015年にDeNAにドラフト1位で亜細亜大から入団した)山崎康晃投手は、入寮時にスヌーピーのぬいぐるみを持ち込んだりしていました。選手の個性が出る点も興味深いですよね」と池田氏。多くの観客や報道陣の前で練習することは、プロの雰囲気に慣れ、サインなどのファン対応や自分を売り込むメディア対応など、プロとして必要なものを学ぶ貴重な機会にもなる。

球団にとっては、1・2軍の振り分けに向けて選手を見極める場として重要な期間となるが、メリットはそれだけではない。「新人選手には野球の技術以外にも教えなければいけないことがたくさんあります。『しつけ』というプロの世界とはかけ離れた言葉を使う人もいるほどです」と池田氏。日本の部活には、まだまだ「机を捨ててスポーツに打ち込む」ことを美徳とする空気がある。球団にとって、いち早く選手を集め、指導できる合同自主トレは、お金の使い方や税金の仕組み、SNSの利用法など社会の基本的なルールを教える場にもなる。

ちなみに、新聞やテレビに配信される共同通信の記事では「新人合同自主トレ」という呼称はほとんど使われていない。「新人合同練習」と、あくまで「自主トレ」とは異なる位置付けにしているためだ。今やキャンプ直前の1月末にキャンプ地へ選手が「自主的」に入り、「合同練習」を行うことも多くなり、もはや「自主トレ」という言葉が形骸化しているとの声もある。「野球協約第173条」が時代に沿うものであるのかについては、今後議論を尽くす必要もあるだろう。

ただ、ラグビーやサッカーなど、さまざまなスポーツにもかかわってきた池田氏は、1月に新人が入り、2月1日にキャンプイン、3月にオープン戦が本格化とシーズン開幕へ徐々に機運が高まっていく仕組みをつくっている野球について「すごい」と実感を込める。1月の「新人合同自主トレ」という“恒例行事”は、新たなシーズンへの始まりとしても大きな役割を果たしているといえそうだ。


VictorySportsNews編集部