セ・リーグ3位につけるDeNAは6月末に首位に立つなど、25年ぶりのリーグ優勝、日本一に向けてまたとないチャンスを迎えていた。しかし、7月16日に三浦大輔監督は「チームが戦っていく上で外した方がいいと決断した。後半からはリリーフ(中継ぎ)として貢献してもらう」と、開幕から守護神を務めていた山崎康晃投手の配置転換を明言。リーグ3位の20セーブを挙げていたものの、前日15日の広島戦で0-1から同点ソロを浴びるなど、キャリアワーストの6敗を喫し、防御率も4点台と精彩を欠いていた右腕に“苦渋の決断”を伝えた。

 代わってクローザーに指名されたのは昨季楽天から伊藤裕季也内野手とのトレードで加入した森原康平投手だった。楽天時代の2020年に4セーブを挙げた実績はあるものの、その適正は未知数。それでも、指揮官は長くクローザーとして活躍してきた山崎から、今季中継ぎとして安定した投球を見せていた社会人(新日鉄住金広畑)出身の7年目右腕に大役を引き継がせた。

 7月に大きな失速があり、首位・阪神には10ゲーム差(8月15日時点、以下同)をつけられているとはいえ、DeNAはAクラスの3位を維持。2位・広島を3ゲーム差で追っており、逆転優勝を諦めるにはまだ早い。クライマックスシリーズ(CS)を経ての日本一も視野に入る。その中で下した異例のシーズン中盤の守護神交代という決断。果たして、これは今後にどう影響するのか、ファンにとっては気になるところだろう。

 先述した通り、「抑えがしっかりしたチームは強い」とは、よく言われる言葉だ。確かに近年、圧倒的な強さを誇ったチームには不動の守護神がいた。通算234セーブを挙げ、ソフトバンクを日本一に導いたデニス・サファテ投手しかり、昨季までヤクルトのリーグ2連覇を支えたスコット・マクガフ投手しかり。少し前なら、日本シリーズに6度出場した通算407セーブの中日・岩瀬仁紀投手がおり、何よりベイスターズでは魔神・佐々木主浩投手が1998年の前回優勝の原動力となった。このあたりは、まさにイメージ通りといえるだろう。

 ただ、決して年間を通じてクローザーを固定できなければ優勝できないかといえば、実はそうでもない。例えば、ヤクルト。優勝した2021年、当初の抑えは実績のあった石山泰稚投手が務めていたが、不振により、5月末にマクガフに交代。6月には月間10セーブの球団記録をマークし、最終的に31セーブを挙げた。前半戦を3位でターンしたチームは6年ぶりにリーグ優勝。その大きな要因が、新クローザー・マクガフの成功にあった。

 2016年の日本ハムは、当初抑えだった増井浩俊投手がシーズン中盤に成績不振で2軍落ち。セットアッパーを務めていたクリス・マーティン投手がクローザーに配置転換された。すると、絶対的守護神として21セーブを挙げてリーグ優勝に大きく貢献。増井が年間を通じてクローザーを務めた前年2015年や翌年2017年は、それぞれ2位、5位と優勝できずに終わっており、逆に新守護神の台頭がチームに“ブースト”をもたらした好例だ。

 パ・リーグ2連覇中で、今季も首位を快走するオリックスは、ベテランの平野佳寿投手を中心に据えてはいるもののなるべく連投を避け、山崎颯一郎投手、宇田川優希投手ら層の厚い救援陣で負担を分散することで昨季までのリーグ2連覇を成し遂げた。昨季連投した救援投手の延べ人数57人は両リーグ最少。うち3連投は山﨑1人という徹底ぶりだった。オリックスの次にリリーフの連投が少ないのはセ・リーグを制したヤクルトで、1人の絶対的リリーフがいれば万事OKというほど単純なものでもないことが、よく分かる。今季のセ・リーグでトップの27セーブを挙げる田口麗斗投手のヤクルトは5位、2位の26セーブをマークするライデル・マルティネス投手のいる中日は最下位に低迷している。

 2016年の日本ハム、2021年のヤクルトがそうだったように、不調による守護神交代を経たチームの場合、新たな存在が台頭できるか否かは重要なポイントといえそうだ。その点では、今季のDeNAに関しても、森原がマクガフやマーティンのように、いかにチームの危機を救うべく踏ん張り、新守護神としての地位を固められるかが、ここから勢いづくために必要不可欠な要素として注目される。

 では、森原にその資格、可能性はあるのか。クローザーの指標では、どうしてもセーブ数というタイトルにもなっている分かりやすい数字ばかりが注目されがちだが、森原のように中継ぎを主戦場にしていた投手にとっては、その数字で実力を推し計ることはできない。そこで、代わる指標として参考にできるのは「WHIP(ウィップ)」だ。

 「WHIP」とは「Walks plus Hits per Inning Pitched」の略で、(被安打+与四球)÷投球イニングで導き出される数字。つまり「1投球回あたりに許した走者の数」を表し、救援投手のチーム状況や運に左右されない成績といえる。もちろん、走者を出しても失点しない “劇場型”でも、試合に勝てるなら問題はないが、チームに安心感や安定感をもたらす上で圧倒できるクローザーの存在は重要。基準値として1.00以下は「非常に優秀」、1.10以下なら「優秀」、1.3前後で「平均的」とされており、実際に100セーブ、または100ホールド以上を記録した投手の通算WHIPランキングを見ると、1位からサファテ(0.90)、佐々木主浩(1.01)、大塚晶則と江夏豊(1.01)、藤川球児 (1.04)と、球界のレジェンドの名が上位にずらりと並ぶ。

 では、ここで今季セ・リーグのリリーフ投手のWHIPランキングを見てみる。

【2023年セ・リーグ、リリーフWHIPランキング】

※20投球回以上(先発が主な投手を除く)

①島本(阪神) 0.73
②岩崎(阪神) 0.74
③マルティネス(中日) 0.78
④中崎(広島) 0.86
④石川(DeNA) 0.86
⑥清水(ヤクルト) 0.92
⑦島内(広島) 0.97
⑧桐敷(阪神) 0.99
⑨鈴木(巨人) 1.00
⑨岩貞(阪神) 1.00
⑪森原(DeNA) 1.01
⑪藤嶋(中日) 1.01
⑬加治屋(阪神) 1.04
⑭ウェンデルケン(DeNA) 1.07
⑮高梨(巨人) 1.10
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⑳田口(ヤクルト) 1.15
㉑山崎(DeNA) 1.16

㉘中川(巨人) 1.22
㉚大勢(巨人) 1.25
㉝矢崎(広島) 1.29

《参考・パ・リーグのTOP3》
①モイネロ(ソフトバンク) 0.58
②オスナ(ソフトバンク) 0.61
③松井裕樹(楽天) 0.74


 上位15位までに5人が入っているように、やはり首位を走るだけの選手層の厚さを救援陣でも証明しているのが阪神。次いで3人がランクインするのがDeNAだ。森原は1.01と数字も優秀で、三浦監督が抑えに指名したのもうなずける成績。十分に“新守護神”としてチームを引っ張れるだけの実力を備えた投手といえる。

 さらに、DeNAでは石川達也投手が森原を上回る数字を出している。石川の場合は現状、ビハインドの場面で投げることが多いため、単純比較できるものではないが、それでも優秀であることに変わりはない。来日1年目のウェンデルケンも、セ・リーグの外国人では中日のマルティネスに次ぐ数字をたたき出しており、DeNAの救援陣が十分にここから巻き返せるだけの選手層を持っているのは間違いない。先発陣も今永昇太投手が0.88(規定投球回以上ではリーグ2位、1位は阪神・村上)、東克樹投手が1.01(3位)、トレバー・バウアー投手が1.13(7位)とそろっており、7月に絶不調だった打撃陣の奮闘さえあれば、再び阪神を脅かすだけの急浮上を見せても何ら不思議はない。

 いずれにしても、山崎を配置転換して終盤戦に備えた決断は、指標面でも、過去の歴史を見ても、“反撃”への後押しとなる可能性は十分にある。森原も、守護神に指名された最初の試合だった7月25日の中日戦こそ2失点と崩れたものの、以降は今季5セーブ目を挙げた8月11日の巨人戦まで7試合で無失点投球を続けており、期待に応えている。「みんなで喜べる回数をどれだけ重ねられるか」という森原。「楽しめるように」と、意識して口元に笑みをたたえてマウンドに上がる“シン・ハマの守護神“が、逆転優勝を目指すDeNAのキーマンとなる。


VictorySportsNews編集部