石川雅規――悲願の200勝達成に向けて
「自分で自分の限界を決めてしまっては絶対にダメだと思います。以前から言っているように、僕は200勝を目指しています。でも、200勝を目指していたら、185勝ぐらいで引退すると思うんです。200勝するには、やっぱり、220から230勝する気持ちじゃないと。現状維持を目指しているうちは現状維持はできないですから」
この思いがあるからこそ、石川は悲願の200勝達成、選ばれし者のみが入会できる名球会に向けて着々と白星を積み重ねているのだ。
1978年に任意団体として誕生した名球会――。会員となることは一流選手の証明であり、現在までに投手17人、打者48人が、会員の証である記念ブレザーを授与されている(他に、物故者13名が名誉会員)。入会条件は、投手としては通算200勝以上、または通算250セーブ以上。打者ならば通算2000安打以上。あるいは、上原浩治(元巨人など/134勝・128セーブ)、藤川球児(元阪神など/61勝・245セーブ)のように、同会の入会規定に相当する記録を達成した者が入会を許されている。この記録は日米合計でも構わない。
ちなみに、2022年にはヤクルトの公式マスコットつば九郎が、通算2000試合出場を達成。名球会メンバーである、「ミスタースワローズ」こと、若松勉氏から記念ブレザーが贈呈されている。さらに野球界以外でも、ミュージシャンのTHE ALFEEは2005年に単独コンサート2000回を記念してブレザーを贈られている。さて、現在、名球会入りを視野に入れている選手は次の通りだ(いずれも、5月31日試合開始前時点のもの)。
【通算200勝以上】
・田中将大(楽天)……192勝3セーブ(残り8勝)
・ダルビッシュ有(パドレス)……191勝0セーブ(残り9勝)
・石川雅規(ヤクルト)……184勝0セーブ(残り16勝)
【通算250セーブ以上】
・平野佳寿(オリックス)……61勝229セーブ(残り21セーブ)
・山﨑康晃(DeNA)……16勝219セーブ(残り31セーブ)
【通算2000安打以上】
・大島洋平(中日)……1936安打(残り64安打)
・中島宏之(巨人)……1923安打(残り77安打)
・松田宣浩(巨人)……1832安打(残り168安打)
順調に進めば、今年も新たな名球会メンバーが誕生することは確実視されているが、改めてこれまでのメンバーを確認してみると、圧倒的に打者が多いことに気がつくだろう。前述したように、投手17人に対して、打者は3倍弱の48人となっており、名球会に関しては、確実に「打高投低」となっているのが現状である。
「打高投低」の現在、名球会投手はさらに貴重に
どうして、「打高投低」となるのか? その理由は明白だ。打者のケースで言えば、昭和時代よりも年間試合が増え、打席に立つ機会が増えた。たとえチームは負けても1試合に3安打、4安打を放つことはしばしばあるし、当然それが通算安打数にカウントされる。一方、投手の場合は、たとえ先発して9回無失点に抑えたとしても、打者の援護がなければ勝利投手となることはできない。250セーブについても、「セーブシチュエーション」というおぜん立てが整った状態で結果を残して、チームを勝利に導かなければ記録はカウントされないのである。
現在では、昭和時代のように20勝投手が誕生することはほとんどなくなった。セ・リーグでは2003年の井川慶(元阪神など)が20勝、パ・リーグでは2013年に田中将大が24勝を挙げたのが最後で、井川以来20年、田中以来10年間も「20勝投手」は誕生していない。また、試合数が増えた半面、投手の分業制が確立し、ローテーション順守が徹底されているため、先発投手の登板機会はむしろ減少。選手寿命が長くなった半面、昭和時代のような「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」で白星を量産する投手は絶滅危惧種となっている。
こうした経緯もあって、「100勝、100セーブ、100ホールド」を記録した上原や、セットアッパーとして、クローザーとして大車輪の活躍をした藤川などの「特例枠」は、現在のところ投手に適応されているのである。もちろん、投手と打者とを一概に比較して、どちらに価値があるのかどうかとか、一方は達成しやすく、一方は難しいというものではないのだが、投手が名球会に入ることは、現在ではかなりレアケースであることは間違いない。
だからこそ、大卒選手でありながら、入団以来22年連続で白星を積み上げてきた石川の偉大さが際立ってくる。ひと際小柄で、公称167㎝の石川がプロの世界で実績を残すことは、多くの野球少年少女たちに夢と希望を与えていることだろう。同時に、現在では「球界最年長選手」となった石川の活躍は、多くの中高年を勇気づけることにもなる。石川は言う。
「最近、“同世代の石川さんが頑張っていて嬉しい”と言われることが増えたけど、僕の方こそ力をもらっているんです。ラスト一歩のしんどいときに、その一歩を押してくれる力になる。だから、勝手に背負いたいんです。みんなとのつながりを感じながら、大好きな野球をやっていきたいんです」
交流戦初戦となる5月30日の対北海道日本ハムファイターズ戦では、今季初となる中6日で7回を投げて2失点、無四球で相手打線を封じた。惜しくもチームは敗れ、勝利投手にはなれなかったものの、打者を翻弄する老獪なピッチングはまだまだ健在だ。もちろん、田中も、ダルビッシュもキャリアを重ね、若い頃とは異なる味わい深い投球を続けている。さらに、平野も山﨑も250セーブを射程圏内に見据えている。
小高いマウンドに立ち、試合をコントロールしながら、彼らは力いっぱい腕を振っている。その姿は見る者の胸を打つ。ぜひ、新たな名球会投手の誕生を楽しみに待ちたい――。