国主導では“ワクワクしない”
講演は前述の池田氏に加え、トップリーグ連携機構代表理事会長 川淵三郎氏、スポーツ庁長官 鈴木大地氏の3名が登壇した。鈴木氏はスポーツ基本計画や、スポーツツーリズムに関する国の大枠の指針の再提示を行った。人材難とアリーナを中心としたコンパクトシティの意義を主張したのは川淵氏だ。両者ともに地方創生というゴールは共通しながらも、大枠の議論に終始した。
池田氏は、『地域密着“おらがチームの作り方”』と題して、スポーツチームを地域のアイデンティティ・アイコンに育てる手法を横浜DeNAベイスターズの成功事例をもとに紹介した。スポーツイベントの誘致や一過性の盛り上がりではなく、持続性の高い地方創生が求められる一方、そのロールモデルは未だ示されていないのが現状だ。地方創生のプロジェクトの多くは国主導で行われるものが多く、意外性のある組織体制にならず、「ワクワクしない顔ぶれ」になりがちだと池田氏は話す。
パイオニア型がキーワード
池田氏はこのような状況を打破するために、地方からパイオニアが生まれてくることが必要だと強調した。うちには何もない、と言いたくなる地方自治体も多いかもしれない。そこで池田氏は、地方創生の資産として大学スポーツに目を向けるべきだという。
大学スポーツを地域のアイデンティティ・アイコンとするには、地域密着のマーケティング、ブランディングが不可欠だ。例えば大学施設を一般向けに開放したり、地域の学校に大学からコーチを派遣するといったスクールプロジェクト、地域のスポーツチームとのエキシビジョンマッチの開催などが挙げられる。こうした地域住民との結びつきを広げていく活動を通じて、地域から見守られる存在、応援される存在になることが第一のハードルとなる。重要なのは、チームの勝敗や利益はその次のフェーズということだ。強いから人が集まるのではなく、まず人を集めるという順序で進めることで、好循環が生まれやすくなるという。
こうしたフローのベースとなっているのが、横浜DeNAベイスターズでの成功体験だ。池田氏が代表取締役に就任した当初は、社員ですらチームの価値を実感する者は少なく、モチベーションも低かったという。成績も下位が定位置だった。
池田氏就任後地域密着の施策に取り組み、成績こそ5位や最下位を行き来していたが、客足は右肩上がりの成長を続けている。地域に根差した価値の確立に、チームの強さや全国区の知名度は必要ないことを体現した。これが弱くても“おらがチームはつくれる”と断言する所以だ。
リーダーの必要性
横浜DeNAベイスターズにとっての自身がそうであったように、改革を進めるためのリーダーの重要性を池田氏は説く。ただのリーダーではない。ここでも大切なのはパイオニア型のリーダーだ。ここでのパイオニア型の対義語は、管理・運用型となる。これは日本に一番多く、大抵先代の後継者として指名されるケースが多い。先代たちが築き上げた伝統を壊さぬよう失敗を恐れ、伝統や前例を超える発想が生まれにくいという。
一方リーダーの必要性よりも、現場の情熱不足を語ったのは川淵氏だ。Jリーグ発足時、当時の選手らから感じたリーグ化への強いエネルギーを振り返り、それと同じだけのものが現場になければ、リーダーがいくら旗を振っても意味がない。リーダーは現場の温度感を感じ取りながら、今こそはというタイミングを逃さずに決断することが求められるとした。
強いリーダーか、現場のモチベーションか。一見どちらも最重要であるかのように感じるが、池田氏は、「現場のモチベーションが低くても改革は行える」と断言。重要なのは大きな夢の実現に向け、具体策を挙げて実行できるかどうか。結果が出れば現場のモチベーションは上がっていく。しがらみに捕らわれず、自由な裁量を与えられる環境が前提としながらも、モチベーション向上すらリーダーの役割であると、大きな責任と推進力を求めた。
UNIVASの統率力はいかに
こうした仕組みを大学組織に置き換えた際、3月に設立されるUNIVASはどのような役割を握るのだろうか。池田氏は、UNIVASが加盟校を束ねる統制力を強く持てるかについては懐疑的な見方を示した。リーグよりも個々のチームが幅広い決定権を持つNPB型に近くなるのではないかとしたうえで、大学内の体育会を統率し、地域のマーケットとの連携を図るリーダー的存在が大学ごとに存在することが理想だと唱えた。
池田氏が語った、地方創生への大学スポーツの活用については、UNIVAS設立を目前にしたスポーツ庁長官鈴木大地氏のプレゼンテーションのなかではこの日語られなかった。事前の報道では、全国の196の大学と31の競技団体が加盟を申請しており、およそ10万人の選手が参加することになるという。壇上で隣に並ぶ川淵氏の顧問就任も発表された。プレゼンでは、日本にはまだ価値を見出されていない自然資源が眠っていると話した鈴木氏だが、同じく大学スポーツが眠れる資産とならないよう、UNIVASの活動に注目が集まる。
川淵氏 鈴木長官 池田氏が地方創生で大激論!鈴木長官「とりあえず『頑張れ』」に会場どよめく
千葉・幕張メッセでスポーツビジネスに関する展示会「スポーツビジネス産業展」が開催され、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長でスポーツビジネス改革実践家の池田純氏(43)、スポーツ庁の鈴木大地長官(51)、Jリーグ初代チェアマンで日本トップリーグ連携機構会長の川淵三郎氏(82)が合同基調講演を行った。