先陣を切って登壇した池田氏は、スポーツにおける地方創生においてキーワードに「パイオニア」の存在を掲げた。

「成功パターンがまだ示されていない中で、国が主導して、古いワクワク感のない人事が行われ、結局何をしてくれるのか分からないまま、迷走しなければいいなと思っています」と釘を刺した上で「地域のアイデンティティ、アイコンになるような『おらが街のチーム』」を作り出せば、そこから“うねり”が生まれ、全国へと広がっていくとの考え方を示した。日本球界に「経営」「スポーツビジネス」という言葉を意識させ、浸透させた「パイオニア」らしい発言で講演は幕を開けた。

その中で「おらがチーム」として、大きな可能性を見ているのが「地域のスポーツチームとして既にある大学のチーム」だという。初代球団社長を務めた横浜DeNAベイスターズでは「DREAM GATE CATCHBALL」と題したグラウンドの地域への無料解放や170万以上の野球キャップ無料配布、横浜スタジアムの買収による本拠地球場との一体経営&黒字化など、さまざまな常識破りの施策を進めて「弱小」「お荷物」と揶揄されていたチームを、まさに「おらがチーム」に変えた池田氏。「プロとアマは違うという意見もあると思いますが、基本は同じです。マーケティング戦略とブランド戦略をどう作るか次第です」と具体的な成功事例やスポーツビジネス大国であるアメリカのローズボウルの例などを交えて、熱い「地方創生論」を展開した。

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さらに、地方創生をはじめとした組織の改革、発展において「重要なのは、やはりリーダー」とも強調した。「リーダーには管理運営型とパイオニア型がいるが、日本は大体が前者。思い切って、任せるという度量がない。理解を超えている人を排除する傾向にある」と続けた。

川淵氏からは、逆に「リーダー」の存在以上に「現場の熱」を重視するという立場での発言が目立った。

「Jリーグをスタートさせた時は若い人たちの熱量がすごかった。そのエネルギーの中で僕と何人かがプロ化を進めた。(プロ化が進まない)バレーボールは、若者の燃えたぎるような意欲がない」と、あくまで自然発生的な現場や選手の盛り上がりが、改革には重要な要素であることを強調した。まさにJリーグや日本サッカー協会のトップ、さらに改革の必要に迫られていたバスケットボール界に請われ、Bリーグの立ち上げにも尽力した川淵氏らしい視点といえる。

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また、リーダーに必要な資質として「重要なのはコペルニクス的転回」「日本人は発想のスタートが全て現状」などと、常識を疑う姿勢や心構えなど精神面の重要性を熱く説き、バスケ界改革での苦労話などを披露。「スポーツ界は将来に向けて企画・立案できる優秀な人材の確保が最重要課題」と強く訴え、「地方創生」については「アリーナを中心に、そこに365日人が集うコンパクトシティ」の実現がカギと説明した。

鈴木長官は、まさに「国」の視点が多くを占めた。スポーツ庁が2017年から掲げる「スポーツ基本計画」といった大きな枠組やサポート体制に関する説明に力を入れ「日本のスポーツ市場は現在5.5兆円。これを2025年に15兆円にする」「空気を作ることが必要」など国の進める施策を強調。過去の成功事例や現在の取り組みを説明し、その中の一つの要素として「スポーツツーリズム」などによる「地方創生」に触れる形となった。池田氏とは対照的に、大学スポーツの新たな統括組織「大学スポーツ協会(UNIVAS)」が発足するタイミングだったが、大学スポーツと地方創生を絡めた話題はほとんど出なかった。

今回のイベント後、池田氏は物事を進めていく上で、主に2つの分類があることを説明した。それは「NPB(日本野球機構)型=プロ野球型」と「Jリーグ型」だ。

各球団それぞれが放映権など各施策を進めていく分権型のプロ野球に対して、サッカーはJリーグが各クラブを管理する中央集権型。川淵氏が大きなアリーナやスタジアムが街の賑わいを生み出すという「Jリーグ型」の発想を披露した一方、横浜DeNAベイスターズ時代に一つの球団、一つの街から「パイオニア」として球界全体、全国に“うねり”を生んだ池田氏は、中央の組織より各大学の力が強い学生スポーツ界の現状を踏まえ、地方創生においては「プロ野球型」に近い「大学が個別に頑張って、みんなが目指す成功モデルを作る」ことをカギに挙げた。その実績を見ると、それぞれの主張は納得感のあるものといえる。

ちなみに、3人が約1200人の聴衆に対して口にした締めの言葉も、それぞれの立ち位置がよく現れた興味深いものとなったので、最後に要旨を紹介したい。

川淵氏 「『コペルニクス的転回で考え方を変えてみろ』『夢を語れ』という話をさせていただいたが『そんなこと簡単にできるか』と皆さん、お思いでしょう。実は10年くらい前に与論島(鹿児島県)で講演をしてくれと言われて、夢を語らなくちゃとなったんです。そこでイタリアの小さな村の事例を紹介して『与論島にもサッカーのグラウンドくらい作って日本全国に発信するくらいのことをやってはどうか』と話したんです。『そんなことは実現できない』と本人も思いながら言ったんですよ。それが、芝のグラウンド、クラブハウスなどを今度(昨年2月)作ったんです。2億円かけて。これほど驚いた話はありませんね。夢を持てば何でも叶うという最高の例があるということをご承知おきいただければ、ありがたいと思います」

鈴木長官 「スポーツ界だけのスポーツではなく、皆さんがどんどん声を上げていただきたい。ケネディではないですが、国が何をするかではなくて、皆さんこそ主体となっていただきたい。それを受けて、われわれは精一杯サポートをさせていただきます。手伝えないことは手伝えないと言いますし、手伝えることは手伝います。何かあったらおっしゃってください。とりあえず『頑張れ』って言いますから」

池田氏 「『おらが街のスポーツ』『おらが街のチーム』は、絶対にどこでも作れます。ベイスターズも最初は全然、社員に熱もやる気もなくて、自分たちがすごくいいものを持っていると気付いていなかったんです。リーダーも大切ですけど、熱を高める上で自分たちが何を持っているか気付くことも大切です。そこに気付くとすごいものが作っていける。それぞれで『おらが街のスポーツ』『おらが街のチーム』がもっともっと盛り上がっていくと、日本ってもっと元気になるんじゃないかなと思います」


VictorySportsNews編集部