池田 「日本の現在の格闘技界を考える上で、欠かせないのが那須川天心選手の存在です。彼について、ONEはどのように捉えているのでしょうか」
秦 「彼は、すごく可能性のある選手なので、彼の思いと将来について何かしら接点があるようなら最適な場所を準備するのがわれわれの仕事だと考えています。非常にポテンシャルの高いファイターとして見ていますし、魅力的な選手です。ONE参戦に向けた交渉などは、まだこれからの段階ですが」
池田 「5年後くらいを見通して、ONEを日本の格闘技界でどのような存在まで持っていきたいと思っていますか」
秦 「触れていただける接点が増えればいいかなと思っています。ただ、イベントを開催するだけではなく、選手の育成なども含めてONEというブランドが日本において浸透していけばいいなと思っています」
池田 「Kー1、RIZINとは競合関係になるのでは」
秦 「あくまでも、一緒になって業界を盛り上げていくという意味で共存していく団体なのかなと思っています。ライバルとか、どっちが良い悪いとは考えていないですね」
ーー日本では1990年代にKー1、2000年代にPRIDEがブームになりました。一般化という意味ではどのような展望を持っていますか
秦 「一つは、やはり世界で優秀なスターが集まり出しているプラットフォームとして、日本の皆さんに知っていただくこと。もう一つは育成です。日本におけるスターをいかに育てるか。育てるだけではなく、実際に活躍する場をどう用意するか。その循環を競技面でも作っていく必要があります。単純に選手を他の団体から引き抜いたりするだけではなく、しっかりと得たものを還元していくことが大切だと考えています。ONEだけが潤うのではなく、関連団体が潤い、価値を高めていくことは大事なことではないかなと思っています。日本にも格闘技の歴史があるので、それを尊重しつつ、興行面の継続性が成り立つビジネスの構築も大事なのではないかなと」
ーー現状の日本の格闘技界をどう見ていますか
秦 「歴史がある一方で、いろいろな課題と向き合っていることはひしひしと感じています。ただ、それは逆にチャンス。ONEをきっかけにして大きなうねりを作れるかなと思っています」
ーー池田さんは現状の日本の格闘技界をどう見ていますか
池田 「以前、すごくブームになったKー1やPRIDEの時代があって、あの時代はびっくり箱のような世界観がありました。あれって、継続するのは大変だと思うんです。私はボクシングをやってきて、ずっと好きで見ているのですが、ボクシングもなかなか一般化しないなと思って見ています。井上尚弥選手のスパーリングとかも見させてもらっていますが、あれだけのスターが現れても、まだまだ一般化しない。カードによって年末に一時的に一般化するくらいで、根付かないなと。格闘技は、いろいろな団体がある中で、今後どういう風になっていくのだろうと。分かれ道に立っている感じがありますね」
ーーいろいろな団体が乱立していて入り口がわかりにくい印象があります
秦 「よく見るとピラミッド構造ができているのですが、その先々でいろいろな団体に分かれて細分化されてしまっています。そこをどうやって最大化するかですね。その中で、ONEは世界26億人が視聴できるというベースがあり、それを最大活用できれば、大きな循環の入り口にはなれると思います。さらに、実体のある、実績のある団体が日本に来るというのが一つのの大きなポイントでもあります。これだけ日本の格闘技界、マイナースポーツが飛躍しきれない中で、ONEのようなモデルをどう活用できるか。ONEには、そうした側面でも、秘めた可能性はあるかなと思っています」
ーーブームを作り、再興するという観点でいうと、池田さんはDeNA、プロ野球界でそれを実現してきた実績があります
池田 「いろいろな問題が格闘技界にはあると思います。全てを束ねる『世界連盟』みたいなものもないし、どの大会が世界に通じる道で、どれがナンバーワンを決める大会なのかが分かりにくい。いろいろな団体がお金で有力選手を引っ張りあったりして、そこがなかなか見えにくいですよね。そういう意味では、ONEが一つの『傘』になってくれるといいなあと期待しています。ONEが『傘』になってくれれば、格闘技の世界を変えるものになるのかなと思います。1年前にONEの日本上陸の話を聞いた時、巨大マネーが動くということで、大きな期待感を覚えました。いやらしい話かもしれませんが、やはりお金は重要な要素です。資本が大きい方が、いろいろなことができるのは当たり前の話。そこはビジネスをやっている人間からすると、一番重要な要素です。精神とかももちろん重要ですが、世界をまとめる『傘』を作るなら資本は不可欠だろうと。みんなが毛嫌いする話かもしれませんが、実はそこにこそ期待しているんです」
ーー分かりやすさをファンは求めている
池田 「アジア最大のマネーで動いている格闘技イベント。そう言われた方が、すごく分かりやすいですよね。そう言われた方が、みんなが興味を持つんじゃないかなと思います。1年前に話を聞いた時も、そこに私は大きな興味を抱きましたから」
ーー『巨大マネー』は確かに刺さるワードですね
池田 「日本人って、人事とお金の話が大好きですからね(笑)」
秦 「私も、日本人としてこの話を聞いた時にいわば衝撃を受けました。今回、取り組もうと決めた背景には、前職のニールセンスポーツが数字を提供している側であり、この数字をフル活用しているのがONEという団体だったことがあります。26億人がテレビやライブストリーミングで視聴可能であるというリーチがあり、世界140ほどの国や地域で見られているとか、ファンの80%がミレニアル世代(2000年代に成人になる世代)で70%以上が大卒であるとか、そういった数字、データを使っている団体なんです。それをしっかりとキャピタリズム(資本主義)に乗せて、ダイナミックに展開している。まさに池田さんがプロ野球でやられたような、業界を変えていく、うねりを起こすというチャンスを、自分は今回、格闘技でもらったと思っています。
昨年の日大の危険タックル問題で、自分自身がアメフトをやってきたこともあり、メディアに出る機会が増えました。そこで、スポーツ界が抱える問題を肌で感じたんです。より透明性が求められる時代が来た、ブラックボックスが暴かれる時代が来たのかなと。これからの時代は、透明性を持って、いかに資金が集まる仕組みを作れるか。それは格闘技だけではなく、いろいろな競技に転用できる。ONEを通じて、スポーツのいい流れを日本に持ち込み、伝えていく。それこそが、もう一つの大きなアジェンダ(課題項目)ではないかなと思っています。
ベイスターズの動きを見ていても、それは感じますよね。進化する仕組みを作っていかないと、日本は2020年東京五輪・パラリンピックの後に、どんどんと萎んでいってしまいます」
ーー最後にONEの今後に向けてメッセージをお願いします
秦 「ポスターにも出ているのですが、テーマは『A NEW ERA 新時代』です。『新時代』という言葉の重みは、われわれにとって非常に大事なことです。しっかり過去から学び、みんなで新たな時代を作っていきたいと思っています。3月31日は、あくまで船出です。ONEに来場や視聴で触れていただいて、われわれがどんなことをやろうとしているのか少しでも感じていただければと思っています。いよいよ、ここからがスタートです」
ーー池田さんはONEの今後にどのような期待を
池田 「ONEは日本での格闘技のイメージを変えてくれるほどの実績があり、資本の力もある団体です。スポーツの世界ではサッカーにしろ野球にしろ、世界のさらに上のレベルのリーグなどが存在する環境においては、日本においても、資本によって選手も集まり、リーグの価値を向上させ、新しい世界が作れる可能性がまだまだあります。1年前に聞いた時から、これまでと違う格闘技の世界を日本で見せてくれるのではないかと期待してきました。まず3月31日、会場にうかがわせていただいて、体験させていただこうと思っています」
※本対談は3月31日の開催日前に行われました。
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池田 純(いけだ・じゅん)
1976年生まれ。横浜市出身。早大商学部を卒業後、住友商事、博報堂などを経て2007年にディー・エヌ・エーに執行役員として参画。11年12月にプロ野球横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に就任。史上最年少の球団社長として黒字化実現、ハマスタのTOBによる一体経営を実現。退任後は日本プロサッカーリーグ アドバイザーや明治大学学長特任補佐兼スポーツアドミニストレーター等を歴任。現在はさいたまスポーツコミッション会長、有限会社プラスJオーナー(plus-j.jp)、大戸屋ホールディングス社外取締役などを務め、主にスポーツ改革の実践家として活躍中。
秦 アンディ 英之(はた・あんでぃ・ひでゆき)
1972年生まれ。米フィラデルフィア出身。明大を卒業後、ソニーで働く傍らアメリカンフットボール選手としてアサヒビールシルバースターで日本一を経験。同社に2012年まで在籍し、国際サッカー連盟(FIFA)とのパートナーシップなどグローバル戦略の構築を担当する。スポーツデータリサーチ会社のニールセンスポーツ日本法人の代表を経て、2019年1月にONEチャンピオンシップ・ジャパン社長に就任。
アジア発、巨額投資マネーで成長を続ける格闘技イベントONEがついに日本初上陸!日本での成功はあるのか?
アジアで人気を急激に拡大しているスポーツイベントが日本にやって来る。2011年にシンガポールで第1回大会が行われ、タイ、ベトナム、ミャンマーなど東南アジアで国民的人気を得ている総合格闘技「ONEチャンピオンシップ」が、3月31日に東京・両国国技館で日本初開催される。