DAZNと最初に契約したプロ野球の球団は、横浜DeNAベイスターズだった。当時社長だった池田氏は、「ネットの時代が必ずくる」、「ネットでの映像と情報接触がファン拡大の最大のチャネルになる時代が必ず来る」と確信していたという。

「かつて“巨人大鵬卵焼き”と言われた時代は、テレビ中継といえば巨人戦だった。巨人はテレビという巨大メディアにおけるプロ野球の映像情報環境を制する立場にあったことで、全国的なファンと人気を獲得していった。そして時代の潮流はテレビからネットに変わりつつある。そこで私は4年前にいち早くDAZNと契約し、スマホでもベイスターズの試合を見られるようにしたのです。当時にも公表していましたが、“ネットではじめて接するプロ野球はベイスターズ”、といった文化と環境を構築しようと考えていました」

たしかに、いまもハマスタには他球団に比べて多くの若者が押し寄せている。これは新生横浜DeNAベイスターズになってから、ネット中継含めたインターネット戦略を強化し、ネットでの映像情報環境やネットでのニュースなど、ネットにおける情報接触の取り組みを強化する戦略を採用したからだというのは、スポーツ界では周知の事実だ。

興味深いのは、今回の巨人軍とDAZNの契約は、単なる試合の配信だけではないという点。交渉は4年前から続いていたといい、「DAZNが巨人のオフィシャルスポンサーになり、原辰徳監督がダゾーンのアンバサダーに就任」、「読売新聞オンラインへのDAZNからの映像提供」、「全国の読売新聞販売店がDAZNのユーザー拡大に協力」というかなり包括的な契約だ。現在のプロ野球の各球団の平均的放映権料は、年間15〜20億円程度といわれ、巨人の場合はその倍以上だという説もある。グループ関係メディア各社を説得するためにDAZNはその金額以上を支払っている可能性もある。まさにできる限りの条件を提示して、読売グループ側全体を説き伏せたと、その概要からもとらえることができる。読売グループとしても時代の流れであるネットを無視することはできなかったはずだが、日テレ製作の映像をつかったり、販売店を巻き込む条件をつけることで、4年間かかってようやくグループ内での調整ができたのではないだろうか。

莫大な資金をつかってまで巨人のネット配信を実現したDAZN側にも目論見はある。これまでもJリーグの全放映権を10年間2100億円で獲得するなど、大盤振る舞いをしてきたDAZN。実は彼らはイギリス本国ではブックメーカーとしてスポーツベッティングを大きな収入源としている。今後日本でIRが解禁されたとき、スポーツ中継を握っていれば大きな利益を生み出す可能性が高い。そこまで見越していないとこれだけの投資はできないのかもしれない。

今年中には、あらゆる情報がリアルタイムになるといわれる5G(次世代通信回線)がスタートすると言われ、ますますネットでの映像情報環境の飛躍的進化の可能性が高まる。

「今回のニュースを聞いて、ついに巨人が満を持して、ネットの世界での覇者の立ち位置を奪還すべく動き出したと感じました。やはりプロ野球の雄は、最後の最後に満を持して登場する。来るべき時代が来たという、畏怖のような感覚すら覚えたのはベイスターズ側にいた私だけでしょうか」

池田氏が数年前倒しで築いたネットにおけるベイスターズの優先的状況が、巨人の登場によって、どう変わっていくのか。プロ野球の全試合を観るためには2球団、広島とヤクルトとの契約が残されている。巨人との契約成立で、DAZNは、ネットでの映像を拡散し、情報を拡散し、ネットの情報接触を高めるためのインフラ、必需品になれるのか。ネットでのファン拡大のための、映像情報環境、情報環境のゆるぎない覇者となれるのか。

「いずれにしてもプロ野球の発展にとっては素晴らしいことだと思います。これを機に各球団はネット環境でのリーチをさらに拡大していく必然性に気づいていくべきでしょうね」

スポーツ観戦もいよいよ新時代に突入することになりそうだ。



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部