事の発端は、5月17日発売の写真週刊誌「FRIDAY」が「リハビリ中にゴルフ満喫」と題して掲載した記事だった。松坂は雑誌発売前に加藤宏幸球団代表に報告。 その後「軽率な行動により、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」などと謝罪する事態となった。

松坂は昨季、テストを受けた末に中日に推定年俸1500万円で入団。6勝(4敗)を挙げ、オールスターに出場してカムバック賞を受賞するなど、久々にマウンドで輝きを見せた。今季は推定年俸が8000万円まで上がり、さらなる前進が期待されていたが、2月の春季キャンプ中にファンとの接触が原因で古傷の右肩を痛めて離脱。復帰に向けてリハビリを続けている最中、今回の騒動が起こった。

このSNS時代、松坂は多くの批判、非難にさらされた。さらには「もちろん嘘ついて治療に行かず、ゴルフならダメですが記事内では治療を受けていないとは書いてないです。治療の前後なら全く問題ないという認識です」と擁護の発言をツイッターで発信した米大リーグ、カブスのダルビッシュ有投手にまで批判の矛先が向く結果となった。

この一連の流れについて、池田氏は「球団がどのようなルールを定めているのか知っているわけではないので、良い悪いを判断することはできません」と断った上で、経験を踏まえて、球団や組織に問題が起こった時の自身の対処法、考え方を説明した。

「偶像崇拝というか、ヒーローは聖人君子であるべきという週刊誌などの報道の仕方に流されないというのは、球団として重要なことだと思います。もちろん、プロ野球チームは団体行動なので、他の特に若手選手やチームに波及させないことは大切なことです。ルールを破っているのだとしたら、内部的にはしっかりと何らかの処分なり、注意をしないといけません。ただ、それを外向けにそっくりそのまま公表する必要があるかは慎重に考える必要があります。例えば不倫のような深刻なスキャンダルなら別ですが、松坂選手が出演しているお茶のCMもそのまま問題なくテレビで流れていますよね。ベテラン選手はそもそも、練習日を休養に充てることも多く、ゴルフをしたことがルールに明記された違反でなかったのだとしたら、わざわざペナルティーを課すことにも疑問がありますし、社会的に見たら、そもそもそれくらいの案件だと考えることもできるのではないでしょうか」

池田氏は球団社長時代、新入団選手に喫煙を禁止し、一定以上の活躍を3年続けるまでは選手寮を出ることを許さないなど、それまで緩かったルールを厳格化し、それは当時のメディアでも話題となった。決して選手を甘やかしてきたわけではなく、逆にリーダーとして「規律」「厳しさ」をチームにもたらした経営者でもある。

「問題は起こるものという前提で考えていました。起こった時にどうするか。想像力を働かせて、事前にルールを作るんです。世の中の論調に惑わされず、どういう文化のチームをつくりたいかでルールを決めました。ベテランは自分で考えるべきという思いも私にはありましたが、ルールに違反したならペナルティーを与えるのは当然のことです。しかし、ルール違反でないのだとしたら、社会の声などに惑わされるべきではなく、内部で選手とマンツーマンでしっかりと話して、終わり、です」

つまり、今回のペナルティーが事前に定められたルール、規則によるものなのかが重要というのが池田氏の見解だ。過去にどんなに偉大な成績を残してきたベテランといえど、無断で練習をさぼってゴルフに行ったのなら処分されて然るべき。ただ、今回の松坂はチームを離れて関東の主治医の診察を受けることを許可されており、その間の練習を休むことは当然球団から許されていた。「リハビリ中にゴルフか」「他の選手が練習している間に遊んでいるとは何事か」と思わずエキサイトしてしまいがちな話題だが、もともと練習には参加しない前提だった中で、チームを離れている間の行動について、松坂と球団サイドがどのような約束事を交わしていたかに全てを委ねるのが、フェアな対処の仕方とも考えられる。

「一般の会社員でも海外出張でゴルフ道具を持っていったら怒られるし、私はサーフィンが趣味なのですが、仕事で出掛ける先にサーフボードを持っていけば白い目で見られます。私にとっては毎朝のランニングみたいなものなのに、です。出張中も24時間張り詰めていなければいけないわけではないですよね。メンタルのリフレッシュは必要です。これがゴルフではなく、それこそランニングだったり、囲碁・将棋だったりすれば、どうでしょう。今回、チーム練習を休むことが決まっていた松坂選手が、治療の合間に家族と遊園地に行っていたら問題になったでしょうか。ゴルフというものへの世間のイメージが、厳しい論調を生んでいる側面もあると思います。社会の声に惑わされて“さじ加減”一つでペナルティーを与えてはいけないということです。一方で、明確にルールに違反したのなら、ペナルティーを科すのは妥当なことです」

騒動直後には、今季初めて打撃投手を務めるなど1軍復帰に向けて着実に歩みを進めている松坂。もちろん、その注目度や置かれた現状を自身が冷静に考える必要はあっただろう。ただ、SNSなどに批判、非難が渦巻き、その匿名性などから他者への寛容さが極端になくなっているともいわれるのが、この平成から令和に改まった時代の特徴でもある。今回の“ゴルフ騒動”から見えるのは、世の中の論調に惑わされず、どう目指す方向性、指針を毅然と示せるかが、組織やそのリーダーに問われる時代だということかもしれない。


VictorySportsNews編集部